落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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一章

宿を抜けて(オルフェ視点)

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新年祭が終わった翌日、私たちは家族でラクスへと向けて旅立った。だが、馬車の中で、母上から唐突にリュカとの関係について尋ねられ、少しだけ肩が強張る。

「リュカとは最近どうなの?」

「……避けられなくは、なりました」

「そう。それなら良かったわね。でも、そうなったのは、あなたが努力したからよ。だから、もう少し自信を持ったら?」

「……そうですね」

私が力なく答えると、母上はどこか困ったように、それでも優しさを含んだ苦笑を浮かべながら言葉を返した。だが、その努力は「兄として当然だ」と思う自分もいて、素直に受け止めていい言葉なのか分からず、曖昧に頷くしかなかった。

「オルフェは何でもそつなくこなせるのに、人との距離間だけは本当に不器用よね。この旅行を機に、少しだけ素直になってみたら?」

「……素直に、ですか」

言葉にしてみたが、それが出来出来るのならば、何も苦労はしていない。私は母の言葉に曖昧に相槌を返しながら窓の外を眺め、気持ちを切り替えるように深く息をついた。

そんなやり取りをしつつ、休憩を取りながらラクスを目指せば、予定通り宿には到着した。その後、荷物を部屋に置いてから家族で夕食をとったが、リュカは楽しそうに料理を頬張り、宿の雰囲気にも浮き立っている様子だった。途中、給仕がリュカと同じジュースを持ってきたが、父上が同じ飲み物を交換する際に一緒の物をもらった。

リュカは移動の疲れもあったからか、途中から船を漕ぎはじめた。母上まで眠そうにしていたのは珍しいが、新年祭の後だ。無理をしていたのだろうと父上が気を使って、早めに切り上げる事になった。

その夜、出かける準備をしつつ、部屋で静かに過ごしていると、廊下を歩く気配がした。しばらくして、窓から外を覗くと、父上が湖の方へ向かっているのが見えた。

王都の外に出掛けた際、毎度の事のように周囲を確認しに行っていたため、今日も魔物の気配や治安の確認に行ったのだろうと思い。私も今のうちにすべきことを済ませるかと、急いで身支度を整え、私も宿を出た。

町を抜けて人目のない森に入ると、私は魔力を練り、呼び名を口にした。

「来い。アクア、イグニス」

2つの魔法陣がまばゆい光を放ち、森の闇を切り裂くように照らし、光は次第に大きさを増していく。それが、頂点に達した瞬間、ふっと掻き消え、その光の残滓の中から、青い龍と赤い龍。2体の巨大な龍が姿を現した。

どちらも色こそ違えど、形状はほとんど同じで、全長は五メートルほどあり、木々に囲まれた閉ざされた森の中で見ると、その圧迫感から、存在そのものが空気を震わせているようだった。

2体の龍は、いずれも鋭く伸びた爪を持ち、頭にはそれぞれ二本の角。背中には、その巨躯を空へ押し上げるに十分すぎるほどの大きな翼が張り出している。そして、尾の先までびっしりと覆う鱗は月光を受けて一枚一枚が煌めき、神秘的な輝きを放っていた。

(やはり無駄にでかいな…)

他人から見れば圧巻の光景だろうが、私にとっては見慣れた存在でしかない。その中身を知っていれば、なおさらだ。

リュカと母上を宿に残している手前、長居をするつもりはない。父上が街にいる限りは大丈夫だろうと思っても、早く用件を済ませようと2体へ向き直った瞬間だった。

イグニスが勢いよくこちらへ突進してくるのが視界に入り、私は一歩、身体を横へずらしてかわす。すると、次の瞬間、赤いものが風を切って通り過ぎ、盛大な音を立ててながら、そのまま頭から地面に突っ込んでいった。

「突っ込んでくるな。体格差を考えろ」

自分の召喚獣とはいえ、考える前に行動するその性質は、どこかレオンに似ていて、ため息がこぼれそうになる。

イグニスは赤い鱗を持つ炎龍で、炎の扱いを得意とする。だが、感情と勢いだけで動くことが多く、何か問題を起こすとしたら、真っ先に犯人となるのがだいたいコイツだ。そして、その様子を見ているアクアは青い鱗を持つ水龍で、イグニスよりは幾分か冷静ではあるが、結局は最後には一緒になって騒ぎ立て、頭痛の種であることに変わりはない。

屋敷にいた頃は二体ともあちこちで遊び回り、物を壊しては私の怒りを買っていた。リュカが歩き回るようになってからは、万が一リュカが巻き込まれでもしたら大変だと思い、なるべく私の部屋から出ないようにきつく言い含めていた。

そして、そんなある日。学院から帰って部屋に入ると、飾り棚に置いてあった小物が壊滅していた。そして、怒りで視界が赤く染まり、気づけば魔力が暴走した。その結果、部屋が半壊し、原因である二体は吹っ飛んでいた。にもかかわらず、何事もなかったかのように戻ってきたため、もう一度吹っ飛ばしておいた。

そんな経緯もあり、二体を部屋からだけでなく、屋敷からも追い出した。しかし、今度は追い出した先の裏庭を散々荒らし、そこに住み着く小動物を追いかけ回して遊び始めたので、そこまで元気がありあまっているなら、“王都の外で魔物狩りでもしてこい”と命じた。

それからも順調に成長を続けながら巨体になっていく二体の様子を見に、定期的に王都の外まで足を運んでいたのだが、最近は忙しく、会うのはひさしぶりだった。だが、精神面だけは、いつまで経っても成長しない。

「今後、お前達にもリュカの護衛を頼む機会があるかもしれない。だが……その際も絶対に問題を起こすなよ……」

龍だからなのか、二体は何でも力技で解決しようとする癖がある。そのせいで、本来なら小さく収まるはずの出来事を、平然と大ごとにしてしまうことが、これまでも何度かあった。

私がそばにいる時ならまだ制御できる。だが、もしリュカしか側にいない時に問題を起こされたら、その危険を思うのは……と考えたら背筋が冷える。

「絶対に余計なことはするな」

低い声で念押しすると、二体はこくこくと必死に頷いてはいた。だが、叱られる度に同じ行動をしていただけに、返って信用はできない。そのせいで、つい釘を刺し続け、気づけば宿に戻る時間が少し遅くなっていた。

足早に道を戻っていたその時、町の空気に、どこか不穏なざわつきを感じ取った。

その気配に胸の奥で小さく警鐘が鳴り、私は周囲に警戒を向けながらも歩調を速める。宿が視界に入り、あと少しという距離まで近づいた頃、“そいつら”は、闇から滲み出るように姿を現した。
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