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トイレでの日常
しおりを挟むバイトの休憩時間、ビーチの裏手にある仮設トイレ。
健一の体に入った香織と、秀樹の体に入った愛は、水分をしっかり摂っていたせいか、同時に「トイレ行こっか」と立ち上がった。
「あーもう限界」
「うん、私も……急ご」
仮設の男子用トイレのドアを開けて、慣れた手つきで中へ入る二人。
手洗い場の横に並ぶ小便器を前に、迷いもなくそれぞれ立ち位置についた。
……ちゃぽ、ちゃぽ。
波の音と、遠くで鳴る子どもたちの歓声。
その合間に響く、ごく普通の“水の音”。
誰もいないのを確認して、ふたりはふっと息を吐いた。
「……ふぅ~~~~~~~~~……」
一息ついた香織が、隣の愛に目をやる。
愛もまた、真顔で“仕事中”だった。
「……ねぇ、愛」
「ん?」
「私たち、もう……普通に立ってしてるよね」
「…………」
「しかも、めっちゃ自然に」
「………………うん、なんかもう、座るって選択肢が頭にない」
ふたりは数秒間沈黙したあと――
「ぷっ……」
「ふふっ……」
「なにこの光景!」
「女子高生二人が、男子の体で、並んで立って用を足してるとか、シュールすぎでしょ!」
笑いが込み上げてきて、思わず肩を震わせる香織。
愛もつられて、くすくすと笑いながら続けた。
「しかもさ、最初のころは“見ないように”って意識してたのに、今ふつうに平気だし」
「わかる。感覚的には“身体の一部”って感じ。これ、慣れって怖いね……」
「てかさ、男子って毎日これしてるんだよ? こんな感じで気軽に外でもできて、ある意味ズルくない?」
「ほんとに。キャンプのときとかこれ最高じゃん」
ふたりは肩を揺らしながら、再び笑った。
トイレの中とは思えないほど、明るい笑い声だった。
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用を足し終え、しっかりチャックを閉めながら香織が言った。
「……でもこれ、女の子の姿に戻ったら、座るのぎこちなくなりそう」
「逆カルチャーショックだよね。女子トイレで『あれ?私なんか物足りない……』とか思いそう」
二人は笑いながら手を洗い、仮設トイレをあとにした。
潮風がまた、涼しく吹き抜けた。
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