神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
496 / 601
第7章

7.戦闘神はお遊び中 前編

しおりを挟む
 ◆◆◆

 光の飛沫を散らす蘇芳色の残像を描き、湾曲した剣戟がうねった。矢のごとく一直線に打ち出された群青色の御稜威が弾かれ、衝撃で大気が振動する。澄んだ音と共に無数のスパークが宙を踊った。

『まだ見付かってないんだって? 勝手に入って来たって奴ら』

 マリーゴールドのごとき短髪をなびかせ、戦神レイオンが朗らかに笑う。右手に湾刀サーベルを持ち、澄んだオリーブ色の目を眼前に向けていた。

『複数の神が目撃しているのだ。見間違いということはあるまい。一体どこに隠れているのやら』

 くすんだ金糸雀カナリア色の目を眇めて起伏のない声を紡ぐのは、戦神と対峙している闘神リオネス。携えた方天戟を構え直せば、その動きに合わせて揺れるターコイズブルーの髪は鎖骨ほどまでの長さがある。

「ご迷惑をおかけしており、心よりお詫び申し上げます」

 二神の手合わせを邪魔しないよう、少し距離を取って佇むアマーリエは深く頭を下げた。今は神々への詫び回りの真っ最中だ。全ての神々には全体集合で謝意を伝え、特に個別で対応するべき者に手分けして謝罪している。

 個別謝罪を行う主な対象は、エアニーヌと慧音から傍迷惑はためいわくなアプローチを受けた元聖威師たちの他、領域の門を解放してくれていた神々だ。封鎖を緩めているとはいえ一応は施錠してあった所と比べ、完全に開け放っていた神域は侵入された可能性が高く、念入りな確認をしてもらう手間をかけてしまった。

 元聖威師たちは大公家と一位貴族の関係者が多いため、ランドルフとルルアージュ、当利と祐奈が回っている。神域を開けてくれていた神々には、アマーリエとリーリアが分担して詫びを入れていた。
『聖威師たちがいつでも気兼ねなく来られるように』との親切心で門を開けてくれていた戦神と闘神も、個別謝罪リストに含まれている。かなり気が重い対面だったものの、二神から怒りは感じられない。少なくとも、アマーリエの前では不快な面を見せていない。

『雛たちが謝ることじゃないさ。責任を取るなら本人と主任だろう。人間の神官は主任の管轄下にあるんだから』
『通常であれば、己の領域に侵入者があれば察知できる』

 明るい声音で謝意を受け入れる戦神の手は、しかし、柔らかな口調とは裏腹に鋭く動いている。大気を斬り裂く湾刀の連撃が、複雑怪奇な曲線を刻みながら虚空を踊る。闘神が方天戟を旋回させ、絡め取るようにして刃を封じようとするのを、同じ方向に体ごと武器を捻って受け流した。そのままひょいと首を傾ければ、回転の勢いのまま突き出された穂先が頰の横を掠め、オレンジの髪が数本宙を舞う。

『おーっと危ない』
『ふん、避けたか』

 肩を竦めて舌を出す戦神が、湾刀を持っていない手で拳打を打ち込んだ。獲物の長柄を薙いで弾いた闘神は、距離を取りながら鼻を鳴らす。そして、語調を和らげて述べた。

『しかるに、此度はどうも様子がおかしい。天界の入口を通過できたことや、元聖威師たち以外には気取られず動けていたこと、神域の探査をかわして潜伏できていること。いずれも人間の力でできる芸当ではない』
「はい。最初は神器を用いているのではないかと推測したのですが……」

 同時に跳躍し、再び刃を交わす二神を眺めながら、アマーリエは言の葉を紡ぐ。

「中央本府ならびに当該神官たちの所属先の分府にある神器を確認したところ、全て異常なくそろっていたと、主任から連絡がありました」

 その点はこちらにとっても予想外だった。てっきり、いずれかの神器を持ち出したとばかり思っていたのだが、違ったようだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...