悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第五十八話 最終衝突

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 雪が深く降り積もる王都の広場。人々の吐息は白く凍りつき、誰もが息を潜めていた。壇上に立つ王太子殿下の姿は、もはやかつての硝子の微笑をまとった姿ではなかった。
 瞳には焦燥と怒りだけが宿り、その声は剣のように鋭かった。

 「クラリッサ! そして弟よ! お前たちは国を乱した反逆者だ! 今ここで断罪する!」

 殿下の合図と共に兵が動き出す。だが群衆は動じなかった。彼らの中には既に「自由の令嬢」を支持する者たちが多く混ざっていたからだ。

 ◇

 「皆さま!」
 わたしは一歩前に進み、声を張り上げた。
 「わたしは罪人ではありません。……檻を拒んだだけです!」

 広場に響く声に、民の瞳が揺れる。
 「自由を選ぶことが罪ならば、わたしは喜んでその罪を背負います! 檻に戻ることだけはいたしません!」

 群衆の中から拍手が広がり、やがて怒号に変わって兵の動きを押しとどめた。
 ――「クラリッサ嬢を守れ!」
 ――「檻を拒むのは罪じゃない!」

 ◇

 「兄上!」
 レオンハルトが剣を抜き、壇上に進み出る。
 「彼女は罪人ではない! 自由を選んだ勇気を、罪と呼ぶのなら、真の罪はあなたの方だ!」

 殿下が怒りに燃えて剣を抜く。鋭い音が響き、二人の刃が交わった。
 「裏切り者め!」
 「裏切りではない! 私は国の未来を選んでいる!」

 火花が散り、群衆が息を呑む。

 ◇

 そのとき、わたしは前に進み出た。白いハンカチを高く掲げ、声を放つ。
 「殿下! 檻の中で民を縛る未来は、もう終わりです! わたしは檻に戻りません。……そして、この国も戻りません!」

 群衆が一斉に叫んだ。
 「檻を壊せ!」
 「自由を選べ!」

 兵士たちも動きを止め、剣を下ろす者が現れ始める。殿下の権威は、人々の声に押し潰されていった。

 ◇

 「クラリッサ……!」
 殿下の瞳が揺らいだ。もはや怒りだけではなかった。焦燥と、敗北の色。
 レオンハルトが剣を突きつけ、静かに告げる。
 「兄上。終わりです」

 殿下の剣が床に落ち、金属音が広場に響いた。

 ◇

 その瞬間、群衆から歓声が巻き起こった。
 「自由だ!」
 「クラリッサ嬢が勝った!」

 人々の声は雪の夜空を突き抜け、国を揺らした。

 ◇

 夜。新居の窓辺で、白いハンカチを胸に抱きしめながら星を見上げた。
 「……俯かずに立てた」

 背後からレオンハルトが抱き寄せ、低く囁く。
 「クラリッサ。君は檻を拒んだだけじゃない。国を自由へ導いた」
 「ええ。わたしは檻には戻りません」

 彼の温もりが胸に広がり、未来の光が鮮やかに輝いた。

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、王太子との最終衝突を越え。

 ――国に、真の自由の始まりを示した。
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