入れ替わり夫婦

廣瀬純七

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「SPA」って何!?

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 会議室の空気は張り詰めていた。
 長机の上には資料の束とノートパソコン。前方のスクリーンにはシステム構成図が映し出され、リーダーの説明が矢継ぎ早に続く。

「……以上の要件に基づいて、フロントエンドのSPAをReactベースに置き換える方向で検討します」

 カタカタとノートPCを打つ音が一斉に響く中、隆司の姿をした美咲は――完全に固まっていた。

(え、今なんて言ったの? エスピーエー? スパ? 温泉の話じゃないわよね……!?)

 必死に資料に目を走らせても、そこに並ぶ単語は暗号の羅列にしか見えない。
「Kubernetes」「CI/CD」「負荷分散」……聞いたことはある気がするけれど、どれがどれだかさっぱりだ。

(や、やばい! これ、ぜんぜんわからない!)

 焦りを隠そうと平静を装いつつ、机の下でスマホをそっと開いた。画面には「美咲(※中身は隆司)」とのLINE。

 すぐさま指が走る。

> 美咲助けて!「SPA」って何!?

 送信して数秒後、スマホが震えた。

> (美咲の体の隆司)
> Single Page Application! 1ページで動くアプリのこと! 温泉じゃない! 落ち着け!

「温泉じゃない」まで書かれていて、思わず吹き出しそうになり、慌てて咳払いでごまかす。

 しかし会議は容赦なく進む。

「……それと、バックエンド側はAPI Gatewayを経由してマイクロサービス化します」

 またもや美咲は硬直。
(えっ、ゲートウェイ? マイクロ……なに?)

 机の下で再び猛打。

> APIゲートウェイって何よ!? どういう門なの!?

 すぐ返ってくる。

> サービス同士の入り口まとめるやつ! 門っていうか受付! 変なこと聞かれても笑ってうなずいておけ!

 必死に小さく頷き、周囲に怪しまれないようにする。が、すぐ次の波。

「……次はデータベースの冗長化についてですが――」

(じょ、冗長化? それって……冗談が長いことじゃないわよね!?)

 スマホを握り直し、再び入力。

> 冗長化って何⁉ 冗談が長いこと!?

 即レス。

> 違う‼ システム止まらないように予備を持つ仕組み! 笑うな! 真顔キープ!

 必死に顔を引き締める美咲。しかし隣の席の同僚がチラリとこちらを見た気がして、冷や汗が背中を伝う。

(ああもう! どうしてよりによって私が隆司の仕事に……!)

 机の下でLINEの通知は鳴り止まず、そのやり取りは会議が終わるまで延々と続いた。

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