127 / 137
旦那様は魔王様≪最終話≫
記憶 2
しおりを挟む
――今度はあなたが、兄上のためにどうするかを、選択する番です。
沙良はベッドの上に座って、クラウスの言葉を反芻していた。
手の中にはクラウスから渡された小瓶がある。
これを飲むと、仮死状態になるらしい。仮死状態というものがどういう状態なのか沙良にはちっともわらかなかったが、なんとなく言葉の響きから危険そうな気がする。
(でも……、忘れた記憶が探せるって言ってた)
同時に、失敗すれば二度と目覚めないかもしれないとも言っていたけれど。
沙良はどうしていいのかわからずに、部屋を照らす光に小瓶をかざす。小瓶は光に透かすとキラキラと輝いてとてもきれいだ。
「あら、沙良ちゃん、それなぁに?」
「あ、ミリアム」
セリウスが沙良の周りをうろつかなくなって、ミリアムは自分の部屋に戻っていたが、沙良の部屋に頻繁に訪れるのは相変わらずだった。
寝ようと思っていたけれど眠れそうになかったので、ミリアムが来てくれたのはちょうどよかった。
ミリアムはベッドの端に腰を下ろすと、沙良の手元を興味津々な様子で覗き込んでくる。
眠る前なのだろうか、胸元の大きく開いた夜着を身に着けているミリアムは同性の沙良の目から見てもひどく扇情的で目のやり場に困るが、当の本人はちっとも気にしていない様子で、沙良から小瓶を受け取ると小首をかしげた。
「綺麗な小瓶ね。なんだかどこかで見たことがある気がするけど」
「クラウス様にもらいました」
「お兄様に? ……あーっ、思い出したわ! お父様がお兄様に持たせた小瓶よ!」
ミリアムはそう言ったあと、何か嫌なことを思い出したように眉間に皺を寄せた。
「どうしたんですか?」
ミリアムから小瓶を返してもらいながら、沙良が不思議そうに訊ねる。
「ちょっとむかつくことを思い出したのよ」
「嫌なこと?」
ミリアムは足を高く組むと、その上に頬杖をついた。
「そう。聞いてくれる? お母様ったらね、クラウスお兄様に子供ができやすくなるお茶を持たせたのよ! それで、この前文句を言いに行ってきたんだけど、そうしたらなんて言ったと思う? 『ミリーちゃん。子供は若いうちに産んだ方が楽なのよ』ですって! わたしはまだ充分若いわよ! つーか、五百歳を超えて子供を産んだ人にそんなこと言われたくはないわ! わたしはまだ百歳どころか五十歳にもなってないわよ!」
よほど腹立たしかったのか、ミリアムが天井を仰いで「きーっ」と叫ぶ。
いろいろ次元が違いすぎてついて行けない沙良は曖昧に笑った。
そして、ふと思う。ミリアムもそうだが、力の強い魔族は長寿だと聞いたことがある。と言うことはシヴァももっともっと長く生きるのだろう。
(わたしだけ年を取って、一緒にいられるのなんて、シヴァ様にとっては、すごく短い時間なんだろうな……)
そして、沙良がいなくなったら、シヴァは沙良のことなど忘れてしまうのだろうか。
そう考えると、心が苦しくなって、沙良は胸の上をおさえる。
(……忘れられるのって、苦しい……)
想像するだけで苦しい。それならば、今、沙良はどれほどシヴァを苦しめているのだろうか。
沙良は小瓶を見つめる。
ミリアムがまだ腹立たし気に愚痴を言っていたが、沙良の耳にはもう内容は入ってこなかった。
沙良はベッドの上に座って、クラウスの言葉を反芻していた。
手の中にはクラウスから渡された小瓶がある。
これを飲むと、仮死状態になるらしい。仮死状態というものがどういう状態なのか沙良にはちっともわらかなかったが、なんとなく言葉の響きから危険そうな気がする。
(でも……、忘れた記憶が探せるって言ってた)
同時に、失敗すれば二度と目覚めないかもしれないとも言っていたけれど。
沙良はどうしていいのかわからずに、部屋を照らす光に小瓶をかざす。小瓶は光に透かすとキラキラと輝いてとてもきれいだ。
「あら、沙良ちゃん、それなぁに?」
「あ、ミリアム」
セリウスが沙良の周りをうろつかなくなって、ミリアムは自分の部屋に戻っていたが、沙良の部屋に頻繁に訪れるのは相変わらずだった。
寝ようと思っていたけれど眠れそうになかったので、ミリアムが来てくれたのはちょうどよかった。
ミリアムはベッドの端に腰を下ろすと、沙良の手元を興味津々な様子で覗き込んでくる。
眠る前なのだろうか、胸元の大きく開いた夜着を身に着けているミリアムは同性の沙良の目から見てもひどく扇情的で目のやり場に困るが、当の本人はちっとも気にしていない様子で、沙良から小瓶を受け取ると小首をかしげた。
「綺麗な小瓶ね。なんだかどこかで見たことがある気がするけど」
「クラウス様にもらいました」
「お兄様に? ……あーっ、思い出したわ! お父様がお兄様に持たせた小瓶よ!」
ミリアムはそう言ったあと、何か嫌なことを思い出したように眉間に皺を寄せた。
「どうしたんですか?」
ミリアムから小瓶を返してもらいながら、沙良が不思議そうに訊ねる。
「ちょっとむかつくことを思い出したのよ」
「嫌なこと?」
ミリアムは足を高く組むと、その上に頬杖をついた。
「そう。聞いてくれる? お母様ったらね、クラウスお兄様に子供ができやすくなるお茶を持たせたのよ! それで、この前文句を言いに行ってきたんだけど、そうしたらなんて言ったと思う? 『ミリーちゃん。子供は若いうちに産んだ方が楽なのよ』ですって! わたしはまだ充分若いわよ! つーか、五百歳を超えて子供を産んだ人にそんなこと言われたくはないわ! わたしはまだ百歳どころか五十歳にもなってないわよ!」
よほど腹立たしかったのか、ミリアムが天井を仰いで「きーっ」と叫ぶ。
いろいろ次元が違いすぎてついて行けない沙良は曖昧に笑った。
そして、ふと思う。ミリアムもそうだが、力の強い魔族は長寿だと聞いたことがある。と言うことはシヴァももっともっと長く生きるのだろう。
(わたしだけ年を取って、一緒にいられるのなんて、シヴァ様にとっては、すごく短い時間なんだろうな……)
そして、沙良がいなくなったら、シヴァは沙良のことなど忘れてしまうのだろうか。
そう考えると、心が苦しくなって、沙良は胸の上をおさえる。
(……忘れられるのって、苦しい……)
想像するだけで苦しい。それならば、今、沙良はどれほどシヴァを苦しめているのだろうか。
沙良は小瓶を見つめる。
ミリアムがまだ腹立たし気に愚痴を言っていたが、沙良の耳にはもう内容は入ってこなかった。
11
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる