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③
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「で、どうなの? お付き合いは順調?」
「見た感じ、白石は陽太の魅力にメロメロみたいだけど~」
聞こえてきた自分の名前に、結月は階段の踊り場で足を止めた。
「どこまでいった? やっぱキスまで進まないと付き合ってるっていわないでしょ! がんばれ~~」
「お前ら他人事だと思って……」
下から陽太の声がする。一緒にいるのは山田と中村で。
「っ……」
結月は堪らず逃げるように駆け出した。
(やっぱり……)
山田たちのからかうような口調に陽太の反応。このお付き合いはやっぱり陽キャグループの遊び、ただの暇つぶしだったのだ。最初から分かっていたはずなのに、結月の胸はズキズキと強く痛む。廊下の端で結月は立ち止まった。頭の中に、陽太が結月に向けてくれた、優しい笑顔が浮かぶ。
その笑顔を見るたび、本当はとても嬉しかった。
「っ……」
勝手に瞳が潤む。苦しくて、結月はギュッと胸元を握りしめた。
だって結月はずっと――――
あれはまだ高校一年の時だった。駅近くの公園に子猫が捨てられていることに気付き、学校終わりに様子を見に行っていた。その日もミルクを片手に、結月は子猫のところに向かっていた。
(家で飼えたらいいんだけど……)
内心でため息を吐く。結月の家はマンションで動物を飼うことができなかった。いつも通り公園に足を踏み入れると、子猫のいる場所に人影があって、結月は思わず身を隠した。
(あれは……)
金に近い茶髪、スタイルのいい体躯、鞄を肩に担ぎ、段ボール箱に入った子猫を上から見下ろすその姿。
朝日陽太――結月の同級生だった。同じクラスでもないし、話したこともない。だけど彼を知っていたのは、陽太が学校内でも噂になるほど、イケメンで人気がある存在だったからだ。
(子猫に何する気だ……!)
見た目からはチャラチャラした印象しかない。内気で引っ込み思案な結月が一番苦手とする人種だ。まさか子猫に危害を? 結月は身構えた。だけど。
「ふっ……かわいい」
陽太は瞳を細めると箱の前にしゃがんだ。そして中の子猫を抱き上げた。両手で小さな子猫を抱くその手は、とても慎重で。
「家に来るか?」
そう子猫に語り掛けると、陽太は笑った。それはとても、とても優しく慈しむような笑顔で。
「っ…………」
心臓が止まったかと思った。それぐらいその笑顔は、柔らかく温かいものだった。陽太の名前そのものの、太陽のような笑顔。
陽太はそのまま、胸に子猫を抱くと歩き出した。結月はその背中を見送りながら、自分の胸のときめきを抑えきれずにいた。
嬉しかった、あの日から陽太の笑顔が忘れられなくて、気付いたら目で追っていたから。派手さとは裏腹に、陽太は誰に対しても平等で、クラスの雰囲気をいつも明るくしてくれる。彼がただイケメンだから人気があるのではないことはすぐに分かった。一緒にいるようになって、もっともっとその魅力に引き付けられていった。
勘違いしそうになっていた、結月に向けられる笑顔が、あの日見たものとあまりにも同じだったから。
この恋は、もうすぐ終わってしまう。それがあまりにも悲しくて、寂しくて、結月はその場にうずくまった。
「見た感じ、白石は陽太の魅力にメロメロみたいだけど~」
聞こえてきた自分の名前に、結月は階段の踊り場で足を止めた。
「どこまでいった? やっぱキスまで進まないと付き合ってるっていわないでしょ! がんばれ~~」
「お前ら他人事だと思って……」
下から陽太の声がする。一緒にいるのは山田と中村で。
「っ……」
結月は堪らず逃げるように駆け出した。
(やっぱり……)
山田たちのからかうような口調に陽太の反応。このお付き合いはやっぱり陽キャグループの遊び、ただの暇つぶしだったのだ。最初から分かっていたはずなのに、結月の胸はズキズキと強く痛む。廊下の端で結月は立ち止まった。頭の中に、陽太が結月に向けてくれた、優しい笑顔が浮かぶ。
その笑顔を見るたび、本当はとても嬉しかった。
「っ……」
勝手に瞳が潤む。苦しくて、結月はギュッと胸元を握りしめた。
だって結月はずっと――――
あれはまだ高校一年の時だった。駅近くの公園に子猫が捨てられていることに気付き、学校終わりに様子を見に行っていた。その日もミルクを片手に、結月は子猫のところに向かっていた。
(家で飼えたらいいんだけど……)
内心でため息を吐く。結月の家はマンションで動物を飼うことができなかった。いつも通り公園に足を踏み入れると、子猫のいる場所に人影があって、結月は思わず身を隠した。
(あれは……)
金に近い茶髪、スタイルのいい体躯、鞄を肩に担ぎ、段ボール箱に入った子猫を上から見下ろすその姿。
朝日陽太――結月の同級生だった。同じクラスでもないし、話したこともない。だけど彼を知っていたのは、陽太が学校内でも噂になるほど、イケメンで人気がある存在だったからだ。
(子猫に何する気だ……!)
見た目からはチャラチャラした印象しかない。内気で引っ込み思案な結月が一番苦手とする人種だ。まさか子猫に危害を? 結月は身構えた。だけど。
「ふっ……かわいい」
陽太は瞳を細めると箱の前にしゃがんだ。そして中の子猫を抱き上げた。両手で小さな子猫を抱くその手は、とても慎重で。
「家に来るか?」
そう子猫に語り掛けると、陽太は笑った。それはとても、とても優しく慈しむような笑顔で。
「っ…………」
心臓が止まったかと思った。それぐらいその笑顔は、柔らかく温かいものだった。陽太の名前そのものの、太陽のような笑顔。
陽太はそのまま、胸に子猫を抱くと歩き出した。結月はその背中を見送りながら、自分の胸のときめきを抑えきれずにいた。
嬉しかった、あの日から陽太の笑顔が忘れられなくて、気付いたら目で追っていたから。派手さとは裏腹に、陽太は誰に対しても平等で、クラスの雰囲気をいつも明るくしてくれる。彼がただイケメンだから人気があるのではないことはすぐに分かった。一緒にいるようになって、もっともっとその魅力に引き付けられていった。
勘違いしそうになっていた、結月に向けられる笑顔が、あの日見たものとあまりにも同じだったから。
この恋は、もうすぐ終わってしまう。それがあまりにも悲しくて、寂しくて、結月はその場にうずくまった。
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