不思議な夏休み

廣瀬純七

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ファミレスで

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夏休み、日曜の昼下がり。
郊外のファミリーレストラン「ガーデンリーフ」の窓際席。
四人の高校生……もとい、“四人の中身が入れ替わった高校生たち”が、冷たいドリンクバーを片手に向き合っていた。

「……うわ、何このメンツ。見た目だけ見たらダブルデート?」
そうぼやいたのは、**健一の姿の香織**。

「変なこと言わないの。こっちはこの夏いろいろ大変だったんだから」
そう返すのは、**香織の姿の健一**。すっかり“香織のボイス”も板につき、姿勢も女の子っぽくなっている。

「そうそう。あんたたち二人、夏のアイドルになってんだから」
言葉にチクリと刺があるのは、**秀樹の姿の愛**。

「……何の話?」
香織(in健一)がストローでコーラを混ぜながらとぼける。

「とぼけないでよ!メイド喫茶『メルティ・ドリーム』の売上ランキング、今週も香織が1位、愛が2位。グッズ完売、ボイスチェキ争奪戦、ツイッターで“地元の天使たち”ってバズってたわよ!」

「……知ってたけど、見ないふりしてた」
秀樹(愛)がため息をつく。

「そもそもさー」
愛(in秀樹)が身を乗り出す。

「あんたたち、稼ぎすぎじゃない?こっちライフガードで汗だくになって1日5000円くらいなのに、メイド服着てチェキ撮って、笑顔振りまいて、時給倍以上って何よ!」

「いやいやいや、それ言うなら」
香織(in健一)があわてて手を振る。

「そもそも私たち、元はメイド喫茶で働く予定だったの! だからこれは“元の予定に戻った”だけ!」

「予定に戻った香織(中身:健一)くんは、**なぜグッズ売上No.1になってるんでしょうか?**」
「う……そ、それは……なりゆきで……」

「てか、秀樹(中身:愛)、お前も“あざとさ全開”でメイドやってんだろ」
秀樹(in愛)は紅茶をすすりながら涼しい顔で言った。

「職務だよ。演技として、全力を尽くしただけ」
「チェキ撮影で“お兄ちゃん、また来てくれてうれちいの~♡”って言ってた動画、見たけど?」

「……っ!! だ、誰が撮った!? 通報案件だぞ!?」

「いや、それがバズってるの」
健一(in香織)がスマホを出して、某SNSを見せた。

《#メルティの天使たち》
《香織ちゃんのナチュラル彼女感最高》
《愛ちゃんのあざとさは罪》
《推し活が人生の意味になった》

秀樹(in愛)は頭を抱えた。

「この夏、なにしてんだろう……俺……」

---

注文していたチョコパフェとパンケーキが届くと、みんな少し機嫌を直した。

「……ま、でもさ」
香織(in健一)が口にクリームをつけたまま言う。

「入れ替わって、相手の立場になるって……意外と面白いよね。色んな意味で学びがある」

「女の子の“笑顔で愛想振りまく大変さ”は、身に染みた」
健一(in香織)がしみじみ。

「男子の“無神経さ”と“暑さに鈍感なとこ”も」
愛(in秀樹)は腕を組んでうなずいた。

「で? そろそろ戻る方法、見つかったの?」
秀樹(in愛)が一番冷静に尋ねる。

四人は顔を見合わせて、黙った。

「……とりあえず、夏休み終わるまで、続けてみようか」
「うん、いけるとこまで、やってみるか」

---

ファミレスの窓の外、照りつける夏の陽射し。
蝉の声が響く中、四人の“中身がズレた高校生”たちは、ちょっとだけ特別な夏を生きていた。

「……で、今日もメイド喫茶? グッズ補充しとけよ?」
「はいはい、“ご主人さま♡”って言ってくるわ……」

またひとつ、思い出が増えた。

---


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