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第7章
51.ゆっくりと距離ができる
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「――出ます。帝国の神器は私とルルアージュ神官長、皇国は当利大神官と祐奈神官長が事前処置をして抑えます。むろん属国も含めて。アマーリエ大神官とリーリア神官長は毒粉と魂の対処を」
常とは気配を一変させたランドルフが号令を放った。
「分かったわ」
「承知しましたのよ」
聖獣たちに高速念話で事情を説明したアマーリエは、リーリアと共に頷く。瞬き一つもしない間に、聖威師たちの纏う衣が神官衣に変わった。一時昇天の間は、最初の挨拶以外は主神が用意してくれた衣に着替えていたためだ。
『『…………』』
フルードとアシュトンが、懐かしさと痛みを織り交ぜた面差しでアマーリエたちの装いを眺める。アリステルは茫洋とした視線を注いでいた。
ほんの数年前まで、彼ら先達もこの衣を翻し、地上を駆け巡っていた。だが、天に還った彼らがかつての装いになることはもうない。先陣を切って道を切り開くことも、殿で盾になることもできない。
「ミンディたちには私の補佐をしてもらいましょう。適宜指示を出し、実地研修や見学をさせてはどうかしら」
「そうですわね。わたくしたちが動くことと、必要に応じて指示を送ると念話しておきますわ」
アマーリエの提案にリーリアが賛同し、ランドルフたちも頷きを返す。
「わたくしは毒粉の消滅と街の浄化に努めますわ。ですが、穢れてしまった魂には、別途専用の清めを施さなくては」
「魂魄浄化の儀は私がするわ。リーリア様は今言ってくれた通り、根元である毒粉の対処をお願い」
ざっと聖威師の役割分担を決めたところで、ふと思い付いて口を開く。
「ボイス一家に『詠って』もらうのはどうかしら?」
途端に部屋の空気が緩んだ。今にも動き出そうとしていた当利とランドルフが止まる。そして、何かを堪えるような面持ちで首肯した。
「ええ、良いのではないでしょうか」
「今日はイケボが日勤だったはずです。連絡してみて下さいー」
せっかく引き締まったランドルフの気がゆるゆるに戻る。祐奈とルルアージュ、リーリアも微妙に目線を逸らして小さく首を縦に振った。フルードとアシュトン、アリステルは何故か下を向いていた。フレイムたちまでも。
「フロース様、しばしお暇いたしますわ。なるべく早急に片を付けて参ります」
『行かせたくないけど、レアナが選んだ道だから。少しでも早く戻って来てくれ』
主神に束の間の別れを述べるリーリアの横で、ランドルフたちもこの神域の主であるイデナウアーに辞去の挨拶をしている。
『じゃ、この子たちはキミたちが戻るまでこのままにしといてあげる。下手に動かれたらもっと迷惑でしょ。ボクを愉しませてくれたお礼さ。後で忘れず取りに来なよ。あんまり遅かったらボクとフウ様が食べちゃうから気を付けてね』
停止させたエアニーヌと慧音をチラと見遣り、イデナウアーが咲った。やはり花の女神に相応しい破顔だった。礼を述べたランドルフたちが神々に頭を下げ、転移でかき消える。
『ユフィーももう少ししたら行くんだろ』
「ええ。リーリア様が毒粉を消してくれたタイミングで出るわ」
『ふふ、今すぐ浄化しても元凶があればまた穢れてしまうからね』
ラミルファが軽薄な笑みで言う。アマーリエの出陣まで少し猶予がありそうだと踏んだアシュトンが声をかけて来た。
『神官衣のデザインが少し変わったと聞きました』
「はい。袖を少しだけ絞り、裾部分も後ろの長さは変えず前丈が若干短くなりました。神官の服飾管理部で儀礼性と機能性のバランスを再考し、このように決まったとのことです。半年ほど前に入府した若手神官の意見を取り入れたとか」
『そうですか。若干の工夫ですが、以前より動きやすそうです。センスの良い神官が入りましたね』
神官が用いる服飾や備品については定期的に改良が行われているため、珍しい措置ではない。アリステルは特に感慨を抱いた様子はなかったが、アシュトンとフルードはどこか寂寥を滲ませた様相で微笑んでいた。
こうして少しずつ少しずつ、自分たちがいた頃の神官府とは変わっていき、知らないことや分からないことが増えていく。そしてゆっくりと距離ができていくのだと実感したように。
常とは気配を一変させたランドルフが号令を放った。
「分かったわ」
「承知しましたのよ」
聖獣たちに高速念話で事情を説明したアマーリエは、リーリアと共に頷く。瞬き一つもしない間に、聖威師たちの纏う衣が神官衣に変わった。一時昇天の間は、最初の挨拶以外は主神が用意してくれた衣に着替えていたためだ。
『『…………』』
フルードとアシュトンが、懐かしさと痛みを織り交ぜた面差しでアマーリエたちの装いを眺める。アリステルは茫洋とした視線を注いでいた。
ほんの数年前まで、彼ら先達もこの衣を翻し、地上を駆け巡っていた。だが、天に還った彼らがかつての装いになることはもうない。先陣を切って道を切り開くことも、殿で盾になることもできない。
「ミンディたちには私の補佐をしてもらいましょう。適宜指示を出し、実地研修や見学をさせてはどうかしら」
「そうですわね。わたくしたちが動くことと、必要に応じて指示を送ると念話しておきますわ」
アマーリエの提案にリーリアが賛同し、ランドルフたちも頷きを返す。
「わたくしは毒粉の消滅と街の浄化に努めますわ。ですが、穢れてしまった魂には、別途専用の清めを施さなくては」
「魂魄浄化の儀は私がするわ。リーリア様は今言ってくれた通り、根元である毒粉の対処をお願い」
ざっと聖威師の役割分担を決めたところで、ふと思い付いて口を開く。
「ボイス一家に『詠って』もらうのはどうかしら?」
途端に部屋の空気が緩んだ。今にも動き出そうとしていた当利とランドルフが止まる。そして、何かを堪えるような面持ちで首肯した。
「ええ、良いのではないでしょうか」
「今日はイケボが日勤だったはずです。連絡してみて下さいー」
せっかく引き締まったランドルフの気がゆるゆるに戻る。祐奈とルルアージュ、リーリアも微妙に目線を逸らして小さく首を縦に振った。フルードとアシュトン、アリステルは何故か下を向いていた。フレイムたちまでも。
「フロース様、しばしお暇いたしますわ。なるべく早急に片を付けて参ります」
『行かせたくないけど、レアナが選んだ道だから。少しでも早く戻って来てくれ』
主神に束の間の別れを述べるリーリアの横で、ランドルフたちもこの神域の主であるイデナウアーに辞去の挨拶をしている。
『じゃ、この子たちはキミたちが戻るまでこのままにしといてあげる。下手に動かれたらもっと迷惑でしょ。ボクを愉しませてくれたお礼さ。後で忘れず取りに来なよ。あんまり遅かったらボクとフウ様が食べちゃうから気を付けてね』
停止させたエアニーヌと慧音をチラと見遣り、イデナウアーが咲った。やはり花の女神に相応しい破顔だった。礼を述べたランドルフたちが神々に頭を下げ、転移でかき消える。
『ユフィーももう少ししたら行くんだろ』
「ええ。リーリア様が毒粉を消してくれたタイミングで出るわ」
『ふふ、今すぐ浄化しても元凶があればまた穢れてしまうからね』
ラミルファが軽薄な笑みで言う。アマーリエの出陣まで少し猶予がありそうだと踏んだアシュトンが声をかけて来た。
『神官衣のデザインが少し変わったと聞きました』
「はい。袖を少しだけ絞り、裾部分も後ろの長さは変えず前丈が若干短くなりました。神官の服飾管理部で儀礼性と機能性のバランスを再考し、このように決まったとのことです。半年ほど前に入府した若手神官の意見を取り入れたとか」
『そうですか。若干の工夫ですが、以前より動きやすそうです。センスの良い神官が入りましたね』
神官が用いる服飾や備品については定期的に改良が行われているため、珍しい措置ではない。アリステルは特に感慨を抱いた様子はなかったが、アシュトンとフルードはどこか寂寥を滲ませた様相で微笑んでいた。
こうして少しずつ少しずつ、自分たちがいた頃の神官府とは変わっていき、知らないことや分からないことが増えていく。そしてゆっくりと距離ができていくのだと実感したように。
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