トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

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夜の帳が下りたあと

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 その日の夜、無気力に掃除をしていればうるさいぐらいに入店音が鳴り響く。顔も上げずにお決まりの文句を口に出せば、慌てたような足音がどんどん近づいてきた。

 ……ん? トイレか?
 それとも何か聞きたいことでもあるのかなと顔を上げてびっくり。待ち侘びて、焦がれて、でももう来ないのだろうと諦めたひとがそこに立っていた。


 「やっと会えた……」


 よかったと、ホッとしたように笑う彼から目が離せない。

 その視線に気づいたsuiが邪魔だと言わんばかりに帽子を取った。肩まで伸びた髪がさらりと揺れる。

 じいっと胸の辺りを見つめた彼は、にいっと口角を上げた。


 「春崎はるさきくん、君に会いに来たよ」


 恥ずかしげもなく言われた言葉は、まるでドラマの台詞みたい。
 ストレートな物言いと名前を呼ばれて、どくんと血が沸き立った。

 ああ、名札を確認していたのかと心の中では冷静に察するけれど、スターを前に何を話せばいいのか分からなかった。
 
 一番星のようにきらきらが止まらない。
 彼を囲うようにして星でも散りばめられているのかっていうぐらい、全てが輝いて見える。オーラって目に見えるものなんだ、そう実感したのはこの時が初めてだった。

 ぱちぱちと瞬きを繰り返していれば、suiは表情を弛める。あまりにも無防備で柔らかな顔をするものだから、警戒心なんてどこかに消えてしまう。


 「春崎くんの下の名前は?」
 「……えと、ようです」
 「陽……いい名前だね」


 自身に馴染ませるように反芻される名前。
 生まれたときから一緒だったそれがなんだか特別なものに思えてくる。

 僕の名前を何度も繰り返すsuiをじいっと見つめれば、その造形の美しさに惚れ惚れしてしまう。すっと伸びる睫毛が猫目を特徴づけて、透き通るような白い肌は自ら発光していると思わせるほど。

 どれだけ見ても飽きないな。
 遠慮なく見つめていれば、それに気づいたsuiが首を傾げる。そんな仕草までナチュラルで魅力的に見えるのだから、芸能人というものは人種が違うのだと腑に落ちた。


 「ああ、俺の名前言ってなかったね」
 「…………」


 いや知ってますよ。
 そう言い出せる空気ではなくて、僕は黙りこくることしかできなかった。


 「深山翠みやますいです、ずっと来れなくてごめん」
 「え、あ、いや、大丈夫です……」


 世間一般には公表されていない名前を簡単に口に出す彼にどきまぎする。

 そりゃあ芸名を名乗られても反応に困るけど、本名を知ってしまうのはもっと狼狽えるに決まっているだろう。

 吃りながら首を振れば、sui改め深山さんはホッと息を吐いて胸を撫で下ろした。

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