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第三章『不条理な十日間~闇に潜む赤い十文字』
エピローグ
しおりを挟むエピローグ
首都ウータムに到着したのは、暗殺者捕縛の翌々日になった。
ミロス公爵と出会って、約十日――正確にはもうちょっと過ぎたかもだけど、そんなことはどうでもいい。
やっと――やっと解放されるという安堵感が、俺の全身に満ちていた。
怪我が癒えてないから商売は無理でも、管理などはできるから――と思っていたら、ミロス公爵が直々に、俺とアリオナさんを呼びに来た。
町中では策略的なことはしないだろうが、公爵家の屋敷に入れば、その限りではない――という危険性もある。
最悪、《力》を全力で使うかもしれない――そんな覚悟を抱きながら、俺はミロス公爵の誘いに応じた。
アリオナさんと共に厨房馬車でウータムの大通りを進むと、先導するミロス公爵の馬車は貴族たちの暮らす区画へと入って行く。
この辺りまで来ると、人々の層が町中とは変わっていた。その殆どは使用人たちで、貴族階級の者たちは馬車での移動ばかりだ。
「クラネスくん、あれ」
アリオナさんが指を向けた先には、ミロス公爵の馬車にある後部の窓から、マリオーネが顔を覗かせていた。
その顔はどこか不安げだったが、今の俺たちには状況が起きるまで、なにもできることはない。
馬車は屋敷のあいだをひたすら進んでいた。このまま行けば、王城へと入ってしまう。そんな俺の危惧を余所に、馬車は王城へと入って行った。
開かれた大きな門を通り抜けるあいだ、俺は生きた心地がしなかった。やがて玄関口の前で停まると、俺たちは公爵の従者や騎士たちに連れられて、王城の中に入った。
そこで、ミロス公爵と城の使用人やらと、どんな話があったのか、俺は知らない。正直、周囲の気配や〈舌打ちソナー〉に集中していて、そこまで気が回らなかったんだ。
城の使用人たちは俺とアリオナさんを取り囲むと、「あ」という間に、とある部屋の中へと連れ去ってしまったんだ。
「なに、心配するな」
ミロス公爵はそう言うが、そんなの無理だ。《力》で中の様子を伺ってみても、アリオナさんの悲鳴などは聞こえてこないけど……。
やきもきしながらしばらく待っていると、部屋の扉が音もなく開いた。
出て来たのは、見たこともない美姫だった。
真紅のドレスに、白い長手袋。金髪の髪は綺麗に纏められ、額の上には銀製と思しきティアラが乗っていた。
薄化粧をして、エメラルドらしい飾り石のあるペンダントや、銀製の腕輪で着飾った彼女は、頬を赤く染めていた。
上目遣いに俺を見てくるその仕草には、どこか見覚えが――。
「あの……クラネスくん」
俺は名を呼ばれて、始めて目の前の美姫が、アリオナさんだと理解した。
これは一体、どういうことかのか――状況が理解できない俺が振り返ると、ミロス公爵は破顔した。
「うむ。これで少しは、溜飲が下ったというものだ」
「ええっと……」
「まあ、詫び代わりだと思ってくれればよい。それに、おまえが貴族製を廃するつもりだろうと、正装は無駄にならん。今後、様々なところで必要になるだろう。アリオナのためにもなるだろうしな。持って行け」
「……ありがとうございます。有り難く、頂戴致します」
「うむ。おまえが目標を果たすことを期待す――るわけにはいかぬがな。それでも健闘努力する様を、少しは祈っておくとしよう。ああ、マリオーネは、わたしたちが送って行くから心配するな」
それだけを告げると、ミロス公爵は去って行った。
俺たちも馬車に戻ろうとしたけど、アリオナさんは少し残念そうだ。
「……なんか、脱ぐのが勿体ない気がする」
「でも、その格好は目立つからね……」
俺は苦笑しながら、アリオナさんと並んで王城をあとにした。厨房馬車の中で着替えて貰うとして……どこに収納しておこう?
ユタさんと相談して、片づけなきゃ。そんなことを考えながら、俺は厨房馬車の御者台に昇った。
*
クラネスたちが王城を去る様子を、ミロス公爵は窓から眺めていた。
そこへ、金髪を緩やかに束ねた女性が近づいていった。薄緑色のドレスに、銀製のティアラ。イヤリングや指輪、腕輪など、数々の装飾品で着飾っている。
その女性は、ミロス公爵へ微笑みながら、少し意地の悪い目を向けた。
「公爵様? わたしくしのお古を欲しいだなんて――誰か浮気相手でも見つけなさったの?」
「おお、これはエルサ姫。久しぶりの再会だというのに、酷い言われようをなさる。わたしはただ――甥っ子のために欲しただけです」
「あらまあ、これは失礼。甥っ子とは――」
エルサ姫と呼ばれた女性は、窓から外を見た。
そこでは、クラネスが苦労をしながらドレス姿のアリオナを厨房馬車に上げている様子が見えていた。
「彼が甥っ子殿なんですのね。面白いかたなのかしら?」
「それはもう! 暗殺者や魔物――隊商の長をしてはおりますが、数々の敵を打ち破ってきた実力者でございます」
「ふぅん、なるほど。公爵様が気に入りそうな子ですわね」
微笑みながら、エルサ姫は再び窓の外を見た。
厨房馬車の御者台に上がって手綱を操るクラネスへ、彼女は興味津々な眼差しを向けていた。
完
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
というわけで、エピローグで御座います。
このエピローグにきて、大きなミス……いえ、テキストファイルに起こしてセーブしたつもり……になってました。ええ。完全にやらかしです。
というわけで、最後の最後に締まらねーなあな展開(リアル)です。
次回につきましては、順番にプロット作成をしていきますので、しばしお待ち下さいませ……某「手伝い屋」がまだ終わってないんです(大泣
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回も宜しくお願いします!
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