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2学期編2
第4話『お化け屋敷』
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「おかえりなさーい! お疲れ様でしたー!」
フリーフォールのマシンが地上に戻ったとき、男性のスタッフさんが俺達に向かってそう言ってきた。ジェットコースターを担当していた女性のスタッフさんもおかえりと言っていたけど、東都ドームタウンでは接客においてそういう決まりになっているのだろうか。
スタッフさんが安全バーを上げたので、俺達はマシンから降りる。そのことで、両脚が地面に着いて。フリーフォールが落下したとき、脚がフワッと浮いたのもあり、こうして立っていることに安心感がある。
「フリーフォールも楽しかった!」
「楽しかったな。結衣と一緒に叫べたし」
「結構大きな声で叫んでたよね」
「ああ。一瞬だったけど、脚がフワッとする中で落下するのはスリルがあったし」
「ジェットコースターとは違うスリルさがあったよね。私も悠真君と一緒に絶叫して楽しかったよ!」
結衣はニコッとした笑顔でそう言ってくれる。フリーフォールもジェットコースターもスリルがあって怖かったけど、結衣と一緒だととても楽しいしまた乗りたいなって思う。
フリーフォールの乗り場を後にする。お昼が近いのもあって、来園しているお客さんの数はさらに多くなっている。
「悠真君。次はどこに行こうか?」
「そうだなぁ。結衣と一緒に遊園地に来たのは初めてだから、定番のアトラクションに行きたいな」
「確かに。定番のところは行きたいよね」
「ああ。ジェットコースターとフリーフォールの他に定番のアトラクションといえば……お化け屋敷かな」
「お化け屋敷は定番だね」
「だよな。お化け屋敷は結構好きなんだ。遊園地に来たら必ず行くよ。結衣はお化け屋敷ってどう? 心霊タイプの絶叫系アトラクションだけど」
「心霊系は怖いからちょっと苦手だな。でも、お化け屋敷は定番だから行くことが多いよ。怖いもの見たさもある」
「なるほどな」
「心霊系が平気な人が一緒なら大丈夫だよ。この前来たときは姫奈ちゃんにしがみついてた」
「そっか」
伊集院さんは心霊系が平気なタイプなのか。ちょっと意外だ。
「悠真君ってどう?」
「平気だよ」
「そうなんだ。なら、お化け屋敷行く」
「分かった。じゃあ、お化け屋敷に行くか。嫌になったら遠慮なく言ってくれよ」
「うんっ、ありがとう」
お化け屋敷に入るときは、心霊系が苦手な結衣の支えにならないとな。
俺達はお化け屋敷に向かって歩き出す。
ただ、お化け屋敷はフリーフォール乗り場の近くからも見える場所にあるため、すぐに着くことができた。
お化け屋敷も定番のアトラクションだから、入口前には列ができている。ただ、ジェットコースターやフリーフォールの列よりも短いので、お化け屋敷には早く入れるかもしれないな。そう思いつつ、俺達は最後尾に並んだ。
「心霊系が平気だなんて。悠真君、凄いなぁ」
「そう言ってくれて嬉しいな。ジェットコースターとフリーフォールでは結衣が頼もしかったから、今度は俺の番だな。お化け屋敷でも俺が側にいるから、安心してくれ」
結衣の目を見つめながら俺はそう言った。
「悠真君……」
結衣はうっとりとした様子で俺のことを見つめてくる。
「悠真君がかっこよくてキュンとした。安心してきたよ」
「ははっ、そっか。ジェットコースターで並んでいたときに結衣が言ってくれたことのお返しだ」
「ふふっ。頼りにしてるよ、悠真君」
「ああ」
お化け屋敷では結衣に頼もしいって思ってもらえたら嬉しいな。
列が短めだったのもあり、並び始めてから15分ほどで俺達の番になった。俺達はお化け屋敷の中に入る。
お化け屋敷の中は薄暗くて、肌寒い。これまで晴天の下にいたし結構暑かったので、人によってはお化け屋敷に入っただけでも怖さを感じるかもしれない。寒くしているのは、怖く思わせる演出の一つかも。あとは、お化けや幽霊役の人の熱中症対策もありそう。
心霊系が苦手な結衣は大丈夫だろうか。結衣の方を見てみると……これまでたくさん見せていた笑顔が消えて、ちょっと緊張しい様子に。
「結衣、大丈夫か?」
「……ちょ、ちょっと緊張してる。あと、外が暑かったから結構寒く感じる……」
「そうだな。それに、結衣の服はノースリーブだし。じゃあ、俺の腕を抱きしめるか? そうすれば、手を繋いでいる今よりも少しは温かく感じられるんじゃないか」
「ナイスアイデア! そうする!」
元気良く言うと、結衣は俺の右手を話して、俺の右腕をぎゅっと抱きしめてきた。そのことで、俺の右腕は結衣の温もりに包まれる。あと、服越しでも結衣の胸の柔らかさが伝わってくるし。正直、かなり気持ちいい。
「悠真君の腕、あったかくて気持ちいい。さっきより安心してきた」
結衣の顔に笑みが戻る。腕を抱きしめるかって提案してみて正解だったな。
そういえば、昔、家族でお化け屋敷に入ったとき、芹花姉さんが俺の腕にぎゅっとしがみついていたっけ。
「良かった。じゃあ、行くか」
「うんっ」
俺達はお化け屋敷の中を歩き始める。ゆっくりとした歩みで。
壁には『レントゲン室』と書かれたボロボロの看板が設置されていたり、病院内での諸注意が書かれた色褪せている紙が貼られたりしている。どうやら、このお化け屋敷は廃病院がコンセプトになっているようだ。
「ここは廃病院みたいだな。俺が前に来たときは廃校になった小学校だったから変わったんだ。結衣が前に伊集院さん達と来たときは病院だった?」
「うん、そうだったと思う。でも、姫奈ちゃんにしがみついていたから、怖かったことくらいしか覚えてない……」
「そっか」
心霊系が苦手だと、ここのお化け屋敷は怖いという印象がどうしても色濃く残ってしまうのだろう。あまり覚えてないのも無理はない。廃病院のままなら、結衣は多少の心構えができていいんじゃないかと思ったけど。まあ、それでも俺が結衣の側にいて支えることには変わりない。
それからも、俺達は順路に従ってお化け屋敷を進んでいく。そろそろ1人目のお化けや幽霊が登場しても――。
――ガラガラ!
「そこのお二人……診察はいかがですか……」
「きゃあああっ!」
右側にある扉が勢い良く開き、血まみれの白衣を着た男性が姿を現した! その瞬間、結衣は絶叫して俺の右腕をさらにぎゅっと抱きしめる。ジェットコースターやフリーフォールのときよりもボリュームが大きく、結衣の体が小刻みに震えている。相当怖かったんだな。
閉まっている扉が急に開いたから、俺もちょっとビックリした。
白衣は血まみれだし、顔色も青白い。セリフからして、ここの病院で亡くなった医者の設定だろうか。
「俺は……女好きの医師でね。妻もいるのに、患者の女性に手を出して……仕事も家族も失ってね。メスで首を切って自殺したのさ……」
「そう……ですか……」
返事をしなくていいのかもしれないけど、返事をしてしまった。
というか、お化け屋敷の幽霊なのに、随分と生々しい設定だな。高校生の俺達だからまだしも、小さい子供にも今のように言ってしまうのだろうか。言葉を選んで説明してほしいものである。
「それで、診察はいかがですか……。特にそちらの黒髪の女性……」
「いやっ!」
お化けの医者の方に向くことなく、結衣は拒否する。首をブンブンと横に振って。ここまで拒否反応を示す結衣は見たことないぞ。黒髪の女性、と自分に意識を向けられたのが怖いのかもしれない。
「そうですか……残念……」
はあっ……と本当に残念そうにしているお化けの医者。まさか、結衣に触れたいとか思っていたんじゃないだろうな。もしそうなら、彼氏の俺が許さないぞ。
「あの、先に進んでいいですか?」
「……どうぞ。薄暗いので足元にはお気を付けください……」
「どうも」
俺と結衣は再び順路を進んでいく。
お化け屋敷によっては、お化けや幽霊が後ろから追いかけてくることもある。なので、チラッと後ろを見るけど……特に追いかけてくるお化けや幽霊はいなかった。
「怖かった……。いきなり扉が開くし、幽霊メイクも凄いし、私に診察どうですかって訊いてくるし……」
「凄い絶叫だったな。診察も激しく拒否していたし」
「ああいう風に嫌だって言ったの久しぶりだよ。……悠真君は怖くなかった?」
「扉が勢い良く開いたことにちょっとビックリしたくらいで、怖くはなかったな」
「そうなんだ。確かに、あの男の人にも落ち着いて話していたよね。凄いね、悠真君! かっこいいよ! 悠真君がいて良かった……」
そう言うと、結衣は俺のことを見上げて、ニッコリと笑いかけてくる。
結衣に「凄い」とか「かっこいい」とか褒めてもらえたことはもちろん、俺が頼りになったみたいで嬉しいな。何よりもお化け屋敷の中でも結衣の笑顔を見られるのが嬉しい。
「結衣にそう言ってもらえて嬉しいよ。さあ、先に進もうか」
「うんっ」
順路に従って、お化け屋敷の中を歩いていく。
「悠真君のおかげで心に余裕が生まれたからかな。何だかドキドキしてきたよ。薄暗い中2人で歩いているし。悠真君の腕があったかいし……」
恍惚とした笑顔でそう話す結衣。怖いお化け屋敷の中でもそういうことを考えられるとは。
「結衣らしいな」
俺がそう言うと、結衣は俺のことを見ながら「えへへっ」と笑う。どんな場所でも結衣の笑顔は可愛い。
これまで真っ直ぐ歩いていたけど、それから程なくして、順路は右に曲がるという案内板が見えた。
案内板に従って右に曲がると、そこは病室。順路の左右に3床ずつベッドが置かれている。いくつかのベッドの掛け布団は膨らんでいるし、お化けの患者さんが飛び出してきそうな展開だなぁ。
「ベッドがあるね。休憩しちゃう?」
「まさかの休憩提案」
「ふふっ。冗談だよ。でも、ベッドで休憩って……ちょっと厭らしいね」
ニヤリとした笑みを浮かべながら、結衣はそう言ってくる。薄暗い中で俺と密着し続けているからだろうか。こんな場所でも言えるところが凄い。
「う……ら……め……し……や……」
「う……ら……め……し……や……。あと、う……ら……や……ま……し……」
部屋の中から女性2人の声が聞こえてきた。だからか、結衣は体をピクッと震わせ、笑顔が硬くなっていく。
「あたしと一緒に天国に来ない?」
「私とも一緒に……!」
左右それぞれの真ん中のベッドから、入院着姿の黒髪の女性と茶髪の女性が飛び出してきて、俺達の目の前までやってきた。それもあり、
「きゃあああっ!」
と、結衣はさっきと同じく絶叫して、俺にしがみついた。体が震えていて。薄暗い中でドキドキしていても、お化けや幽霊役の人が現れたらすぐに怖くなってしまうか。
「あらぁ、メガネのイケメンさん」
「そうだねぇ。でも、私は女の子の方もいいなって思うよ」
患者の女性2人はうっとりとした様子で俺達のことを見てくる。茶髪の女性は女の子の方もいいと言われたからか、結衣は「ひいっ」と声を上げている。
「あと、ベッドで休憩って言葉が聞こえたけど、ここはラブホじゃなくて病室だよ、カップルさん」
黒髪の女性は俺を見つめながらそう言ってくる。俺達のさっきの会話が聞こえていたのか。
「もちろん何もしませんよ。彼女も冗談だって言っていますし」
「ふふっ。でも……カップルで遊園地だなんて羨ましいなぁ。私も彼氏作って遊園地行きたい。でも、彼氏全然できない……」
「あたしも恋人と行きたいよ。ちょっと前に彼氏にフラれちゃって。だから、カップルの客を見ると羨ましくて……」
はあっ、と茶髪の女性はため息をつく。そういえば、この人の声でさっき「うらやましー」って言っていたな。また、ため息がうつったのか、黒髪の女性も「はあっ」とため息をついた。
この様子からして、彼氏を作りたくて、遊園地に遊びに行きたくて、俺達が羨ましいのは演じているお化けの設定じゃなくて2人の本心のようだ。これまでも、カップルのお客さんには羨ましさを抱きながら驚かしてきたのかもしれない。
「えっと、その……お仕事お疲れ様です。お二人に素敵な恋人ができることを願っています」
「ありがとう、彼氏さん!」
「ありがとう! 仕事中に、お客様から恋人ができることを願うって言われたのは初めてだよ!」
「私も!」
お化け役の女性達はとても嬉しそうだ。心霊系が苦手な人なら結衣のような反応になるだろうし。俺みたいに平気な人でも、恋人ができることを願うなんて言う人はそうそういないだろうと我ながら思う。
「あの……先に進んでもいいですか? 彼女も怖がっていますし」
『どうぞどうぞ』
女性2人は快諾してくれ、自分達がいたベッドへと戻っていった。良かったよ。カップルだからって、これ以上絡まれることがなくて。
俺と結衣は病室を抜けて、順路を進んでいく。
「悠真君のおかげで、ここも無事に通過できたよ」
「カップルを羨ましがっていたのは、設定じゃなくて本心だったみたいだから。何とか通過できて良かった」
「そうだね」
結衣はほっと胸を撫で下ろす。あの2人がカップルを羨ましがっていたから、もしかしたら、最初の医者の男性よりも怖かったのかもしれない。
それ以降も、順路を進んでいくと、たまに医者や患者、看護師のお化けや幽霊役のキャストが俺達の前に現れて。その度に、結衣は絶叫して俺にしがみついていたのであった。
フリーフォールのマシンが地上に戻ったとき、男性のスタッフさんが俺達に向かってそう言ってきた。ジェットコースターを担当していた女性のスタッフさんもおかえりと言っていたけど、東都ドームタウンでは接客においてそういう決まりになっているのだろうか。
スタッフさんが安全バーを上げたので、俺達はマシンから降りる。そのことで、両脚が地面に着いて。フリーフォールが落下したとき、脚がフワッと浮いたのもあり、こうして立っていることに安心感がある。
「フリーフォールも楽しかった!」
「楽しかったな。結衣と一緒に叫べたし」
「結構大きな声で叫んでたよね」
「ああ。一瞬だったけど、脚がフワッとする中で落下するのはスリルがあったし」
「ジェットコースターとは違うスリルさがあったよね。私も悠真君と一緒に絶叫して楽しかったよ!」
結衣はニコッとした笑顔でそう言ってくれる。フリーフォールもジェットコースターもスリルがあって怖かったけど、結衣と一緒だととても楽しいしまた乗りたいなって思う。
フリーフォールの乗り場を後にする。お昼が近いのもあって、来園しているお客さんの数はさらに多くなっている。
「悠真君。次はどこに行こうか?」
「そうだなぁ。結衣と一緒に遊園地に来たのは初めてだから、定番のアトラクションに行きたいな」
「確かに。定番のところは行きたいよね」
「ああ。ジェットコースターとフリーフォールの他に定番のアトラクションといえば……お化け屋敷かな」
「お化け屋敷は定番だね」
「だよな。お化け屋敷は結構好きなんだ。遊園地に来たら必ず行くよ。結衣はお化け屋敷ってどう? 心霊タイプの絶叫系アトラクションだけど」
「心霊系は怖いからちょっと苦手だな。でも、お化け屋敷は定番だから行くことが多いよ。怖いもの見たさもある」
「なるほどな」
「心霊系が平気な人が一緒なら大丈夫だよ。この前来たときは姫奈ちゃんにしがみついてた」
「そっか」
伊集院さんは心霊系が平気なタイプなのか。ちょっと意外だ。
「悠真君ってどう?」
「平気だよ」
「そうなんだ。なら、お化け屋敷行く」
「分かった。じゃあ、お化け屋敷に行くか。嫌になったら遠慮なく言ってくれよ」
「うんっ、ありがとう」
お化け屋敷に入るときは、心霊系が苦手な結衣の支えにならないとな。
俺達はお化け屋敷に向かって歩き出す。
ただ、お化け屋敷はフリーフォール乗り場の近くからも見える場所にあるため、すぐに着くことができた。
お化け屋敷も定番のアトラクションだから、入口前には列ができている。ただ、ジェットコースターやフリーフォールの列よりも短いので、お化け屋敷には早く入れるかもしれないな。そう思いつつ、俺達は最後尾に並んだ。
「心霊系が平気だなんて。悠真君、凄いなぁ」
「そう言ってくれて嬉しいな。ジェットコースターとフリーフォールでは結衣が頼もしかったから、今度は俺の番だな。お化け屋敷でも俺が側にいるから、安心してくれ」
結衣の目を見つめながら俺はそう言った。
「悠真君……」
結衣はうっとりとした様子で俺のことを見つめてくる。
「悠真君がかっこよくてキュンとした。安心してきたよ」
「ははっ、そっか。ジェットコースターで並んでいたときに結衣が言ってくれたことのお返しだ」
「ふふっ。頼りにしてるよ、悠真君」
「ああ」
お化け屋敷では結衣に頼もしいって思ってもらえたら嬉しいな。
列が短めだったのもあり、並び始めてから15分ほどで俺達の番になった。俺達はお化け屋敷の中に入る。
お化け屋敷の中は薄暗くて、肌寒い。これまで晴天の下にいたし結構暑かったので、人によってはお化け屋敷に入っただけでも怖さを感じるかもしれない。寒くしているのは、怖く思わせる演出の一つかも。あとは、お化けや幽霊役の人の熱中症対策もありそう。
心霊系が苦手な結衣は大丈夫だろうか。結衣の方を見てみると……これまでたくさん見せていた笑顔が消えて、ちょっと緊張しい様子に。
「結衣、大丈夫か?」
「……ちょ、ちょっと緊張してる。あと、外が暑かったから結構寒く感じる……」
「そうだな。それに、結衣の服はノースリーブだし。じゃあ、俺の腕を抱きしめるか? そうすれば、手を繋いでいる今よりも少しは温かく感じられるんじゃないか」
「ナイスアイデア! そうする!」
元気良く言うと、結衣は俺の右手を話して、俺の右腕をぎゅっと抱きしめてきた。そのことで、俺の右腕は結衣の温もりに包まれる。あと、服越しでも結衣の胸の柔らかさが伝わってくるし。正直、かなり気持ちいい。
「悠真君の腕、あったかくて気持ちいい。さっきより安心してきた」
結衣の顔に笑みが戻る。腕を抱きしめるかって提案してみて正解だったな。
そういえば、昔、家族でお化け屋敷に入ったとき、芹花姉さんが俺の腕にぎゅっとしがみついていたっけ。
「良かった。じゃあ、行くか」
「うんっ」
俺達はお化け屋敷の中を歩き始める。ゆっくりとした歩みで。
壁には『レントゲン室』と書かれたボロボロの看板が設置されていたり、病院内での諸注意が書かれた色褪せている紙が貼られたりしている。どうやら、このお化け屋敷は廃病院がコンセプトになっているようだ。
「ここは廃病院みたいだな。俺が前に来たときは廃校になった小学校だったから変わったんだ。結衣が前に伊集院さん達と来たときは病院だった?」
「うん、そうだったと思う。でも、姫奈ちゃんにしがみついていたから、怖かったことくらいしか覚えてない……」
「そっか」
心霊系が苦手だと、ここのお化け屋敷は怖いという印象がどうしても色濃く残ってしまうのだろう。あまり覚えてないのも無理はない。廃病院のままなら、結衣は多少の心構えができていいんじゃないかと思ったけど。まあ、それでも俺が結衣の側にいて支えることには変わりない。
それからも、俺達は順路に従ってお化け屋敷を進んでいく。そろそろ1人目のお化けや幽霊が登場しても――。
――ガラガラ!
「そこのお二人……診察はいかがですか……」
「きゃあああっ!」
右側にある扉が勢い良く開き、血まみれの白衣を着た男性が姿を現した! その瞬間、結衣は絶叫して俺の右腕をさらにぎゅっと抱きしめる。ジェットコースターやフリーフォールのときよりもボリュームが大きく、結衣の体が小刻みに震えている。相当怖かったんだな。
閉まっている扉が急に開いたから、俺もちょっとビックリした。
白衣は血まみれだし、顔色も青白い。セリフからして、ここの病院で亡くなった医者の設定だろうか。
「俺は……女好きの医師でね。妻もいるのに、患者の女性に手を出して……仕事も家族も失ってね。メスで首を切って自殺したのさ……」
「そう……ですか……」
返事をしなくていいのかもしれないけど、返事をしてしまった。
というか、お化け屋敷の幽霊なのに、随分と生々しい設定だな。高校生の俺達だからまだしも、小さい子供にも今のように言ってしまうのだろうか。言葉を選んで説明してほしいものである。
「それで、診察はいかがですか……。特にそちらの黒髪の女性……」
「いやっ!」
お化けの医者の方に向くことなく、結衣は拒否する。首をブンブンと横に振って。ここまで拒否反応を示す結衣は見たことないぞ。黒髪の女性、と自分に意識を向けられたのが怖いのかもしれない。
「そうですか……残念……」
はあっ……と本当に残念そうにしているお化けの医者。まさか、結衣に触れたいとか思っていたんじゃないだろうな。もしそうなら、彼氏の俺が許さないぞ。
「あの、先に進んでいいですか?」
「……どうぞ。薄暗いので足元にはお気を付けください……」
「どうも」
俺と結衣は再び順路を進んでいく。
お化け屋敷によっては、お化けや幽霊が後ろから追いかけてくることもある。なので、チラッと後ろを見るけど……特に追いかけてくるお化けや幽霊はいなかった。
「怖かった……。いきなり扉が開くし、幽霊メイクも凄いし、私に診察どうですかって訊いてくるし……」
「凄い絶叫だったな。診察も激しく拒否していたし」
「ああいう風に嫌だって言ったの久しぶりだよ。……悠真君は怖くなかった?」
「扉が勢い良く開いたことにちょっとビックリしたくらいで、怖くはなかったな」
「そうなんだ。確かに、あの男の人にも落ち着いて話していたよね。凄いね、悠真君! かっこいいよ! 悠真君がいて良かった……」
そう言うと、結衣は俺のことを見上げて、ニッコリと笑いかけてくる。
結衣に「凄い」とか「かっこいい」とか褒めてもらえたことはもちろん、俺が頼りになったみたいで嬉しいな。何よりもお化け屋敷の中でも結衣の笑顔を見られるのが嬉しい。
「結衣にそう言ってもらえて嬉しいよ。さあ、先に進もうか」
「うんっ」
順路に従って、お化け屋敷の中を歩いていく。
「悠真君のおかげで心に余裕が生まれたからかな。何だかドキドキしてきたよ。薄暗い中2人で歩いているし。悠真君の腕があったかいし……」
恍惚とした笑顔でそう話す結衣。怖いお化け屋敷の中でもそういうことを考えられるとは。
「結衣らしいな」
俺がそう言うと、結衣は俺のことを見ながら「えへへっ」と笑う。どんな場所でも結衣の笑顔は可愛い。
これまで真っ直ぐ歩いていたけど、それから程なくして、順路は右に曲がるという案内板が見えた。
案内板に従って右に曲がると、そこは病室。順路の左右に3床ずつベッドが置かれている。いくつかのベッドの掛け布団は膨らんでいるし、お化けの患者さんが飛び出してきそうな展開だなぁ。
「ベッドがあるね。休憩しちゃう?」
「まさかの休憩提案」
「ふふっ。冗談だよ。でも、ベッドで休憩って……ちょっと厭らしいね」
ニヤリとした笑みを浮かべながら、結衣はそう言ってくる。薄暗い中で俺と密着し続けているからだろうか。こんな場所でも言えるところが凄い。
「う……ら……め……し……や……」
「う……ら……め……し……や……。あと、う……ら……や……ま……し……」
部屋の中から女性2人の声が聞こえてきた。だからか、結衣は体をピクッと震わせ、笑顔が硬くなっていく。
「あたしと一緒に天国に来ない?」
「私とも一緒に……!」
左右それぞれの真ん中のベッドから、入院着姿の黒髪の女性と茶髪の女性が飛び出してきて、俺達の目の前までやってきた。それもあり、
「きゃあああっ!」
と、結衣はさっきと同じく絶叫して、俺にしがみついた。体が震えていて。薄暗い中でドキドキしていても、お化けや幽霊役の人が現れたらすぐに怖くなってしまうか。
「あらぁ、メガネのイケメンさん」
「そうだねぇ。でも、私は女の子の方もいいなって思うよ」
患者の女性2人はうっとりとした様子で俺達のことを見てくる。茶髪の女性は女の子の方もいいと言われたからか、結衣は「ひいっ」と声を上げている。
「あと、ベッドで休憩って言葉が聞こえたけど、ここはラブホじゃなくて病室だよ、カップルさん」
黒髪の女性は俺を見つめながらそう言ってくる。俺達のさっきの会話が聞こえていたのか。
「もちろん何もしませんよ。彼女も冗談だって言っていますし」
「ふふっ。でも……カップルで遊園地だなんて羨ましいなぁ。私も彼氏作って遊園地行きたい。でも、彼氏全然できない……」
「あたしも恋人と行きたいよ。ちょっと前に彼氏にフラれちゃって。だから、カップルの客を見ると羨ましくて……」
はあっ、と茶髪の女性はため息をつく。そういえば、この人の声でさっき「うらやましー」って言っていたな。また、ため息がうつったのか、黒髪の女性も「はあっ」とため息をついた。
この様子からして、彼氏を作りたくて、遊園地に遊びに行きたくて、俺達が羨ましいのは演じているお化けの設定じゃなくて2人の本心のようだ。これまでも、カップルのお客さんには羨ましさを抱きながら驚かしてきたのかもしれない。
「えっと、その……お仕事お疲れ様です。お二人に素敵な恋人ができることを願っています」
「ありがとう、彼氏さん!」
「ありがとう! 仕事中に、お客様から恋人ができることを願うって言われたのは初めてだよ!」
「私も!」
お化け役の女性達はとても嬉しそうだ。心霊系が苦手な人なら結衣のような反応になるだろうし。俺みたいに平気な人でも、恋人ができることを願うなんて言う人はそうそういないだろうと我ながら思う。
「あの……先に進んでもいいですか? 彼女も怖がっていますし」
『どうぞどうぞ』
女性2人は快諾してくれ、自分達がいたベッドへと戻っていった。良かったよ。カップルだからって、これ以上絡まれることがなくて。
俺と結衣は病室を抜けて、順路を進んでいく。
「悠真君のおかげで、ここも無事に通過できたよ」
「カップルを羨ましがっていたのは、設定じゃなくて本心だったみたいだから。何とか通過できて良かった」
「そうだね」
結衣はほっと胸を撫で下ろす。あの2人がカップルを羨ましがっていたから、もしかしたら、最初の医者の男性よりも怖かったのかもしれない。
それ以降も、順路を進んでいくと、たまに医者や患者、看護師のお化けや幽霊役のキャストが俺達の前に現れて。その度に、結衣は絶叫して俺にしがみついていたのであった。
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そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
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