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女子高生デビュー
しおりを挟む始業式を終え、教室に戻った中島優衣――いや、元・中島優斗は、机に突っ伏して混乱していた。
「ま、マジで女子になっちまった……」
声は高くて柔らかいし、スカートの裾がふとももに触れるたび、心臓が跳ねる。何より、クラスメートの男子たちの視線がやたらこそばゆい。
(おいおい、俺をそんな目で見るな! 中身はおっさんだぞ!?)
ガチガチに緊張しながら顔を上げたその時――
「ねえ、友達になろうよ!」
背後から、やけに明るい声が飛び込んできた。
「……へ?」
振り返ると、そこには見覚えのある少女が立っていた。
大きな瞳、柔らかな栗色の髪、ほんのり笑った口元。
間違いない。かつて高校時代に、優斗が密かに憧れていた存在――**木村咲良**。
(えっ!? サ、咲良!? ここにもいるの!?)
しかも彼女は今、自分に――いや、“女子になった自分”に向かって笑いかけている。
「初めまして、中島さんだよね? なんかさ、初日から一人でボーっとしてたから声かけてみた!」
(わ、わぁ……! その笑顔……全然変わってない……!)
優斗改め優衣は、動揺をごまかすようにヘラヘラ笑う。
「あ、えっと……うん、ありがと……う?」
(なんだこの語尾!? “ありがと……う?”って何!? もっと自然にしろ俺! じゃなかった私!)
「えへへ。なんか、かわいい言い方するんだね~」
咲良がくすっと笑って、机の前にぴょこんと座った。
その瞬間、優衣の頭の中は完全にパニックだった。
(ちょ、ちょっと待て! 憧れの咲良と今から“友達”になるのか!? しかも、俺は今、女子で――いや、ちょっと待て落ち着け、落ち着け!)
「ところでさ、中島さんって趣味ある? アニメとか? お菓子作りとか?」
「ア、アニメは……昔は、ね……」
(咲良はオタク女子NGだった気が……でも今はどうなんだ!?)
「へえ~! 私もめっちゃ観るよ! 最近は異世界転生モノとか、TSモノとか好き!」
(ブハッ!? TSモノって今の俺そのものじゃねーか!!)
「え、えー、そ、そうなんだー」
声が裏返る。
思わず咳払いでごまかす。
咲良は気にする様子もなく、楽しそうに笑いながら続ける。
「なんかさー、中島さんってちょっと“中身おじさん”っぽいとこあるよね!」
(グサッッッッ!!)
「えっ!? な、なんで……そう思う?」
「んー、なんか言葉選びとか、リアクションとか?」
(やべえ、バレてる!? 初日から性別詐称疑惑!?)
だが、咲良はにこっと微笑んで、言った。
「でも、そういうとこも面白くて好き。なんか、安心するし」
(え、え、好きって、何その好き!? どの好き!? “うっかり友達になっちゃったクラスメイトのノリ”か!? “お姉ちゃん的な意味の好感”か!?)
ドキドキしすぎて胸が苦しい。これはもう恋なのか、それともかつての記憶が騒いでるだけなのか――。
「じゃあさ、また明日一緒にお昼食べよ?」
「……うん! よろこんで!」
返事した瞬間、自分の声がワントーン跳ねていることに気づいて、優衣は顔を真っ赤にした。
(お、俺……いや、私は、咲良と……“友達”になっちまった……!)
こうして、“元男子高校生・現女子高生”の優衣は、憧れの咲良とまさかの女子同士の友情をスタートさせるのだった。
…
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