トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

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夜の帳が下りたあと



 「忘れられてなくてよかった」
 「正直、もう来ないと思ってました」
 「それはごめん、でも俺のことを待っててくれたんだね」
 「…………」


 墓穴を掘って黙り込む僕、悪戯に微笑む彼。

 期待するなと言い聞かせていたのは、傷つきたくないから。自己愛が強い弱虫のおまじない。
  
 世界中の人が彼の虜だっていうのに、そんな人が僕だけに笑いかけている。

ふたりだけの時間、今この瞬間だけはトップアイドル・suiも僕のもの。……なんてありえないことを考えて、ないないと自嘲する。傲慢にも程がある。恨みを買って、ファンに刺されてもおかしくない。

 話していると、どうして人気なのかがよく分かる。ころころ変わる表情に夢中になってしまう。惹き付けられて目が離せない。

 アルファの中でも上位に君臨しているはずなのに、そんな雰囲気を微塵も感じさせない。

 これまで数人のアルファに出会ったことはあるけれど彼のようにフレンドリーじゃなかったし、プライドが高くてアルファ以外の人間を見下していた。

 それが普通のアルファだと思っていたから、僕は彼の特別だって錯覚してしまう。僕自身が偉くなったわけでもなんでもないのに、馬鹿だなぁ。

 自分が小さく思えて嫌悪感は募るけど、彼の世界の一部になることに対する高揚感が上回る。モブキャラ以下の存在から村人Aにランクアップした気分だ。


 「実は仕事が忙しくて、なかなか時間が取れなかったんだ……。今日はたまたま早く帰れてよかったよ」


 CDのリリース日が迫っているから、その宣伝のために収録や撮影でスケジュールが埋まっているのだろう。少し疲れた色が滲んでいるのも頷けた。

 早く帰れたと言っているけれど、既に日付は変わってしまっている。シンデレラも帰るのを諦めてしまうぐらいの時刻だ。

 アイドルということに触れていいものか悩んでしまう。知ってほしかったら、suiと名乗っていただろうし。

 会話を続けながらそんな悩みを抱えていれば、お昼にも聞いた店内放送が流れ始めた。あ、と声が漏れてしまって気まずい沈黙が流れる。


 「…………えと、」
 「…………」


 うまく取り繕うことすらできなくて、ひやりと背筋が凍る。お客さんの少ない深夜でも流すと決めたコンビニ上層部を恨んだ。


 「やっぱ気づいちゃうよね」
 「……黙っててごめんなさい」


 彼が諦めたように笑う。
 胸がぎゅっと締め付けられて、そんな顔をさせた自分に腹が立った。

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