落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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一章

新年祭(オルフェ視点)

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夜のうちに、父上と二人で屋敷の“掃除”はほとんど終わらせた。だが、肝心のリュカへ掛ける言葉だけが見つからない。

父上は、あの薄汚い者達の件を「リュカの前で蒸し返す必要はない」と判断し、今回は母上にも一切知らせず、内々に処理をした。そのため朝食の席でも、両親は何事もなかったかのように振る舞い、リュカの様子にも特に変わりはないようだった。だが、それでも私は落ち着かない。

今日も書庫でリュカと過ごしているが、まったく会話がない。もともと会話は苦手であり、沈黙も珍しくないが、この時だけは居心地が悪い。

(こんな時だけ、レオンの無駄に動く口が羨ましくなるとはな…)

私がそんなくだらないことを考えていた時だった。

「はぁ…」

横でリュカの小さなため息が落ち、その瞬間、レオンに言われた言葉が思い浮かぶ。

“相手が悩んでいそうな時は、相談に乗ってやればいいんじゃねぇの?”

もちろん、あいつほど軽々しく喋れはしない。それに、相手の話を聞くのはレオンの役目であり、私は解決案を出す役割だった。

「…どうした?」

それでも私が声をかければ、リュカは少し驚いたようにこちらを見て、そして小さく答えた。

「えっと、明日からの授業が、嫌だなって…」

問いかけてから、昨日の件かと思ってしまったが、そうでなかったことに胸を撫で下ろす。そして、続きを促す。

「…何をやるんだ?」

「ダンスや、貴族の家名を覚えたり…」

ダンスなんて適当に動いていればそれらしく見える。それに、私達がそばにいるのだから、家名なんか覚える必要もない。

「嫌な貴族だけ覚えておけばいい」

怯えさせたくて言ったわけではないが、リュカが一瞬固まり、戸惑うのがわかった。しかし、私の言葉は本心だ。

(不愉快な真似をする相手の名前さえ分かっていれば、後はどうとでもなる。覚えていなくとも、私と父上でいずれ見つけ出すがな…)

首を傾げるリュカを横目に、私は自分の考えにほの暗い笑みを落とす。

翌日、注文していた諸外国の子供向けの本が屋敷に届いた。レグリウス家が贔屓にしていることもあって、対応が非常に早い。

学院は休みだったため、私は自ら本を受け取りに出た。使用人が減っているので、可能なことは自分でやった方が早い。母上は急に使用人の姿が減っているのを不思議がっていたが、一度に家庭教師を解雇した前例があるためか、それ以上は何も言わなかった。

「他の書物の取り寄せも可能ですが、いかがいたしましょう?」

「いや、それはまた後日でいい」

今週は新年祭の準備で、リュカがゆっくり本を読む暇などないだろうと、先に最優先の物だけ整えさせたが、リュカにとっては予想以上に過酷なようだった。私にとって新年祭の準備は慣れたものだが、初めての事ばかりで、終わる頃にはすっかり疲れ切っていた。

そして翌日、いよいよ新年祭当日となった。

馬車での移動中、リュカは緊張で固まっていたが、城に着けば楽しそうにしていたので問題なさそうだ。問題なのは、会場内に入った後から感じる貴族どもの視線だ。リュカは眩しそうにホールを見ていて気付いていないが、毎度のことながらうんざりする。

(見え過ぎていて、相手を不快にさせている事に、いい加減に気付くべきだ…)

そんな時だった。

「オルフェ!」

振り返れば、レオンがこちらに近づいてくるところだった。余計な事を言うのだけはやめてほしいと思っていると、勝手に自己紹介し、馴れ馴れしくリュカに話しかけ始めた。案の定、奴は口を開いた。

「オルフェが言ってた通りかw…」

「…余計な事を言うな」

私が可愛いと口走っていた事を本人に話そうとしたため、奴を黙らせるために頭を締め上げ黙らせると、レオンは情けない声を上げた。

「オルフェ!痛い!今回はいつもより痛い!!」

気恥ずかしさがあった分、つい力が入ったが、私は悪くない。悪いのは隠そうとしていた事を言ったコイツだ。

その後も、レオンとの無駄なやり取りをしながら、ふと振り返れば、リュカの姿がない。

「母上、リュカを知りませんか?」

私の言葉に、母上も慌てて捜索を始めた。その様子を確認し、私もすぐに動く。

レオンも「探すの手伝う!」と協力を申し出て、私とは反対方向へ駆け出していった。私は期待を込めつつ、料理卓のほうへ向かう。そして、ようやくリュカの姿が見えた瞬間、胸が凍りついた。

リュカが、誰かとぶつかり転びそうになっているのを見た瞬間、考えるより先に体が反応し、私は反射的にリュカの腕をつかんで引き寄せた。

リュカは今にも泣き出しそうな顔をしていたが、幸い怪我はない。しかし、傍目から見て、今のは“偶然”ではなかった。私が鋭く睨むと、薄笑いを浮かべていた男は途端に青ざめ、慌ててその場から逃げ去っていった。

(後で覚えていろ…)

リュカを連れて父上たちのもとへ戻ろうとしたその時、タイミングの悪いことに、ホール全体に軽やかな音楽が流れはじめた。これでは、しばらく動くことができない。

仕方なく足を止め、腕の中のリュカの様子をうかがう。リュカは、不安げだった表情を少しだけ落ち着かせながら、ホールの中央で踊る貴族たちをじっと見つめていた。そういえば、ダンスの授業を頑張っている、と話していたことを思い出す。

「踊りたいのか?」

そう尋ねると、リュカは一瞬躊躇うように視線を揺らながら言葉を紡ぐが、目は明らかにホールへ向いていた。その表情を見る限り、本当は踊りたいのだろう。そんなリュカの手をそっと取って、私は踊っている貴族たちの輪へと向かう。

女性パートを踊ったことはさすがにないが、見慣れていることもあり、リュカの歩幅に合わせてゆっくりとリードしながら、二人で踊り始める。

これまで誰かと踊りたいと思ったことなど一度もなかったが、リュカとなら、こうして踊るのも悪くない。

踊り終えた後、リュカが喉の渇きを覚えたようだったので、飲み物を取りに離れた。しかし戻る途中、何人もの令嬢に取り囲まれ、足を止められてしまう。

「私とも踊ってくださいませんか?」

「いえ、ぜひ私と!」

(……鬱陶しい)

欲を孕んだ視線を向けられるたびに、以前の家庭教師の一件が脳裏をよぎり、嫌悪がせり上がってくる。無視して突破することもできるが、リュカがいる場所までついて来られては困る。どう捌くべきか思案していた、その時だった。

「オルフェ? 弟は見つか……って、こんなところにいたのかよ!遅いから探しに来たぞ! この後も予定あるって言ってただろ!」

聞き慣れた声の主は、令嬢たちが口を開くより早く、当然のように私の腕をつかみ、人混みの外まで引っ張り出した。

「ほら、あの令嬢が追って来ないかは俺が見ておく。だから、お前は弟のところに行ってこいって」

「……よく分かったな?」

何も説明していないのに状況を理解したらしく、レオンは笑みを浮かべた。

「お前、ジュースなんて飲まないだろ?子共の頃、夜会で散々ジュースばっかり出されて、“子供扱いはもう御免だ”って言ってただろ?だから弟の分だと思ってな。見つかってよかったじゃないか!」

私の手にあるグラスを見ただけで察したようだ。こういうところは妙に鋭いのに、なぜ勉学にはその才能を発揮できないのか、皮肉のひとつも言いたくなる。だが、悪意など一切なく、純粋な善意だけで動いているのが分かるからこそ、意地を張るのが馬鹿らしくなってくる。

「……助かった」

「普段から迷惑かけてるし、こんな時くらいはな!」

「そう思うなら、お人好しは控えろ」

「考えてはおく!」

どうせ、この言葉もすぐに忘れてまた誰かに手を差し伸べるのだろうが、それに救われている自分もいるのだから強くは言えない。しかし、そう思える時点で、随分とお人好しが移ったものだと内心で苦笑する。

「それより、これ以上変なのに絡まれないうちに、弟のところ戻れよ!」

「あぁ……そうだな」

レグリウス家をよく思わない者は少なくない。だからこそ、先ほどのような輩が近づく可能性もある。

レオンに短く礼を言い、急いでリュカの元へ戻ると、すでに父上と母上がリュカを見つけ、私の帰りを待っていた。

どうやら、私の不在中に何者かがリュカへ近づいたらしいが、父上が追い払ってくれたようだ。これ以上、この場に滞在するのは意味はないと判断し、父上の言葉に従って、私たちは早々に城を後にした。
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