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放課後の公園、結月と陽太はいつものように公園のベンチに座り、たわいのない会話を話していた。いつもなら楽しい時間だが、結月の心は寂しさに覆われていた。
(朝日くんと二人で過ごすことなんて、もうこの先ないだろうな……)
罰ゲームが終われば、陽太と結月は人気者とその他大勢に戻る。今までは見ているだけで十分だったけれど、陽太の隣にいる心地よさを知ってしまった今、隣にいられなくなることが悲しくて仕方なかった。
「白石、どした? なんかあった?」
目ざとく結月の様子に気付いた陽太が、優しく結月の頬に触れた。陽太が心配そうに結月を覗き込む。触れる手はとても温かい、陽太はやっぱり優しくて、胸がキュンと切なく締め付けられる。
(離れたくないな……)
心がそう叫んで、結月は無意識でその手にスリと頬を寄せた。
「っ……」
結月の仕草に、陽太が声にならないというように息を飲む。
「大丈夫だよ。ありがと……朝日くんの手温かいね……」
温もりに少し心が癒され、結月は陽太に向けて微笑んだ。
「白石……」
親指が結月の頬を撫でる。そして整った陽太の顔が近づいた。真っ直ぐ見つめる陽太の真剣な瞳、キスされる――反射的にそう思った。
(ああ……終わってしまう……)
このキスが終わったら、魔法は解けてしまう。明日からはまた、遠くから陽太を眺める日々に戻ってしまう。
離れたくない、もっと一緒にいたい。心はそう叫ぶけれど、結月のような平凡な人間は、罰ゲームでもないと陽太と一緒に時間を過ごすことなどできなかった。それだけでも光栄だと思わなければいけない。
息がかかる距離にある陽太の瞳を、いつまでも見ていたい。そう思いながら、結月はそっと目を閉じた。
そっと唇が重なる。結月のファーストキス。温かくて優しい感触、触れた唇は軽く結月の唇を食んで離れていった。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が降りる。陽太は今どんな顔をしているんだろう、怯えながら結月はそっと目を開けた。きっと罰ゲームが終わってすっきりした顔をしているんだろうと思っていると。
目の前の陽太は、頬を赤く染め、照れるようにはにかんだ笑顔を浮かべていた。
「やべ……こんなに嬉しいの初めてだ」
すぐに罰ゲームだったと言われると思っていたのに、予想外の陽太の反応に結月は目を瞬かせた。
「この前さ……飼ってる猫の話になったじゃん」
それどころか、全く違うことを陽太は話し出した。
「実はあの猫……」
続きを話そうとした陽太の後ろで、ガサガサッと草影が揺れる音がした。結月たちは同時にそちらに振り向く。
「いいところなんだから押すなって……」
「だってよく聞こえなくて……って、わっ!」
すると、ひそひそと話す声が聞こえたと思ったら、態勢を崩した山田と中村が草影から転げだしてきた。
「お前ら……‼ 何してんだよ‼」
立ち上がった陽太が、驚くように二人に叫ぶ。
「やべっ! 見つかった」
「いやぁ~俺ら心配で。だってどう考えたって白石は陽太に気があるのに、陽太がひよって先に進まないから」
二人は服を払いながら立ち上がる。
「まあ、ずっと前から白石のことが好きだったから、慎重になっちゃうのも分かるけど、もどかしくってさ~」
「陽太には秘密で告白に続き、見守りにきた!」
ね~っと山田と中村は顔を見合わす。
「えっ?」
「ハァ! お前ら覗き見してたのか⁉」
目を尖らせ二人のところに行こうとする陽太の服の裾を、結月は掴んだ。陽太はすぐに結月の方に振り返る。
「白石?」
可愛らしい結月の仕草に、陽太が頬を緩ませる。
「朝日くんは僕のこと……前から好きだったの?」
おそるおそる結月は尋ねる。するとふっと陽太が微笑んだ。
「一年の時に、この公園で白石が子猫に餌をやってるの見つけて。その時の子猫に笑いかける白石の笑顔が忘れられなくて……」
恥ずかしそうに、でも真っ直ぐに陽太が結月を見つめる。
「マンションに住んでるから飼うことができないってたまたま聞いて……それなら俺がって思って拾ったんだ」
一生懸命世話をする白石見てたら俺も放っておけなくて、と陽太が笑う。
「じゃ、あ……もしかして、猫の名前も……」
「うん。白石の下の名前『結月』からとって『ゆづ』」
「っ……」
震える声で聞いた言葉に、陽太は迷うことなく答えた。照れるようにはにかんで、結月を見つめ瞳を細める。その瞳には、結月への愛しさが込められていて。
(まさか……こんなことって……!)
陽太と結月、同じタイミングでお互いを好きになっていたなんて。
嬉しくて堪らなくなって、結月は陽太の体に抱きついた。
「え、え⁉ 白石……‼」
急に抱きつかれ、陽太の声が裏返る。だけどすぐに、優しい腕がギュッと結月の体を抱き返した。その腕の中は、とてもとても温かくて、胸が幸せに満ちていく。
「好き……僕も朝日くんのことが大好き……!」
告白を受けた時から、ずっと言いたかった気持ちを結月は陽太に告げる。すると、その整った容貌に弾けるような笑顔が広がった。
「俺も大好きだよ……」
耳元で優しい声が聞こえる。
見上げると、目の前に陽太の笑顔。それはあの時、結月が恋に落ちた太陽のような笑顔だった。
終わると思っていたこの恋は、これから始まるようだ。
「おーい、お二人さん。俺らのこと忘れてない?」
「まっ、ラブラブなのはいいことだよ」
しっかりと抱きしめ合う二人を、山田と中村も嬉しそうな笑顔で見つめていた。
♡終♡
(朝日くんと二人で過ごすことなんて、もうこの先ないだろうな……)
罰ゲームが終われば、陽太と結月は人気者とその他大勢に戻る。今までは見ているだけで十分だったけれど、陽太の隣にいる心地よさを知ってしまった今、隣にいられなくなることが悲しくて仕方なかった。
「白石、どした? なんかあった?」
目ざとく結月の様子に気付いた陽太が、優しく結月の頬に触れた。陽太が心配そうに結月を覗き込む。触れる手はとても温かい、陽太はやっぱり優しくて、胸がキュンと切なく締め付けられる。
(離れたくないな……)
心がそう叫んで、結月は無意識でその手にスリと頬を寄せた。
「っ……」
結月の仕草に、陽太が声にならないというように息を飲む。
「大丈夫だよ。ありがと……朝日くんの手温かいね……」
温もりに少し心が癒され、結月は陽太に向けて微笑んだ。
「白石……」
親指が結月の頬を撫でる。そして整った陽太の顔が近づいた。真っ直ぐ見つめる陽太の真剣な瞳、キスされる――反射的にそう思った。
(ああ……終わってしまう……)
このキスが終わったら、魔法は解けてしまう。明日からはまた、遠くから陽太を眺める日々に戻ってしまう。
離れたくない、もっと一緒にいたい。心はそう叫ぶけれど、結月のような平凡な人間は、罰ゲームでもないと陽太と一緒に時間を過ごすことなどできなかった。それだけでも光栄だと思わなければいけない。
息がかかる距離にある陽太の瞳を、いつまでも見ていたい。そう思いながら、結月はそっと目を閉じた。
そっと唇が重なる。結月のファーストキス。温かくて優しい感触、触れた唇は軽く結月の唇を食んで離れていった。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が降りる。陽太は今どんな顔をしているんだろう、怯えながら結月はそっと目を開けた。きっと罰ゲームが終わってすっきりした顔をしているんだろうと思っていると。
目の前の陽太は、頬を赤く染め、照れるようにはにかんだ笑顔を浮かべていた。
「やべ……こんなに嬉しいの初めてだ」
すぐに罰ゲームだったと言われると思っていたのに、予想外の陽太の反応に結月は目を瞬かせた。
「この前さ……飼ってる猫の話になったじゃん」
それどころか、全く違うことを陽太は話し出した。
「実はあの猫……」
続きを話そうとした陽太の後ろで、ガサガサッと草影が揺れる音がした。結月たちは同時にそちらに振り向く。
「いいところなんだから押すなって……」
「だってよく聞こえなくて……って、わっ!」
すると、ひそひそと話す声が聞こえたと思ったら、態勢を崩した山田と中村が草影から転げだしてきた。
「お前ら……‼ 何してんだよ‼」
立ち上がった陽太が、驚くように二人に叫ぶ。
「やべっ! 見つかった」
「いやぁ~俺ら心配で。だってどう考えたって白石は陽太に気があるのに、陽太がひよって先に進まないから」
二人は服を払いながら立ち上がる。
「まあ、ずっと前から白石のことが好きだったから、慎重になっちゃうのも分かるけど、もどかしくってさ~」
「陽太には秘密で告白に続き、見守りにきた!」
ね~っと山田と中村は顔を見合わす。
「えっ?」
「ハァ! お前ら覗き見してたのか⁉」
目を尖らせ二人のところに行こうとする陽太の服の裾を、結月は掴んだ。陽太はすぐに結月の方に振り返る。
「白石?」
可愛らしい結月の仕草に、陽太が頬を緩ませる。
「朝日くんは僕のこと……前から好きだったの?」
おそるおそる結月は尋ねる。するとふっと陽太が微笑んだ。
「一年の時に、この公園で白石が子猫に餌をやってるの見つけて。その時の子猫に笑いかける白石の笑顔が忘れられなくて……」
恥ずかしそうに、でも真っ直ぐに陽太が結月を見つめる。
「マンションに住んでるから飼うことができないってたまたま聞いて……それなら俺がって思って拾ったんだ」
一生懸命世話をする白石見てたら俺も放っておけなくて、と陽太が笑う。
「じゃ、あ……もしかして、猫の名前も……」
「うん。白石の下の名前『結月』からとって『ゆづ』」
「っ……」
震える声で聞いた言葉に、陽太は迷うことなく答えた。照れるようにはにかんで、結月を見つめ瞳を細める。その瞳には、結月への愛しさが込められていて。
(まさか……こんなことって……!)
陽太と結月、同じタイミングでお互いを好きになっていたなんて。
嬉しくて堪らなくなって、結月は陽太の体に抱きついた。
「え、え⁉ 白石……‼」
急に抱きつかれ、陽太の声が裏返る。だけどすぐに、優しい腕がギュッと結月の体を抱き返した。その腕の中は、とてもとても温かくて、胸が幸せに満ちていく。
「好き……僕も朝日くんのことが大好き……!」
告白を受けた時から、ずっと言いたかった気持ちを結月は陽太に告げる。すると、その整った容貌に弾けるような笑顔が広がった。
「俺も大好きだよ……」
耳元で優しい声が聞こえる。
見上げると、目の前に陽太の笑顔。それはあの時、結月が恋に落ちた太陽のような笑顔だった。
終わると思っていたこの恋は、これから始まるようだ。
「おーい、お二人さん。俺らのこと忘れてない?」
「まっ、ラブラブなのはいいことだよ」
しっかりと抱きしめ合う二人を、山田と中村も嬉しそうな笑顔で見つめていた。
♡終♡
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