レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

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第9章 勇者RENの冒険

第128話 ニュート VS ザッツ

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 人型は両腕を開き、まるで私を迎えるかのような構えをとった。

「ゴッズトーナメント……。では、アナタも出場者というわけですかな?」

「あぁ、俺は蛇人族の代表、ニュート。せっかく神から力を与えられたんだが……周りが雑魚ばっかりで腕試しにもなりゃしねぇ。あんたなら……、楽しめそうだ……」

「なるほど、しかし、神の試練とはいえ、トーナメントとは……。神も趣味が悪いですなぁ。それに貴方たちの神も本当に意地が悪い」

 その人型はフード付きのマントを取り払った。地面にツバを吐き、現れたその姿は緑色の体。頭は蛇。そして人型の体をしていた。体には紫色の鎧を着込んでいるが、一目でそれが普通のものでないことが分かるほどに妖しい光りを放っていた。

 そして、腰には数本の剣が刺さっており、ニュートは両手に剣を構える。

「ほぅ、二刀流ですか。しかも隙がない」

「アンタは素手でいいのかい? 俺は待ってやってるんだぜ?」

「いいえ、お構いなく。来るのなら来てみなさい!」

 ニュートは駆け出すと共に姿を消した。

「む?」

 咄嗟に大きく身を躱す。後方にあった馬車が大きく抉られる様に斬られ、吹き飛んでいく。

「なるほど……。このトーナメント出場者というのは皆、これほどの実力の持ち主なのですな」

「へっ、今のを躱すとはな。だが、そうでなくては、襲った甲斐がない。どんどんいくぜ!」

 ニュートは剣をあらゆる方向に振っていく。その剣が衝撃波を生み出し、辺りを無慈悲に切り裂いていく。そして、その威力は大木や大岩も易々と切り倒してしまった。

「残念ですが……、その程度の大道芸では、いつまで経っても私には届きませぬぞ」

 事実、衝撃波は全て見切っていた。二刀とはいえ、衝撃波と衝撃波の間には隙間がある。そこを移動するだけで易々と躱すことが出来たのだ。

「では、こちらからも仕掛けさせてもらうとしますかな」

 縮地による一瞬の飛び込み。ニュートは反応も出来ず、あっさりと後ろを取ることが出来た。そして、背中へ向かって鎧を通す威力の一撃を放つ。

「ぐおおおっっっ!!!」

 当たった瞬間、奴は鎧からスルリと抜け落ち、離れた所へジャンプして逃げた。

「くっくっく、やべぇやべぇ。その一撃はまともにもらうわけにはいかねぇな」

「もうアナタを守る鎧はありませんぞ? 御覚悟を」

「へっ、そりゃ俺の台詞だ。ってかアンタ、もう終わってんぜ?」

「むっ? こ……、これは?」

 私の拳にはベットリと紫色の液体が張り付いていた。そして、液体は拳から吸収されるように染み込んでくるのだ。

「クックック、それは我が一族に伝わる秘伝の毒。もちろん魔法じゃ治せねぇぜ? 何せ、呪いと掛け合わせてあるからなぁ?」

 ニュートは長い舌で口の周りを舐めまわした。

「くっ、卑怯な……」

「卑怯? 残念だがその言葉はあたらないぜ。なんたってゴッズトーナメントはルール無しだ。勝つためなら何をしたって許される! そういう闘いなんだよ! ハーッハッハッハッハ。これでアンタは参加不能! 代表者が一人減ったってことだ! 俺が王としてこの世を支配するのに一歩近づいたぜ! ヒャーッハッハッハ!」

 高らかに笑うニュート。私は意識が朦朧として、視界がぼやけ、もはや、相手を見ることも適わない。

 くっ……、ここまで……なのか。ドルツ様……すみません。

 その時、馬の蹄の音が聞こえてきた。

「あん? さっき逃げた奴が援軍でも呼んだか? まぁいい。俺は目的は果たしたしな。こんな獣臭ぇ土地からはもうオサラバだぜ」

 ニュートはスッと音も立てずに消え去った。



 馬の足音が近づいてくる。

「ザッツ! 大丈夫か!」

 ドルツは精鋭20名と、さらにREN殿まで連れてきてくれていたのだ。

「……ドルツ様……」

 私の意識はドルツの顔を見た所で途切れ、道ばたに倒れ込んでしまうのであった。



   ***



 時は少しだけ遡る。

 俺はリンに家庭教師として、武術を教えながら、領主とザッツの帰りを待っていた。

 領主とドルツはいつ帰ってくるのかをはっきりとは言わなかったため、二人が帰ったときに驚かせてやろうと、リンのレベル上げと、武術の鍛錬に力を入れていたのだった。

「よし、ここまでにしよう」

 日も暮れかけてきた頃、俺はリンに切りだした。

「はい、先生!」

 リンは立ち上がる力もなく、地面に大の字になって寝転び、胸と腹を大きく上下させながら呼吸していた。

「ザッツが旅立った時よりもさらに強くなったね! 二人が帰ってくるのが楽しみだよ」

 正直な所を言うと、リンは満面の笑みを浮かべた。

「はい! 私を置いて旅行なんて行ってる二人に見せつけてやりますよ!」

 言葉は威勢がいいが、本人はまるで動けないでいた。

「ん? なんだろう? 家が騒がしくなってるな」

 家に怒声のようなものが飛び交い、騎士たちが慌ただしく鎧や槍、剣を用意し始めていたのだ。

「……これは穏やかじゃないな。いったいどうしたというんだ? 俺は様子を見てくる。リンは汗を拭いて部屋で待っているんだ。いいね?」

「はい、先に行ってください、先生」

 俺はまだ動けないでいるリンをそのままに、館を訪れた。



「おぉ! 丁度いい! REN殿。すぐに来てくれないか?」

 領主であるドルツが叫ぶように俺を呼んだ。その声には焦りの色が覗える。

 実際、ドルツは鎧を着込んでいた。メイド達に手伝わせながらも素早く手を動かしている。

「俺ならいつでも準備は大丈夫ですよ。ですが、一体何があったんです?」

「賊に襲われたのだ! 今はザッツが抑えてくれている。だが、すぐに救援に向かわねば……。敵はどれほどの数かもわからん。襲ってきた奴は相当な手練れだったのだ」

 ドルツはもう鎧を着込み終わり、武器を手に持った。

「賊ですか? ふむ、手助けしましょう!」

「心強い。頼むぞ!」

 俺はドルツと、精鋭20名と共に、救援に向かうのであった。


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