48 / 85
48話 激動の三か月(3)
しおりを挟む
「オレガノ様は追放されたのですか?! あんなに人気者だったのに?!」
騎士オレガノ様が貴族社会から消えたことを知らせると、デイジーは目を丸くしました。
「どうしてですか?!」
「彼は地位も権力もないただの騎士だったもの。当然の結果よ」
ダリアさん、アイリスさん、ピオニーさん、エリカさんが平民に落とされた後。
国内はそぞろに乱れることとなりました。
まずエリカさんの元婚約者だった騎士オレガノ様が早々に消えました。
オレガノ様は騎士をクビになったのです。
オレガノ様に婚約破棄されたエリカさんの父クテナンテ伯爵とその派閥が「婚約者の女性を裏切ったオレガノ・ポトスは騎士道精神に反した。よって騎士にふさわしくない」と王家に猛抗議しました。
これにアイリスさんの父である財務大臣ドラセナ侯爵と、アイリスさんの伯父である宰相ディセントラ伯爵、そしてピオニーさんの父カポック伯爵も加勢しました。
彼らの抗議により、オレガノ様は騎士の位を剥奪されました。
「お父様が言ってたことを、クテナンテ伯爵様が実行したんですか?」
悪夢の夜会で、私たちの父エンフィールド公爵が「騎士をクビにしてやる」とオレガノ様を脅していたことを覚えているデイジーが、私に質問しました。
「そう。たかが騎士をクビにする程度なら、伯爵家にだってできることだもの」
「騎士の位って、国王陛下から与えられているものじゃないんですか?」
「そうよ。でも政治力があれば国王陛下を動かせるの」
国王陛下がオレガノ様から騎士の位を剥奪したのは、クテナンテ伯爵側に「騎士道精神に反する」という大義名分があったことと、宰相や財務大臣の派閥もこれを押したこと、対するオレガノ様は何の後ろ盾もないためクテナンテ伯爵の主張に反論する者がいなかったことによります。
「オレガノ様はエリカさんと婚約破棄をして、ご自身の後ろ盾だったクテナンテ伯爵を切り捨てて、敵に回してしまわれたのですもの。当然の結果よ」
オレガノ様は悪夢の夜会で、父に脅されて浮足立ち、即座に婚約破棄を宣言しましたが、あれは愚挙でした。
エンフィールド公爵の権威を恐れたのでしょうが、あのときオレガノ様はご自分の後ろ盾を切り捨ててはいけなかったのです。
これは同じく婚約破棄をした他の三人にも言えることですが、父に脅されたからといって、後ろ盾を即座に背中から撃ったのは愚行でした。
結果的に彼らは、自分で自分の後ろ盾を切り捨て、敵を増やしてしまいました。
「どうしてみんな自分の後ろ盾を攻撃しちゃったんですか?」
きっかけを作った張本人のデイジーが、首を傾げました。
「デイジーと今後も付き合うために、婚約者を排除したかったのでしょう」
彼らが婚約破棄という愚挙に出たのは、直前にデイジーに、婚約者がいる者とは今後付き合わないと宣言されたからでしょう。
「え……? 自由に浮気するために? 婚約破棄してしまったのですか?」
デイジーは汚いものを見たように、げっそりとした顔をしました。
「爛れてますね……」
彼らは、婚約者さえいなければデイジーと付き合える、と、下心を持ち……。
婚約者を障害のように思い……。
そこへ、父の奇襲に合い口を滑らせた、といったところかしら。
父はダリアさんを悪と断じていましたから、悪と断じられた者と手を切ることが正解のように見えたのでしょう。
「理性で押さえている欲望に、『誰かのため』『それが正しい』と、大義名分を与えてやると、人はあっさりと欲望に従い転がるものなのよ」
私がそう言うと、デイジーは感心するように唸りました。
「お姉様、さすがです。深い……」
アイヴィー王子殿下が婚約破棄をしたので。
後に続いた方々は、それが糾弾から逃れる正しい道筋だと錯覚したのか、はたまた安易に真似たのか。
王子殿下たちとルピナス様は実家が太いので後ろ盾を失っても致命傷にはなりませんが、騎士でしかないオレガノ様にとって後ろ盾は生命線でしたのに。
ともあれ。
クテナンテ伯爵の怒りを買ったことを知ったオレガノ様の父ポトス男爵は、早急にオレガノ様をポトス男爵家から除籍しました。
これによりポトス男爵はクテナンテ伯爵の報復からギリギリ逃れることができました。
クテナンテ伯爵はポトス男爵に賠償金を請求しましたが、ポトス男爵家が支払える程度の金額に留め、ポトス男爵家に今後オレガノ様を援助しないことを約束させて手打ちとしました。
そしてオレガノ様は貴族社会から消えました。
騎士オレガノ様が貴族社会から消えたことを知らせると、デイジーは目を丸くしました。
「どうしてですか?!」
「彼は地位も権力もないただの騎士だったもの。当然の結果よ」
ダリアさん、アイリスさん、ピオニーさん、エリカさんが平民に落とされた後。
国内はそぞろに乱れることとなりました。
まずエリカさんの元婚約者だった騎士オレガノ様が早々に消えました。
オレガノ様は騎士をクビになったのです。
オレガノ様に婚約破棄されたエリカさんの父クテナンテ伯爵とその派閥が「婚約者の女性を裏切ったオレガノ・ポトスは騎士道精神に反した。よって騎士にふさわしくない」と王家に猛抗議しました。
これにアイリスさんの父である財務大臣ドラセナ侯爵と、アイリスさんの伯父である宰相ディセントラ伯爵、そしてピオニーさんの父カポック伯爵も加勢しました。
彼らの抗議により、オレガノ様は騎士の位を剥奪されました。
「お父様が言ってたことを、クテナンテ伯爵様が実行したんですか?」
悪夢の夜会で、私たちの父エンフィールド公爵が「騎士をクビにしてやる」とオレガノ様を脅していたことを覚えているデイジーが、私に質問しました。
「そう。たかが騎士をクビにする程度なら、伯爵家にだってできることだもの」
「騎士の位って、国王陛下から与えられているものじゃないんですか?」
「そうよ。でも政治力があれば国王陛下を動かせるの」
国王陛下がオレガノ様から騎士の位を剥奪したのは、クテナンテ伯爵側に「騎士道精神に反する」という大義名分があったことと、宰相や財務大臣の派閥もこれを押したこと、対するオレガノ様は何の後ろ盾もないためクテナンテ伯爵の主張に反論する者がいなかったことによります。
「オレガノ様はエリカさんと婚約破棄をして、ご自身の後ろ盾だったクテナンテ伯爵を切り捨てて、敵に回してしまわれたのですもの。当然の結果よ」
オレガノ様は悪夢の夜会で、父に脅されて浮足立ち、即座に婚約破棄を宣言しましたが、あれは愚挙でした。
エンフィールド公爵の権威を恐れたのでしょうが、あのときオレガノ様はご自分の後ろ盾を切り捨ててはいけなかったのです。
これは同じく婚約破棄をした他の三人にも言えることですが、父に脅されたからといって、後ろ盾を即座に背中から撃ったのは愚行でした。
結果的に彼らは、自分で自分の後ろ盾を切り捨て、敵を増やしてしまいました。
「どうしてみんな自分の後ろ盾を攻撃しちゃったんですか?」
きっかけを作った張本人のデイジーが、首を傾げました。
「デイジーと今後も付き合うために、婚約者を排除したかったのでしょう」
彼らが婚約破棄という愚挙に出たのは、直前にデイジーに、婚約者がいる者とは今後付き合わないと宣言されたからでしょう。
「え……? 自由に浮気するために? 婚約破棄してしまったのですか?」
デイジーは汚いものを見たように、げっそりとした顔をしました。
「爛れてますね……」
彼らは、婚約者さえいなければデイジーと付き合える、と、下心を持ち……。
婚約者を障害のように思い……。
そこへ、父の奇襲に合い口を滑らせた、といったところかしら。
父はダリアさんを悪と断じていましたから、悪と断じられた者と手を切ることが正解のように見えたのでしょう。
「理性で押さえている欲望に、『誰かのため』『それが正しい』と、大義名分を与えてやると、人はあっさりと欲望に従い転がるものなのよ」
私がそう言うと、デイジーは感心するように唸りました。
「お姉様、さすがです。深い……」
アイヴィー王子殿下が婚約破棄をしたので。
後に続いた方々は、それが糾弾から逃れる正しい道筋だと錯覚したのか、はたまた安易に真似たのか。
王子殿下たちとルピナス様は実家が太いので後ろ盾を失っても致命傷にはなりませんが、騎士でしかないオレガノ様にとって後ろ盾は生命線でしたのに。
ともあれ。
クテナンテ伯爵の怒りを買ったことを知ったオレガノ様の父ポトス男爵は、早急にオレガノ様をポトス男爵家から除籍しました。
これによりポトス男爵はクテナンテ伯爵の報復からギリギリ逃れることができました。
クテナンテ伯爵はポトス男爵に賠償金を請求しましたが、ポトス男爵家が支払える程度の金額に留め、ポトス男爵家に今後オレガノ様を援助しないことを約束させて手打ちとしました。
そしてオレガノ様は貴族社会から消えました。
160
あなたにおすすめの小説
「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?
パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。
侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。
「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」
これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!
ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」
侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。
しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。
全ては仕組まれた冤罪だった。
聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。
幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが…
「やっと自由になれたぞ!」
実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。
貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。
一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。
すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる