不思議な夏休み

廣瀬純七

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№1の香織と№2の愛

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「えっ……香織ちゃん、今週の売上、トップです!」

バイト終わりのメイド喫茶「メルティ・ドリーム」のバックルーム。
店長の叫び声に、店内にいたメイドたちがどよめいた。

香織になった健一がメイド喫茶で「香織」として働きはじめて数日。
店内ではいつしか、彼?彼女?の飾らない態度と抜群の気配りが「男ウケ最強」と話題になっていた。

「オムライスのケチャップ、今日も完璧でした~♡」
「香織ちゃん、チェキありがとう! 今日も笑顔が天使だった~」
「俺、香織ちゃんのグッズ全部コンプした!」

香織のグッズといっても、ミニ缶バッジやアクリルスタンド程度。
だが、彼女の自然な仕草とほんのり照れた対応が“守ってあげたい感”をくすぐったらしく、男性ファンの心をがっちり掴んでいた。

一方――

「はい、ご主人さま♡ 今日も素敵です♡」

……やたら甘々でアイドルみたいな接客をしているのは、「愛」の姿をした秀樹(※中身は男子)。
最初はキャラに苦戦していたものの、元演劇部の実力を発揮し、今では“ぶりっ子メイド”として独自の地位を確立していた。

「愛ちゃん、今日も語尾にハートついてた!」
「くせになる……」
「おれ、逆にああいうのがいい……」

そして、その二人が今週のグッズ売上ランキングを独占してしまったのだった。

1位:香織
2位:愛
3位:結衣

---

#### バックヤードにて

「マジで……? おれが……一位……?」
香織(健一)は、缶バッジを見つめて呟いた。

自分の“顔”が、笑顔でピースしているアクリルスタンド。
その横には「No.1メイド・Kaori★」の文字。

「こんなの……香織本人に見せられない……ッ」

隣で愛(秀樹)も、ぐったりと肩を落としていた。

「……俺、気づいたら“愛ちゃんポーズ”をナチュラルにやってた……。腰に手当てて、ピースに小首かしげて……」

「それ、完全にキャラ入ってるだろ……!」

「でもさ……お客さん、喜んでるんだよ? なんか、癖になるって言われて……」

「……俺たち、何を極めてるんだろうな……」

二人は深いため息をついたが、その顔にはどこかやりきった感もあった。

---

#### 翌日、本人たちが来店

健一の姿の香織と秀樹の姿の愛が、こっそり「見学」に訪れた。

店の隅の席から、目の前で自分の“姿”が働いている様子を見つめる。

「……あれ、私? 私……めっちゃ人気出てない?」
「秀樹……あんた……何してんの。猫耳つけてポーズとかしてない?」

香織は、ピンクのツインテに猫耳をつけて「にゃんにゃん」している“自分”を見て、頭を抱えた。

愛は、メイド服であざとく笑う“自分”に目を逸らしていた。

「……秀樹、演技力高すぎ!」
「……健一、素で可愛すぎ!」


---

#### エピローグ

バイト終了後、健一と秀樹がそれぞれ“香織と愛の制服”を畳んでいると、店長がにっこり笑って声をかけてきた。

「いや~、君たち、才能あるよ! 今度グッズ追加発注しとくね!」

「………………」

香織(健一)と愛(秀樹)は、黙って制服のフリルを直しながら思った。

(香織に……なんて説明しよう……)
(俺たち、この夏で色んな意味で成長してないか……?)

店内には、明日発売される新作「ボイスチェキつき!香織&愛 夏限定セット」のポスターが貼られていた。

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