かわいそうな欲しがり妹のその後は ~ 王子様とは結婚しません!

柚屋志宇

文字の大きさ
61 / 85

61話 園遊会

しおりを挟む
 ――王宮の園遊会。

 私は婚約者のウィロウに、デイジーは父エンフィールド公爵にエスコートされて出席しました。

 美しく手入れされた王宮の庭園で、身分の高い者から順に並んで国王陛下をお待ちしています。

 私たちは公爵家が並ぶ上座に陣取っていました。

 ウィード公爵夫妻とその嫡子カルドン様、オークリー公爵夫妻と嫡子ルピナス様たちも共に並んでいます。
 ウィード公爵の嫡子カルドン様はダリアさんのお兄様です。

「エンフィールド公爵、よく来てくれた」
「お招きいただき光栄に存じます」

 父がエンフィールド家を代表して国王陛下に招待の礼を述べました。

 さすがに公式の場ですから、父も国王陛下に「おい、国王」などと気安い呼びかけをしたりはしません。
 表向きの顔で、行儀良く定型の挨拶を述べています。

 大抵は家長が挨拶を述べ、国王陛下は家長に一言声をかけるだけで終わります。
 招待客は大勢いますので長話はしないのです。

 ですがデイジーは特別に国王陛下にお言葉をいただきました。

「デイジー嬢もよく来てくれた。池の水蓮が見ごろだ。後で息子に案内させよう」
「ご厚情をたまわり光栄に存じます」


 ◆


「国王陛下からお言葉を賜るとは」
「さすがです、デイジー嬢」

 国王陛下へのご挨拶が終わると、招待客たちはそれぞれが自由に美しく手入れされた庭園を散策しました。

 デイジーの周囲には求婚者の有象無象が集まって来ています。

 デイジーをエスコートしていた父は、いつものことなのですが、私とウィロウにデイジーのことを任せると、どこかへ油を売りに行ってしまいました。
 デイジーの周囲に集まる若い令息令嬢とは、父は齢が離れすぎていて話題が合わないこともあり退屈なのでしょう。

 デイジーは社交界デビューした直後に、王子殿下たちにがっちり囲まれてしまいましたので、今まで有象無象はデイジーに近づけずにいました。
 それがあの『悪夢の夜会』の以後、囲いが消えたことにより、大勢の若い令息令嬢がデイジーの周囲に集まるようになりました。

 今日のこの王宮での園遊会は国王陛下の主催で、下位貴族は当主夫妻しか招待されていないため若い令息令嬢の数は少なめですが、それでもデイジーの周囲には令息たちが集まって目立つ集団になっています。

 その様子を、少し離れた場所から恨めしそうに見ている令息がいます。

「……」

 ピオニーさんの元婚約者、オークリー公爵令息ルピナス様です。
 貴族たちの私的な夜会やサロンではお見掛けしなくなっていたお方です。

 ルピナス様からの求婚をデイジーはすでにお断りしていますが、彼はまだデイジーのことを諦めていないのでしょうか。
 デイジーをじっと見つめています。

「……」

 ルピナス様の視線に気付いたデイジーが、不安気な表情を浮かべました。

「そういえば、デイジー嬢、ご存知ですか?」

 デイジーがルピナス様に視線をやったことに気付いたのか、有象無象の令息の一人がしらじらしく話し始めました。

「オークリー公爵家は、ルピナス殿を後継者から外すという噂です」

「一体どうしてですの? 何かあったのですか?」

 デイジーがそう問い返すと、この話題がデイジーの興味を引いたと思ったのか、他の令息たちもオークリー公爵家の噂について話し始めました。

「その話なら私も聞きました。オークリー公爵の親族たちが、ルピナス殿を廃嫡しろと騒いでいるとか」
「オークリー公爵家の親族たちは、ドラセナ侯爵たちと和解するために、元凶のルピナス様を排除したいのでしょう」
「ルピナス殿がピオニー嬢と婚約破棄したせいで、オークリー公爵家の一族はドラセナ侯爵の派閥から恨まれ、官職を追われましたからね……」
「一族に不利益をもたらすような者に爵位を継がせたら没落の危機です。オークリー公爵は実の息子に爵位を継がせたいでしょうが、親族たちは許さないでしょう」

 令息たちはオークリー公爵家の噂を語りながら、ルピナス様の無能をデイジーに宣伝しました。
 ルピナス様を蹴落とすチャンスですものね。

「直にルピナス殿は廃嫡されて、貴族社会から消えるでしょう」

 そう言った令息に、デイジーは質問しました。

「跡継ぎから外されただけで貴族社会から消えてしまうのですか? 貴族なのに?」

 デイジーに質問された令息は、誇らしげに答えました。

「貴族の子は爵位を継げなければ、いずれ貴族ではなくなるのです。爵位を継ぐか、爵位を継ぐ者の配偶者になるかしないと、平民になってしまうのですよ」

 ちなみにこの令息、伯爵家の跡継ぎです。
 彼のこの言葉に、デイジーの周囲に集まっている令息たちの中の、爵位を継げない立場の子息たちが顔を引きつらせました。

 貴族の世界は弱肉強食。
 いつ足を引っ張られるか解らないのです。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。 侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。 「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」 これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!

ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」 侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。 しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。 全ては仕組まれた冤罪だった。 聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。 幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが… 「やっと自由になれたぞ!」 実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。 貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。 一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。 すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。

再婚約ですか? 王子殿下がいるのでお断りしますね

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のレミュラは、公爵閣下と婚約関係にあったが、より位の高い令嬢と婚約しレミュラとは婚約破棄をした。 その事実を知ったヤンデレ気味の姉は、悲しみの渦中にあるレミュラに、クラレンス王子殿下を紹介する。それを可能にしているのは、ヤンデレ姉が大公殿下の婚約者だったからだ。 レミュラとクラレンス……二人の仲は徐々にだが、確実に前に進んでいくのだった。 ところでレミュラに対して婚約破棄をした公爵閣下は、新たな侯爵令嬢のわがままに耐えられなくなり、再びレミュラのところに戻って来るが……。

赤毛の伯爵令嬢

もも野はち助
恋愛
【あらすじ】 幼少期、妹と同じ美しいプラチナブロンドだった伯爵令嬢のクレア。 しかし10歳頃から急に癖のある赤毛になってしまう。逆に美しいプラチナブロンドのまま自由奔放に育った妹ティアラは、その美貌で周囲を魅了していた。いつしかクレアの婚約者でもあるイアルでさえ、妹に好意を抱いている事を知ったクレアは、彼の為に婚約解消を考える様になる。そんな時、妹のもとに曰く付きの公爵から婚約を仄めかすような面会希望の話がやってくる。噂を鵜呑みにし嫌がる妹と、妹を公爵に面会させたくない両親から頼まれ、クレアが代理で公爵と面会する事になってしまったのだが……。 ※1:本編17話+番外編4話。 ※2:ざまぁは無し。ただし妹がイラッとさせる無自覚系KYキャラ。 ※3:全体的にヒロインへのヘイト管理が皆無の作品なので、読まれる際は自己責任でお願い致します。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

処理中です...