器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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目を覚ました時横には四宮は居なかったのでまた働き始めようと、部屋を出ると熊井がドアの外で控えていた。

「あ、熊井さんおはようございます」
「千秋様おはようございます」
「さ、様!?」

にっこりと微笑んだ熊井に千秋は恐れ慄いた。

「もちろん、千秋様は私共の主である四宮様の番になられた方ですので」

他人の口から四宮の番になったことを言われると、千秋は途端に恥ずかしくなり、頬を赤らめた。

「ふ、普通に呼んでくださると嬉しいです」
「善処いたします」
「それって、呼んでくれる気はないってこと、ですよね?」

にっこりと笑った熊井はそれ以上何も言ってくれなそうだった。

「あの、今日から僕も仕事に復帰できそうなのですが、また草むしりでいいですか?」
「とんでもないです。今は所用で席を外されていますが、じきに四宮様もお戻りになります。お茶をご用意いたしますので、お部屋の方でお寛ぎになってお待ちください」
「え、でも」
「千秋様、四宮様の番ということは、奥様になられる方ということです。ご自覚を持って過ごされていただきませんと」

千秋は熊井から指1本も触られたわけではなかったが、その圧で部屋に押し返され、すごすごと部屋の中に戻った。
千秋は以前、五十嵐が熊井を恐れていた理由が今になって分かった気がした。
しばらくして部屋に紅茶とクッキーが運び込まれて、千秋は慣れない扱いにソワソワしながらそれを口にした。

ーーあれ、そういえば熊井さんの近くには五十嵐さんがいるはずなのに、今は熊井さんだけだった。どこに行ったんだろう

「ただいま、千秋」

クッキーを一枚食べ終わる短い時間で四宮は帰ってきた。

「お、おかえり四宮様」
「そうじゃなく?」
「晴臣さん」
「もう一声」
「おかえり……は、晴臣」
「ふふ、ただいま。熊井から入り口で聞いたよ。働こうとしたんだって?」
「だって、僕はもう健康体なのに部屋にこもってるのはもったいないと思うんだ」
「じゃあ、お出かけしようか」
「そ、それは嬉しいけど、晴臣が仕事でいない時は暇でしょう? だから草むしりくらいしたいんだ」
「まぁ、考えておくね」
「それって善処するってこと?」

ジトとした目で四宮を見る千秋を見て、四宮は面白そうに笑った。
千秋が正式に四宮と付き合うことになって、この屋敷に戻ってきてから分かったことだが、四宮はとにかく過保護だ。千秋はまるで箱入り娘になったような気持ちで落ち着かない。

「そういえば、五十嵐さんはどこに行ったの? 熊井さんのそばにはいなかったけど」
「ああ、今は病院にいるよ。そのあとは警察になるかな?」
「えっ、病院!? ど、どうして?」
「千秋が心配すると癪だから言いたくないんだけどな」
「心配って、病気? そんなひどいの?」

五十嵐からは散々な目に合わされて、正直病気だと聞かされたとしても心配など出来そうなほど、千秋は優しい心根は持ち合わせていなかったが、そこまでひどいとなるとさすがに心配になった。

「まぁ病気じゃないよ。しばらくしたら退院できるんじゃないかな。だけど、そのあとは警察かな。千秋に色々したからね」
「そ、そうなんだ」


自分に悪意を持って危害を加えようとする人間が同じ屋根の下に生活するというのは、かなりストレスだったので千秋はほっと胸を撫で下ろした。
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