陽キャと陰キャの恋の始め方

金色葵

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「白石、帰ろ」
「うん」
優しい声に胸が跳ねる。急いで鞄を持ち、陽太の方に駆けていくと、二重の綺麗な瞳が優し気に細められた。金に近い茶髪の前髪を後ろに流した、鼻筋が通った整った容姿。近くから見る陽太はとてもかっこよくて。
「急がなくていいのに」
言いながら陽太が結月の頭を撫でる。醸し出される甘い雰囲気に、頬が赤くなる。
告白が成功したところで、罰ゲームのネタばらしがあると思っていた結月だったが、何ごともなくお付き合いがスタートしてしまった。全く接点がなかったのに、今では二人でお昼を食べ、電車の路線が同じなこともあり登下校も一緒にするようになった。
「じゃ、行こっか」
「ちょっ、朝日くん!」
不意に陽太が結月の手を握る。まだ教室で他の生徒もいる。指を絡められ結月は慌てた。
「ん?」
だけど優しく微笑まれて、結月は一瞬で抵抗できなくなった。
(こんなの……ほんとに付き合ってるみたいじゃないか……)
見つめる優しい視線に、思わずその手を握り返そうとした。
「ヒュ~お二人さん熱々だね~」
だけど、かけられた声に結月はビクッと肩を震わせる。振り返ると、陽太の友人――あの告白された日に物陰に隠れこちらを見ていた、山田と中村がにやにやしながらこちらを見ていた。ふわふわとした甘い気分が、一気に現実に引き戻される。
「うるせー、白石気にしなくていいから」
ぶっきらぼうに二人に向かってそう言うと、陽太は結月の手をグイッと引っ張った。
「早く誰にも邪魔されない場所に行こ?」
さっき二人に向けた不愛想な態度とは真逆の、甘さの孕んだ陽太の声、瞳。それは結月がとても大事だと言っているようで。
(勘違いするな、きっとこれは嘘だから……)
勝手にときめく心を必死に抑えながら、結月はそう自分に言い聞かせた。


「朝日くんって猫好き?」
「え、猫? なんで?」
陽太と付き合うことになって一か月が過ぎた。告白は冗談だったといつ言われるのだろうと身構えているが、まだ訪れていない。
陽太と結月は駅近くの公園で、話をしてから帰るのが日課になっていた。自分と正反対だと思っていた陽太とは意外と話が合い、学校では派手で目立つ印象しかなかった陽太は、二人っきりになると穏やかで、結月の面白くもなんともない話を楽しそうに聞いてくれる。正直、陽太の隣が心地いいと結月は感じ始めていた。
「ほら、LIMEのアイコンが猫だからさ」
「あーあいつ、俺んちで飼ってる猫なんだ。猫が好きっていうか、あいつが特別なんだよ」
「へー」
何の気なしに返事をするが、内心ではドキドキとする。実は結月はその猫のことを知っていた。
「この公園に捨てられてたんだよな。小さい体で必死にニャー
ニャー鳴いててさ、ほっとけなくて連れて帰って家で飼ってる」
猫のことを思い出しているのか、陽太の顔が愛し気に綻ぶ。その表情が、結月を見ている時と同じ優しい瞳をしていてドキッとした。
「白石は猫好き?」
「うん、猫だけじゃなくて動物は全般好き。捨て猫ほっとけないよね。朝日くんに拾ってもらえて、その猫喜んでると思う」
「優しいな白石は……」
結月の言葉を聞いて、嬉しそうに陽太が笑う。その笑顔はやっぱりとても優しくて、そしてとても温かかった。
(僕じゃなくて、優しいのは朝日くんの方だ……)
結局結月は、捨てられていたその子猫を飼ってあげることができなかった。思い出して顔を俯かせていると、伸びてきた手が優しく結月の頬を撫でた。甘い雰囲気に堪えられなくて、慌てて目を逸らす。
「今度うちに見に来る?」
「いいの!」
結月はパッと顔を輝かせた。嬉しそうな反応に、陽太は更に瞳を緩める。そしてそっと結月の耳元に口を寄せた。
「お家デートだ」
「っ~~~」
囁くように言われて、かかった吐息が耳を擽った。一瞬で結月の顔が赤くなる。
「かーわい」
「もう! からかうなよ‼」
「なんで? 自分の恋人が可愛いのなんて当たり前じゃん」
その上さらっとそんなことを言われて、ますます頬が熱を持つ。結月のいい反応に、陽太は楽しそうだ。
(慣れてるんだろうな……)
モテ男代表のような陽太に比べ、誰かと付き合ったことがない結月。罰ゲーム相手に、甘い言葉を簡単に囁けるぐらい、陽太は経験豊富なんだろう。そう思うと胸が痛んで、すぐに自分にそんな権利はないと、結月はそれを追い払う。
「何て名前なの、その子」
「えっ‼」
話を変えるように聞くと、何故か陽太が大きな声を出す。そして動揺するように口を押えた。その様子を不思議に思っていると、陽太が結月を伺うようにこちらをちらっと見て、意を決したように口を開く。
「ゆづ……」
「!」
一瞬、下の名前を呼ばれたのかと思って、心臓が跳ねる。
「猫の名前、『ゆづ』って言うんだ」
「あっ……猫の名前ね」
だけどすぐ勘違いだったと気付く。
「そっか、そうだよね」
「…………」
(そうだよ僕のバカッ! 朝日くんみたいな人気者が、僕の下の名前なんか知ってるはずないだろ)
ドキッとしたのを隠すように、結月はわざと明るい声を出す。少しの間結月を見つめ、陽太はハァとため息を吐いた。
「暗くなってきたし、そろそろ帰ろ」
座っていたベンチから陽太が立ち上がる。結月は慌てて後に続く。その横顔がどこか寂しそうなのに、結月は気付かなかった。
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