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新しい洋服と下着
しおりを挟む湯上がりの脱衣所は、白い湯気がまだほんのり漂い、二人の頬を赤らめていた。タオルで髪を拭きながら、隆司の姿をした美咲がにやりと笑う。
「じゃあ、試してみよっか!」
リビングに持ち込んだ紙袋を開けると、今日ショッピングモールで買ったワンピースやブラウス、そして――ランジェリーの袋が顔を覗かせる。思わず二人は同時に袋を見つめ、そして顔を見合わせて、声を揃えて笑った。
「……やっぱり、ちょっと恥ずかしいな」
美咲の姿をした隆司が、タオルで頬を隠しながらつぶやく。
「今さらでしょ? お店であんなに堂々と選んでたくせに」
隆司の低い声で笑いながら、美咲は袋の中から水色の下着セットを取り出した。蛍光灯の下でやけに鮮やかに映える。
「はい、まずはこれ!」
「えっ、いきなりそっち!?」
隆司が目を丸くする。
「服の前に下着から着けるのが基本でしょ?」
「いや、まあ……そうだけど……」
結局押し切られる形で、二人はお互い背中を向けて着替え始めた。カサカサと袋から取り出す音、布を身にまとう気配。静かなリビングに、妙に生々しい音だけが響く。
「な、なんか……変な感じだな」
隆司は鏡に映る自分――正確には美咲の身体に、可愛らしい水色の下着をまとった姿を見て、思わず頬を押さえた。
「意外に似合ってる……って、自分で言うのも変だけど」
「ほらね、私が選んだんだから!」
振り返った隆司(美咲の体)は、シンプルなワンピースの下に白いキャミソールを着ている。長身に柔らかい服が不思議と映えて、まるでモデルのように見えた。
「すっごく似合ってるよ!」
「からかわないでくれよ……」
そう言いつつも、隆司はまんざらでもなさそうに鏡を見直した。
次は買った洋服に袖を通していく。隆司(美咲の体)は女性らしいワンピースに腕を通すと意外にすっきり見えることに驚いていた。
「へえ……着てみると、案外悪くないんだな」
隆司(美咲の体)はブラウスとスカートに身を包み、照れながら裾を引っ張っていた。
「うわ……なんか、風通しが良すぎて落ち着かないな」
「スカートってそういうものよ。でも可愛い!」
「やめろって……!」
鏡の前に立つ美咲の姿の隆司は普段の姿とはまるで違う。だが不思議としっくりきて、鏡に映る自分の姿を見ながら、くすりと笑った。
「なあ……本当に変な夫婦だよな、俺たち」
「うん。でも、それが楽しいじゃない」
そう言って二人は笑い合いあった。
その姿はきっと、どこから見ても“普通じゃない”。けれど当人たちにとっては、こんな体験もまた二人だけの秘密であり、宝物になりつつあった。
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