不思議な夏休み

廣瀬純七

文字の大きさ
11 / 14

トイレでの日常

しおりを挟む

バイトの休憩時間、ビーチの裏手にある仮設トイレ。
健一の体に入った香織と、秀樹の体に入った愛は、水分をしっかり摂っていたせいか、同時に「トイレ行こっか」と立ち上がった。

「あーもう限界」
「うん、私も……急ご」

仮設の男子用トイレのドアを開けて、慣れた手つきで中へ入る二人。
手洗い場の横に並ぶ小便器を前に、迷いもなくそれぞれ立ち位置についた。

……ちゃぽ、ちゃぽ。

波の音と、遠くで鳴る子どもたちの歓声。
その合間に響く、ごく普通の“水の音”。

誰もいないのを確認して、ふたりはふっと息を吐いた。

「……ふぅ~~~~~~~~~……」

一息ついた香織が、隣の愛に目をやる。
愛もまた、真顔で“仕事中”だった。

「……ねぇ、愛」
「ん?」

「私たち、もう……普通に立ってしてるよね」

「…………」

「しかも、めっちゃ自然に」

「………………うん、なんかもう、座るって選択肢が頭にない」

ふたりは数秒間沈黙したあと――

「ぷっ……」
「ふふっ……」
「なにこの光景!」
「女子高生二人が、男子の体で、並んで立って用を足してるとか、シュールすぎでしょ!」

笑いが込み上げてきて、思わず肩を震わせる香織。
愛もつられて、くすくすと笑いながら続けた。

「しかもさ、最初のころは“見ないように”って意識してたのに、今ふつうに平気だし」
「わかる。感覚的には“身体の一部”って感じ。これ、慣れって怖いね……」

「てかさ、男子って毎日これしてるんだよ? こんな感じで気軽に外でもできて、ある意味ズルくない?」
「ほんとに。キャンプのときとかこれ最高じゃん」

ふたりは肩を揺らしながら、再び笑った。
トイレの中とは思えないほど、明るい笑い声だった。

---

用を足し終え、しっかりチャックを閉めながら香織が言った。

「……でもこれ、女の子の姿に戻ったら、座るのぎこちなくなりそう」
「逆カルチャーショックだよね。女子トイレで『あれ?私なんか物足りない……』とか思いそう」

二人は笑いながら手を洗い、仮設トイレをあとにした。

潮風がまた、涼しく吹き抜けた。

---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純七
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

パパと娘の入れ替わり

廣瀬純七
ファンタジー
父親の健一と中学生の娘の結衣の体が入れ替わる話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...