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第7章
52.ある神官一家は声が良い
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『私は煉神様と葬邪神様に報せて来る。この事態は神々も察知しているはずだから。聖威師が動くので静観してあげて下さいと伝えておくよ。その一環でこちらの神域の一部を遠視するかもしれないけど、毒華神はそれで良いか?』
申し出たのはフロースだ。冷静な眼は、地上だけでなく神々の動きも含めた動きを見据えている。
『客間を兼ねておりますこの室内でしたら、ご自由にご覧下さい。ですが他の場所は御控えを。我が神域に視られて困るものはございませんが、だからと言って私的な領域を全て筒抜けにすることは話が別ですので』
イデナウアーの返答は理にかなったものだった。人間とて、悪いことをしているわけではないのだから入浴や排泄行為まで含めた全てを見せろと言われたら嫌だろう。それと同じだ。その点からも、狼神の神域を無許可で覗いてアマーリエを襲撃したエアニーヌたちは、大きな咎を犯している。
『分かった。そのことはきちんと伝えておくよ』
『すまん泡神様。姉上の所には俺が行って……』
『アマーリエがまだ残っているのだから、焔神様も側にいたいだろう。私が行くよ。一柱も二柱も同じだし、葬邪神様にも話して来る』
邪神様もここにいて、と告げ、長身がかき消える。フレイムとラミルファが感嘆の視線を交わした。リーリアという愛し子を得たことで、フロースは本当に何事にも積極的になったようだ。
『ね、そういえばさっき言ってたボイス一家って何? 会話の流れからすると神官みたいだけど。なんか皆笑うの我慢してたよね』
イデナウアーが問うて来る。緊迫しているはずのこの状況下で、自分と毒神を除く全員が噴き出しそうになっていたことが気になったらしい。
『あー、お前と毒神様は寝てたから知らないか。そう、神官の一家だよ。だけど名前が変わってるんだ』
『ボイスがでしょうか? よくあるとは申しませんが、そこまで珍しい家名でもないように思いますが』
『ふふ、ファーストネームと合わせると面白いのだよ。ボイス一家は4人家族。父母と長男、次男だ。名前は何だと思う? 長男はイケメン、次男はハスキーなんだよ』
へっ、と瞬きするイデナウアーに、アマーリエは端的に告げる。
「要するにイケメン・ボイスとハスキー・ボイスの兄弟ですね」
『おぉ~、死ぬまで親を恨みそうな名前だぁ』
儀式や祭典で彼らの名前を呼ぶたび、アマーリエたちは澄まし顔の下で爆笑しそうになっている。
『ついでに言えば、父親の名はバリトン、母親はソプラノだよ。僕も始めて聞いた時はネタだと思ったものだがね』
ラミルファが忍び笑いをしながら補足した。親は親で、バリトン・ボイスとソプラノ・ボイスである。
「ボイス一家は声が良いので、言霊を飛ばしたり、歌や音声に霊威を乗せる技が得意なのです。今回ですと、浄化補助の霊威を歌にして、風で拡声して街に流すことになるかと」
メインの浄化は聖威師が行うにしても、霊威師もサポートで補佐をする。
「それに、危険地域へ避難勧告の声明を流す際にも重宝されております。特にイケメン・ボイスは名前通りイケボですので』
『もう神官の仕事関係ねえな……』
控えめにツッコむフレイムに、毒神がニョロンと首を傾げた。
『待ちや、帝国系の国はミドルネームで秘め名を持ってるおるのではなかったかえ。イケボとやらのフルネームは何というのじゃ?』
「ビッグです。イケメン・ビッグ・ボイスが正式名です。……ちなみに、弟のハスキーの秘め名はグレイトです」
すなわちハスキー・グレイト・ボイス。名付けの際、父母を止める者は誰かいなかったのだろうか。自分だったら青筋立てて親に食ってかかるだろうと、アマーリエは思った。
「しばしお待ち下さい。彼に念話します」
《イケメン・ボイス。聞こえますか》
アマーリエは思念を傾け、神官府にいるイケボに連絡を送った。
《……と、そういうわけです。神官長リーリアと私の浄化が完了した後、あなたの詠唱で細かな部分の清めをしてもらいたいのです。頼みましたよ、イケメン・ボイス》
真面目くさった顔で指令を出す側では、ラミルファとイデナウアーが肩を震わせて笑っている。フルードとアシュトンは平静を保とうとしているが、やはり口元が微妙に緩んでいた。なお、フレイムとアリステルはシレッとした顔をしており、フロースと花神はにこにこしながら佇んでいた。
『あっはははは、おかしい! イケボがイケボで活躍するんだ。さすがイケボは奥が深いね!』
何かがツボったのかイデナウアーが笑い転げているが、そんなイケボ道を極めるみたいな言い方をしなくても良いのではないだろうか。アマーリエが半眼でそう思った時、リーリアの聖威が次元の壁を震わせて伝わって来た。
『おっ、始まったぜ』
フレイムが表情を改め、一気に気持ちが引き締まる。地上を遠視すると、波打つドーム状に展開された涙色の聖威が地上全体を覆い尽くし、毒の花粉を一掃している。それを確認した後、息を一つ吸い込んで神々に一礼した。
「行きます」
『おう、やって来い。ここで視ててやるから』
『あなたなら務めを立派にこなせます』
フレイムとフルードが微笑んで送り出してくれる。一つ頷き、アマーリエは転移を発動させて地上の空へと飛んだ
申し出たのはフロースだ。冷静な眼は、地上だけでなく神々の動きも含めた動きを見据えている。
『客間を兼ねておりますこの室内でしたら、ご自由にご覧下さい。ですが他の場所は御控えを。我が神域に視られて困るものはございませんが、だからと言って私的な領域を全て筒抜けにすることは話が別ですので』
イデナウアーの返答は理にかなったものだった。人間とて、悪いことをしているわけではないのだから入浴や排泄行為まで含めた全てを見せろと言われたら嫌だろう。それと同じだ。その点からも、狼神の神域を無許可で覗いてアマーリエを襲撃したエアニーヌたちは、大きな咎を犯している。
『分かった。そのことはきちんと伝えておくよ』
『すまん泡神様。姉上の所には俺が行って……』
『アマーリエがまだ残っているのだから、焔神様も側にいたいだろう。私が行くよ。一柱も二柱も同じだし、葬邪神様にも話して来る』
邪神様もここにいて、と告げ、長身がかき消える。フレイムとラミルファが感嘆の視線を交わした。リーリアという愛し子を得たことで、フロースは本当に何事にも積極的になったようだ。
『ね、そういえばさっき言ってたボイス一家って何? 会話の流れからすると神官みたいだけど。なんか皆笑うの我慢してたよね』
イデナウアーが問うて来る。緊迫しているはずのこの状況下で、自分と毒神を除く全員が噴き出しそうになっていたことが気になったらしい。
『あー、お前と毒神様は寝てたから知らないか。そう、神官の一家だよ。だけど名前が変わってるんだ』
『ボイスがでしょうか? よくあるとは申しませんが、そこまで珍しい家名でもないように思いますが』
『ふふ、ファーストネームと合わせると面白いのだよ。ボイス一家は4人家族。父母と長男、次男だ。名前は何だと思う? 長男はイケメン、次男はハスキーなんだよ』
へっ、と瞬きするイデナウアーに、アマーリエは端的に告げる。
「要するにイケメン・ボイスとハスキー・ボイスの兄弟ですね」
『おぉ~、死ぬまで親を恨みそうな名前だぁ』
儀式や祭典で彼らの名前を呼ぶたび、アマーリエたちは澄まし顔の下で爆笑しそうになっている。
『ついでに言えば、父親の名はバリトン、母親はソプラノだよ。僕も始めて聞いた時はネタだと思ったものだがね』
ラミルファが忍び笑いをしながら補足した。親は親で、バリトン・ボイスとソプラノ・ボイスである。
「ボイス一家は声が良いので、言霊を飛ばしたり、歌や音声に霊威を乗せる技が得意なのです。今回ですと、浄化補助の霊威を歌にして、風で拡声して街に流すことになるかと」
メインの浄化は聖威師が行うにしても、霊威師もサポートで補佐をする。
「それに、危険地域へ避難勧告の声明を流す際にも重宝されております。特にイケメン・ボイスは名前通りイケボですので』
『もう神官の仕事関係ねえな……』
控えめにツッコむフレイムに、毒神がニョロンと首を傾げた。
『待ちや、帝国系の国はミドルネームで秘め名を持ってるおるのではなかったかえ。イケボとやらのフルネームは何というのじゃ?』
「ビッグです。イケメン・ビッグ・ボイスが正式名です。……ちなみに、弟のハスキーの秘め名はグレイトです」
すなわちハスキー・グレイト・ボイス。名付けの際、父母を止める者は誰かいなかったのだろうか。自分だったら青筋立てて親に食ってかかるだろうと、アマーリエは思った。
「しばしお待ち下さい。彼に念話します」
《イケメン・ボイス。聞こえますか》
アマーリエは思念を傾け、神官府にいるイケボに連絡を送った。
《……と、そういうわけです。神官長リーリアと私の浄化が完了した後、あなたの詠唱で細かな部分の清めをしてもらいたいのです。頼みましたよ、イケメン・ボイス》
真面目くさった顔で指令を出す側では、ラミルファとイデナウアーが肩を震わせて笑っている。フルードとアシュトンは平静を保とうとしているが、やはり口元が微妙に緩んでいた。なお、フレイムとアリステルはシレッとした顔をしており、フロースと花神はにこにこしながら佇んでいた。
『あっはははは、おかしい! イケボがイケボで活躍するんだ。さすがイケボは奥が深いね!』
何かがツボったのかイデナウアーが笑い転げているが、そんなイケボ道を極めるみたいな言い方をしなくても良いのではないだろうか。アマーリエが半眼でそう思った時、リーリアの聖威が次元の壁を震わせて伝わって来た。
『おっ、始まったぜ』
フレイムが表情を改め、一気に気持ちが引き締まる。地上を遠視すると、波打つドーム状に展開された涙色の聖威が地上全体を覆い尽くし、毒の花粉を一掃している。それを確認した後、息を一つ吸い込んで神々に一礼した。
「行きます」
『おう、やって来い。ここで視ててやるから』
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