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朝のメイク
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翌朝。
鏡の前で髪を結び直しながら、優衣はため息をついていた。
(やっぱり朝の支度って、男子のときより時間かかるな……)
ブラウスのボタンを留めるのにも、スカートのプリーツを整えるのにも、まだ手際が悪い。
制服姿は鏡越しに見るとそれなりに様になっている――はずだが、なんだか落ち着かない。
階段を降りて台所に向かうと、テーブルには朝食が用意されていた。
トースト、スクランブルエッグ、サラダ。
すでに新聞を広げている父と、スマホをいじる母。そして――
「おはよー、優衣」
「おはよ、優美」
ソファに腰掛けていた姉・優美が、にやっと笑った。
大学生にして、朝からやけにテンションが高い。
優衣が席に着き、トーストにかじりついたその瞬間――
「優衣! ちゃんとメイクしないと、彼氏の優斗君に嫌われるわよ!」
「ぶふっ!?」
盛大に牛乳を吹きかけるところだった。
「な、な、何言ってんの!? 彼氏じゃないし!」
「昨日だって一緒に帰ってきたんでしょ~? 家の前で楽しそうにおしゃべりしてさ~、あれ完全に青春の香りだったよ?」
「ち、違うってば! 隣の家だから一緒になっただけで――」
「はいはい、言い訳はもういいから。さ、こっち来なさい!」
「え、なにその急展開――」
返事を聞く前に、優美はガタッと立ち上がり、化粧ポーチを手に優衣の腕を引っ張った。
「ほら、座って。眉毛整えて、ちょっと色つけるだけで印象変わるんだから!」
「いやいやいや、私まだ初心者で――」
「大丈夫! 私に任せなさい!」
椅子に押し込まれた優衣は、抵抗もむなしく、顔をぐいっと持ち上げられる。
「まずは眉~。……おお、形は悪くないね。でも薄いからちょっと足して……はい、次チーク!」
「うわっ、なんか顔が熱っ――」
「ほら、笑って! ニッコリ!」
「え、あ、こ、こう?」
「うんうん、その調子~。ほら可愛いじゃん!」
(うわ~~なんだこれ~~! 中身おっさんなのに女子力イベント発生してる~~!)
「はい、最後にリップ! これ塗るだけで顔色明るくなるんだから!」
「え、でもこれちょっとピンクすぎない?」
「男子はこういうの好きなの!」
「だから彼氏じゃないってば!」
塗り終わった優美は、鏡を優衣の前に差し出した。
「じゃーん! 我ながらいい出来!」
鏡の中には――ほんのり頬が色づき、唇に艶を帯びた女子高生が座っていた。
それは確かに、昨日までよりも少し大人びて見える。
「……なんか、別人みたい」
「でしょ? これで優斗君もイチコロよ!」
「イチコロにする予定ないから!!」
口では否定しながらも、優衣は鏡から目を離せなかった。
(……もし、これであいつが驚いたら……ちょっとだけ、面白いかも)
そんな小さな悪戯心を胸に、優衣の2日目の朝は始まった。
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鏡の前で髪を結び直しながら、優衣はため息をついていた。
(やっぱり朝の支度って、男子のときより時間かかるな……)
ブラウスのボタンを留めるのにも、スカートのプリーツを整えるのにも、まだ手際が悪い。
制服姿は鏡越しに見るとそれなりに様になっている――はずだが、なんだか落ち着かない。
階段を降りて台所に向かうと、テーブルには朝食が用意されていた。
トースト、スクランブルエッグ、サラダ。
すでに新聞を広げている父と、スマホをいじる母。そして――
「おはよー、優衣」
「おはよ、優美」
ソファに腰掛けていた姉・優美が、にやっと笑った。
大学生にして、朝からやけにテンションが高い。
優衣が席に着き、トーストにかじりついたその瞬間――
「優衣! ちゃんとメイクしないと、彼氏の優斗君に嫌われるわよ!」
「ぶふっ!?」
盛大に牛乳を吹きかけるところだった。
「な、な、何言ってんの!? 彼氏じゃないし!」
「昨日だって一緒に帰ってきたんでしょ~? 家の前で楽しそうにおしゃべりしてさ~、あれ完全に青春の香りだったよ?」
「ち、違うってば! 隣の家だから一緒になっただけで――」
「はいはい、言い訳はもういいから。さ、こっち来なさい!」
「え、なにその急展開――」
返事を聞く前に、優美はガタッと立ち上がり、化粧ポーチを手に優衣の腕を引っ張った。
「ほら、座って。眉毛整えて、ちょっと色つけるだけで印象変わるんだから!」
「いやいやいや、私まだ初心者で――」
「大丈夫! 私に任せなさい!」
椅子に押し込まれた優衣は、抵抗もむなしく、顔をぐいっと持ち上げられる。
「まずは眉~。……おお、形は悪くないね。でも薄いからちょっと足して……はい、次チーク!」
「うわっ、なんか顔が熱っ――」
「ほら、笑って! ニッコリ!」
「え、あ、こ、こう?」
「うんうん、その調子~。ほら可愛いじゃん!」
(うわ~~なんだこれ~~! 中身おっさんなのに女子力イベント発生してる~~!)
「はい、最後にリップ! これ塗るだけで顔色明るくなるんだから!」
「え、でもこれちょっとピンクすぎない?」
「男子はこういうの好きなの!」
「だから彼氏じゃないってば!」
塗り終わった優美は、鏡を優衣の前に差し出した。
「じゃーん! 我ながらいい出来!」
鏡の中には――ほんのり頬が色づき、唇に艶を帯びた女子高生が座っていた。
それは確かに、昨日までよりも少し大人びて見える。
「……なんか、別人みたい」
「でしょ? これで優斗君もイチコロよ!」
「イチコロにする予定ないから!!」
口では否定しながらも、優衣は鏡から目を離せなかった。
(……もし、これであいつが驚いたら……ちょっとだけ、面白いかも)
そんな小さな悪戯心を胸に、優衣の2日目の朝は始まった。
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