次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら

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第10話 永遠の幸福へ


 セリーヌとの再会からさらに季節が過ぎ、王都には再び花の季節が訪れていた。街路樹には薄桃色の花が咲き誇り、人々は笑顔で春の祭りの準備に追われている。あの日、涙とともに踏み出した第一歩が、今では穏やかで確かな日常へとつながっていた。

 朝、王宮の中庭を散歩していると、メアリが慌ただしく駆け寄ってきた。彼女の手には、分厚い一通の書状が握られている。

「レティシア様! こちらをご覧くださいませ!」

「どうしたの?」

「王国評議会からの正式な勅書です。“王妃陛下による民政協議会”の創設が認可されました!」

 思わず足が止まる。あの「民の声を直接聞き、政策に反映させる」というわたしの提案が、ついに正式な制度として認められたのだ。

「……本当に?」

「はい! しかも王陛下の直筆で、『これは王妃の手腕なしには実現しなかった』との記述もございます!」

 胸が熱くなる。
 かつて「何をしても無駄」と言われ、声すら届かなかったわたしの意見が、今や王国を動かす仕組みの一部になっている――それは、夢を超えた現実だった。

「……ここまで来られたのね」

「ええ、レティシア様はもう、誰にも届かない存在ではありません。人々の未来を導く、王国の“柱”ですわ」

 メアリの言葉に、目の奥がじんわりと熱くなる。
 涙をこらえながら空を見上げた。青空はどこまでも澄み渡り、どこまでも高く、広がっていた。



 昼過ぎ、王宮の書斎に戻ると、アレクシスが机に向かって書類に目を通していた。いつものように穏やかな表情で、わたしを見るとすぐに微笑みを浮かべる。

「見ましたよ、民政協議会の件。おめでとうございます、レティシア」

「ありがとうございます。まさか本当に制度になるなんて、今でも信じられませんわ」

「あなたの力です。……私がこの国の王でいられるのは、あなたが隣にいてくれるからだ」

 アレクシスは書類を置き、ゆっくりと歩み寄ってくる。その目は、最初に出会った頃と同じ優しさを湛えていたが、そこに宿る信頼と愛は、今でははるかに深いものだった。

「レティシア、あなたは気づいていないでしょうが、民はあなたを“光の王妃”と呼んでいるのですよ」

「……光の、王妃?」

「ええ。どんな闇の中でも民の声を聞き、手を差し伸べる存在――それがあなたです」

 言葉が胸に沁みて、思わず涙がこぼれそうになる。
 “いじめられっこ”と呼ばれ、誰からも見向きもされなかったあの頃。
 そのわたしが、今は“光”と呼ばれているなんて――。

「……それは、わたしだけの力ではありません。あなたが信じてくれたから、ここまで来られたんです」

「信じたのは、あなたがどんなに傷ついても前へ進む人だったからです。あの日、涙を流しても立ち上がったあなたを、私は一瞬たりとも見失わなかった」

 そっと手を取られる。その手の温もりは、どんな栄光よりも大切なものだった。



 その夜、王宮のバルコニーから街を見下ろしていると、遠くで花火が上がった。祭りの前夜を祝う花火だ。夜空に咲く光の花は、あの日のランタンのように未来への希望を映しているようだった。

「レティシア、考えたことはありますか?」

「何をですか?」

「この先、どこまで共に歩けるか、ということです」

「ええ、考えますわ。……でも、どんな未来でも、あなたとなら大丈夫だと思えるのです」

「それが聞きたかった」

 アレクシスが笑い、そっと抱き寄せる。
 星空と花火の光が、彼の横顔をやさしく照らしていた。

「あなたと出会えたことが、私の人生の奇跡です。これからも、どんなときも隣で笑っていてください」

「もちろんです。どこまでも、どこまでも、共に歩んでまいります」



 夜風が頬を撫でる。
 思えば、この道は“ざまあ”から始まった。嘲笑に耐え、屈辱を乗り越え、ただ「見返したい」という一心で歩き続けた道だった。
 けれど今、わたしは気づいている。――本当の勝利は、誰かを打ち倒すことではない。
 “愛される自分”として、胸を張って生きること。それこそが、わたしの人生が辿り着いた答えなのだ。

 あの日の涙も、嘲笑も、すべてはこの幸福へと続く道だった。
 今なら、心からそう思える。

「ねえ、アレクシス。わたし、明日からの未来が楽しみで仕方ないのです」

「私もですよ。あなたとなら、きっとどんな未来も素晴らしいものになる」

「ええ。だって、わたしたちの物語は、まだ始まったばかりですもの」

 星空の下で手を握り合う。
 もう、過去の影はどこにもない。ただ、永遠へと続く光だけが、わたしたちの前を照らしていた。



 かつて、いじめられ、笑われ、踏みにじられた少女は――
 今、王国の“光”として、人々の未来を導いている。

 かつて、高慢にふるまい、他人を見下ろしていた令嬢は――
 今、静かな場所で過ちを悔い、やり直す道を歩み始めている。

 そして、かつて“ざまあ”を夢見ていた物語は――
 今、“愛と誇り”を胸に歩み続ける物語へと、静かに姿を変えていった。

 手と手を取り合い、微笑み合いながら、わたしたちは歩き出す。
 これからの未来は、まだ誰も知らない。
 でも確かなことがひとつある――

 ――わたしたちは、ずっと一緒に、幸せを創っていく。
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