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親友の咲良
しおりを挟むいつもの通学路。街路樹の葉が風に揺れ、朝の陽射しが歩道にまだら模様をつくっている。
角を曲がった先で、咲良が手を振っていた。淡いベージュのカーディガンに、制服のスカートが揺れている。中田香織は、それに気づいて小さく笑った。
「おはよ、咲良」
「やっぱり、今日は香織だね!」
そう言って咲良は、ひょいっと一歩前に出て香織の顔をのぞき込む。咲良は、香織と薫の両方を知っている、唯一の親友だ。
「今日は私の体たけど、さっき薫と交代しようかちょっと迷ったのよ」
「えー、それダメだよ! 女の子同士だから香織の方が話してて楽しいもん」
「勝手なこと言うなぁ。でも……ありがと」
香織は苦笑しながらも、心の奥があたたかくなるのを感じていた。誰にも言えなかった「秘密」を、咲良だけは受け入れてくれた。驚きはしたけれど、否定も拒絶もせず、「そっか、そういうこともあるんだね」と、ごく自然に頷いてくれた。
「でもさ、正直すごいよね。一つの体で二人分って。しかもどっちも性格ぜんぜん違うし。たまに『双子の演技してるだけ』って思われても仕方ないよ、ふふ」
「まあね……でもそれだけ、私と薫の違いがちゃんとあるってことかな。私たち、自分の存在がちゃんと分かれてるって、証拠なのかも」
香織はそう言いながら、どこか遠くを見るように空を見上げた。雲ひとつない青空が広がっていた。
咲良が、ふっと笑った。
「じゃあさ、今日は一日“香織”と過ごすってことでいいんだね?」
「ええ、よろしくお願いします、“親友”さん」
二人は笑い合いながら歩き出す。中田香織の一日が、静かに、けれど確かに始まっていった。隣に、心から信頼できる存在を感じながら。
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