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会議の後で
しおりを挟む長い会議がようやく終わり、資料を片付けながら美咲(隆司の姿)は大きく息を吐いた。
(はぁぁ……終わった……。もう頭パンパンよ……。LINEがなかったら絶対バレてたわ……)
スマホをそっとポケットにしまい、何食わぬ顔で立ち上がろうとしたその瞬間。
「ねぇ、山本くん」
背後から、聞き慣れた声がした。振り返ると――佐藤夏美。
美咲の元同僚であり大親友、けれど今は「同僚の隆司」として彼女に接しなければならない。
「は、はいっ!?」
美咲は思わず裏返った声で返事をしてしまう。
夏美は首をかしげつつ、柔らかく微笑んだ。
「今日の会議、なんだか変だったね。山本くん、いつもならバリバリ意見言うのに……今日は全然発言しなかったし。しかも時々、すごく挙動不審だったよ?」
(ああぁぁぁ……やっぱり見られてた……!)
内心で頭を抱えながらも、表情だけは必死に保つ。
「え、ええと……その……」
苦し紛れに言葉を探し、ようやく絞り出す。
「……ほら、昨日ちょっと寝不足で。えっと、その、体調が……あまり……」
夏美はじっと見つめてくる。長年一緒に働いた間柄だけに、その視線はごまかしを許さない鋭さを持っていた。
(うぅ……この目、懐かしいけど、今は怖すぎる!)
だが次の瞬間、夏美はクスッと笑った。
「ふふっ、そうだったんだ。じゃあ今日は無理しないでね。美咲ちゃんにもよろしく伝えてよ」
「え、ええ! もちろん!」
美咲は思わず大きく頷いたが、次の瞬間心臓が飛び出しそうになった。
(“美咲ちゃんにもよろしく”って……! 私が美咲なんだけどぉぉ!)
顔が引きつるのを必死に隠しながら、そそくさと会議室を後にする美咲。
廊下に出た途端、スマホを握りしめて心の中で叫んだ。
(隆司、助けて! この仕事、やっぱり大変すぎるよ~~!)
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