僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?

いちみやりょう

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僕は残りの時間で最後の1冊を書くことにした。
なんだかどうしても最後にもう1冊書きたかった。

フェルレントに会えない半年は、長くて長くて、寂しくて辛かったけど、そういう時間は全て小説に費やした。

そうしている間は、不思議と青砥に絡まれることもなかった。
もしかしたらもう僕に対する興味を無くしたのかもしれないけど、静かに時は過ぎていった。

日を追うごとに元気になっているかのような僕の体だったけれど、それに反比例するように僕の近くにいつもあるフェルレントの森林の匂いが分かるようになっていった。

あれから半年、僕は病院の集中治療室にいた。
助からないのは1年前から分かっている。
目の前には、手術を受けている僕。
幽体になった僕の目の前には、美しい人が立っていた。
綺麗な銀色の髪を後ろでゆるく、ひとまとめにして、真っ赤に燃える夕日のような赤い目を僕に向かって優しげに細めている。その人の全部が全部、この世のものとは思えないほど美しかった。

「おまたせ、フェルレント」
「千景、ああ、私はこの時をどれほど待ちわびたことか」

フェルレントは安心したように笑い僕を抱き寄せた。
いつもよりずっと濃いフェルレントの深い森林の匂いを吸い込む。

「フェルレント、僕が病気で辛くないようにしてくれてたでしょう」
「ダメだったかい?」
「ううん、とっても助かった。ありがとう」

お礼を言うと、フェルレントは低く優しく笑った。
僕も久々に心から笑った。

フェルレントは優しく僕に口付けた。

「ふふ……死の口づけ?」
「なんだい? それは」
「何かで読んだことがあるんだ。死神は人が死ぬ時に口づけするんだって。それで魂を連れて行くって」
「それは面白いね。人はそんなことを考えているのか」
「違うんだ?」
「死神の仕事は道案内だ。このキスはただしたかっただけ」
「これからはいつだって出来るね」

嬉しくて仕方がない。
僕は死んだって言うのに、これからが楽しみで仕方ない。
こんな気持ちは初めてだ。何もかもフェルレントのおかげだ。

「フェルレントがどこにいるか分かって、自由に触れて、僕今本当に幸せ」

幸せすぎて涙が出た。
フェルレントの顔が僕に近づき、気がついた時にはその涙はペロリと舐めとられていた。

「フェ、フェルレント!」
「千景は、涙まで甘い。千景……私も、ずっと千景の近くにいたけれど、千景が足りなくて足りなくて狂うかと思ったよ。私も今幸せだ」

フェルレントの優しい声が心地いい。

ピー

僕の死を告げる音がなって手術をしてくれていた先生たちの手が止まった。
時計を確認して、僕の死を記録している。

僕の傍に、フェルレントがまるで王子様のように跪いて僕の手を取った。
「千景、これから先ずっと私と共にいてくれるかい?」

フェルレントは、許しを請うみたいに僕に真剣な目を向けた。
1年前から僕の答えなんて決まってる。

「もちろん!」
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