悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第五十九話 慈悲の決断

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 雪の降りしきる広場で、王太子殿下の剣は床に落ちた。
 その金属音は長く響き渡り、やがて群衆の歓声にかき消された。
 ――「自由だ!」
 ――「檻は壊れた!」
 ――「クラリッサ嬢が国を救った!」

 けれど、その喧噪のただ中で、わたしは殿下の俯いた姿を見つめていた。かつて檻の中に閉じ込めようとした人。硝子の微笑をまとい、わたしを「悪役」と断じた人。

 その瞳に宿っていたのは、もはや怒りではなく、疲れ果てた影だった。

 ◇

 「殿下を拘束いたします!」
 兵士たちが前に出ようとした瞬間、わたしは声を上げた。
 「お待ちなさい!」

 群衆がざわめき、兵士たちが足を止める。
 「殿下を討つことは容易いでしょう。けれど、それでは檻の鎖と同じです。……力で縛るのではなく、自由を示さねばなりません」

 殿下が顔を上げ、驚いたようにわたしを見つめた。

 ◇

 「クラリッサ……」
 レオンハルトが低く囁く。「慈悲を示すつもりか」
 「ええ。檻に戻らぬと誓ったのなら、殿下にすら檻を与えてはなりません」

 彼はしばし黙し、やがて誇らしげに頷いた。
 「……君らしい答えだ」

 ◇

 翌日、王宮に重臣たちが集められた。殿下の処遇を巡って、議論は紛糾した。
 「処刑すべきだ!」
 「いや、幽閉でよい!」
 「権威を完全に潰さねば再び混乱する!」

 空気は重く、刃のように尖っていた。

 その中でわたしは立ち上がり、声を放った。
 「皆さま。……殿下を檻に閉じ込めるのは簡単です。ですが、それでは国は変わりません。自由を選ぶなら、殿下にも生きていただきましょう。檻ではなく、ただ人として」

 静寂が広間を満たす。重臣たちが顔を見合わせ、やがて一人が小さく頷いた。

 「……それこそ、新しい国の姿かもしれぬ」

 ◇

 結論は下された。
 ――王太子殿下は退位し、王位継承権を剥奪。
 ――ただし命は奪わず、遠方の修道院で余生を送ること。

 ◇

 夜。新居の寝室で、レオンハルトと並んで月を見上げていた。
 「クラリッサ。君の慈悲が、国を変えた」
 「いいえ。……檻を拒むと誓っただけです」
 「その誓いが、人々に未来を見せたんだ」

 彼が優しく抱き寄せる。温もりが胸に広がり、涙が滲んだ。
 「レオン。わたしは檻には戻りません。あなたと共に、この国の未来を歩みます」
 「ありがとう。君となら、どんな未来でも越えていける」

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、慈悲をもって最後の決断を下し。

 ――国に真の自由と、新たな秩序を示した。
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