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優衣と優斗
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昼休みのチャイムが鳴り、教室は一気にざわめきに包まれた。
弁当のフタが開き、友達同士の会話が飛び交うなか、優衣はそっと窓際の席に目を向けた。
(……あの席……)
それは、昔――つまり、“男子としての中島優斗”だった頃に座っていた場所だ。教室の後ろから二番目、窓際のポジション。誰にも気づかれずボーッとしていても目立たない、居心地のいい孤独の席。
(懐かしいな……あの頃、あの場所で何を考えてたっけ)
と、その時。
「……は?」
優衣の目が止まった。
そこには、**自分が知っている“中島優斗”が座っていた。**
身長170センチちょっと、やや猫背。髪はボサボサ、目は眠たげで、姿勢の悪さも相変わらず。ブレザーの下にはよれたシャツ。机に肘をついて、半分寝かけている。
(えっ……えっ!? なにこれ!? ちょっ、ちょっと待って!?)
思わず席を立ちかける優衣。
だが手足が震えて動けない。頭の中が真っ白になる。
(あれ、俺じゃね? いやいや、でも俺は今“私”で……じゃあ、あいつ誰だよ!?)
そのとき、木村咲良がのほほんと隣に来た。
「どうしたの、中島さん?」
「えっ、あ、いや……ちょっとデジャヴっていうか……」
「へぇ~。あ、ちなみにね、あの男子、確か中島くんって名前だった気がする。優斗くん、だっけ?」
(うわああああ名前まで同じィィ!!)
ついに優衣の脳内では、警報が鳴り響き始める。
(ちょっと待て、ちょっと待て。これ、もしかして――**過去の自分が、この世界にいる!?**)
つまり、サプリで「過去に戻る」ことはできたが、**自分のいた時代に“別の自分”として新しく生まれ直した**だけで、元の優斗は“そのまま存在している”ということ……?
(まじかよ、俺と俺が同じクラスにいるってことか!? 何このSF展開!?)
そのとき、あちらの中島優斗(オリジナルVer.)が何かに気づいたように、こちらをちらっと見た。
目が合った――ような気がした。
けれど彼は、眠そうな顔のまますぐに目をそらし、また机に突っ伏した。
(……俺、今の俺のこと、気づいてない……よな?)
優衣はそっと胸を撫で下ろしながら、冷や汗だらけの額を拭った。
(いやいや、落ち着け……こっちの俺はあの時点では“木村咲良”に話しかけられることもなかったはず……ってことは、**世界線が分岐してる!?**)
「中島さんって、ほんとおもしろいね~」
咲良の無邪気な声が、まるで救いの鐘のように響く。
(――いいや、いいか。今の私は“中島優衣”。あっちの俺には、関係ない)
彼女の笑顔を見て、優衣は小さく微笑んだ。
過去と未来が交差する教室の中で、自分の“今”を大切にしようと決めたのだった。
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弁当のフタが開き、友達同士の会話が飛び交うなか、優衣はそっと窓際の席に目を向けた。
(……あの席……)
それは、昔――つまり、“男子としての中島優斗”だった頃に座っていた場所だ。教室の後ろから二番目、窓際のポジション。誰にも気づかれずボーッとしていても目立たない、居心地のいい孤独の席。
(懐かしいな……あの頃、あの場所で何を考えてたっけ)
と、その時。
「……は?」
優衣の目が止まった。
そこには、**自分が知っている“中島優斗”が座っていた。**
身長170センチちょっと、やや猫背。髪はボサボサ、目は眠たげで、姿勢の悪さも相変わらず。ブレザーの下にはよれたシャツ。机に肘をついて、半分寝かけている。
(えっ……えっ!? なにこれ!? ちょっ、ちょっと待って!?)
思わず席を立ちかける優衣。
だが手足が震えて動けない。頭の中が真っ白になる。
(あれ、俺じゃね? いやいや、でも俺は今“私”で……じゃあ、あいつ誰だよ!?)
そのとき、木村咲良がのほほんと隣に来た。
「どうしたの、中島さん?」
「えっ、あ、いや……ちょっとデジャヴっていうか……」
「へぇ~。あ、ちなみにね、あの男子、確か中島くんって名前だった気がする。優斗くん、だっけ?」
(うわああああ名前まで同じィィ!!)
ついに優衣の脳内では、警報が鳴り響き始める。
(ちょっと待て、ちょっと待て。これ、もしかして――**過去の自分が、この世界にいる!?**)
つまり、サプリで「過去に戻る」ことはできたが、**自分のいた時代に“別の自分”として新しく生まれ直した**だけで、元の優斗は“そのまま存在している”ということ……?
(まじかよ、俺と俺が同じクラスにいるってことか!? 何このSF展開!?)
そのとき、あちらの中島優斗(オリジナルVer.)が何かに気づいたように、こちらをちらっと見た。
目が合った――ような気がした。
けれど彼は、眠そうな顔のまますぐに目をそらし、また机に突っ伏した。
(……俺、今の俺のこと、気づいてない……よな?)
優衣はそっと胸を撫で下ろしながら、冷や汗だらけの額を拭った。
(いやいや、落ち着け……こっちの俺はあの時点では“木村咲良”に話しかけられることもなかったはず……ってことは、**世界線が分岐してる!?**)
「中島さんって、ほんとおもしろいね~」
咲良の無邪気な声が、まるで救いの鐘のように響く。
(――いいや、いいか。今の私は“中島優衣”。あっちの俺には、関係ない)
彼女の笑顔を見て、優衣は小さく微笑んだ。
過去と未来が交差する教室の中で、自分の“今”を大切にしようと決めたのだった。
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