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第8章
35.本心は抹消される 前編
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(私が愛した女性まで、兄に奪われた)
副大精霊としての仕事をこなす中、ウォーロックはある使役に心を奪われる。ミスティーナ・メア・ファンデル。元は人間の神官で、死後に昇天して神使になった女性だ。
典雅な美貌を持ち、聡明で叡智に富み、精神性と志高き彼女には、たった一つだけ不足があった。霊威が弱かったのだ。この世界において、それは何よりの痛手となる。その一点の瑕疵により、生前の彼女は主任神官にも副主任にもなれず、一神官止まりで生を終えた。
昇天後は金剛神の神使に振り分けられていたミスティーナ。ウォーロックが彼女と交流を持つ機会は、今まではほとんどなかった。むろん、共有領域ですれ違ったり、遠目に見かけたことはあった。だが、ウォーロックも高位神に仕えており、地神に属する金剛神とは系統が違う神であったことから、彼女と関わるタイミングがなかったのだ。
しかし、副大精霊になり全使役を広く統括する立場となったことで、ミスティーナとも時折話すようになった。彼女と言葉をかわし、その人となりを知っていくにつれ、ウォーロックは恋に落ちた。
清廉な魂を持つミスティーナを自分の妻にしたい。彼女は霊威が弱いから、ウォーロックには相応しくないとゴネる者もいるかもしれないが、自分が彼女を守ろうと思った。
だが、告白のタイミングを計っていた時、思いもよらぬ報が舞い込んだ。主神たる金剛神が、ミスティーナをいたく気に入っているというのだ。彼女が付けている装飾品が見事だと目に留めたのがきっかけだという。
ミスティーナは玉石やチェーンを使ったアクセサリーの作製を得手としており、身に帯びていたのも自作の品だった。それを聞いた金剛神は、彼女に幾度か小物類を作らせて献上させ、その出来栄えに満足していた。
そしてついに、自らの神威で作り出したダイヤモンドを渡し、これを使って素晴らしい宝飾品を作るよう命じたという。弟の水晶神に贈りたいから、と。満足のいく品を捧げた暁には、ミスティーナにこの上ない褒賞を与えるとも言ったそうだ。
言うまでもなく名誉極まりない大役だ。相当の信頼と評価をしている使役にしか、このような命令は出さない。しかも、この上ない褒賞とまで強調している。使役にとって至上の褒美は、神に見出されて正式な神格を賜ることだ。つまり、主神の希望に沿う品を捧げられれば、ミスティーナは神格を賜る可能性があった。
(彼女が金剛神様に目をかけられたことは青天の霹靂だった。いくら恋した女性とはいえ、この私を差し置いて神に選ばれるなど許せるはずがない)
ああ良かったおめでとうと、最初は確かにその感情が湧き上がったはずなのに。気付けばそれは消え、焦燥と嫉妬が心を支配していた。出すぎた真似をする彼女には、仕置きをしなくてはならないと。
(私は自身の神威を用いて大型の鳥を操り、ミスティーナの目の前で金剛神様のダイヤモンドを盗ませた)
主神から大任を仰せつかったミスティーナは、神苑に佇む樹をモチーフにしたブローチを作り、中心にダイヤモンドをあしらった。仕上げの段階で、実際の樹と比較して最終調整をしようと、厳重に保管していたダイヤモンド付きのブローチを持って神苑に向かった。
神使としての仕事が本格始動する刻限の前、まだ天界が明るくなり始めた頃のことだったため、神苑に他の使役はいなかった。それを遠視で観察していたウォーロックは、空を飛んでいた霊鳥を操作し、ミスティーナの手からブローチを取り上げさせた。
(私はミスティーナの心の深層も操った。神からのご用命の品を、結界も張らず無用心に持ち出し、早朝から単独でフラフラ行動する。本来の彼女ならまずやらない浅慮だ。それらをあえて行うよう、彼女の心の無意識の部分をこっそりと誘導した)
そんな酷いことをするなと、心の奥で理性と良心が叫んだ。だが、魂が発したその悲鳴は、ウォーロックの中からあっさりと幻のように消えてしまった。
一方のミスティーナは、普段通りの自分でいたつもりだったはずだ。自身では認識できない精神の奥に干渉され、密かに行動を仕組まれている。そのような事実が分かるはずもない。
(あの時は見ものだった。普段は取り澄ました顔を崩さない彼女が、ブローチをくわえた鳥を必死の形相で追うのだからな)
ズキンと罪悪感が胸を刺し、鳥を止めようと思いかけたが、その思考は瞬く間に消え、無かったことになってしまった。
ウォーロックは鳥を池の上に飛ばし、ブローチを落とさせた。その上で、鳥とミスティーナの中から自身の力の痕跡を抹消した。
(池にブローチを落としてやれば、彼女は水中に飛び込み、衣も髪も泥まみれになって必死になって探していた。霊威も併用して探査していたが、私の力で阻害してやったから、中々見付けられなかったようだ)
【補足】
ミスティーナは第4章19話で名前だけ出ています。その時フレイムが大精霊をチラ見していたのは、ミスティーナが彼の妻だったからです。ちなみに大精霊とシルファールも第4章で少しだけ出ています。
副大精霊としての仕事をこなす中、ウォーロックはある使役に心を奪われる。ミスティーナ・メア・ファンデル。元は人間の神官で、死後に昇天して神使になった女性だ。
典雅な美貌を持ち、聡明で叡智に富み、精神性と志高き彼女には、たった一つだけ不足があった。霊威が弱かったのだ。この世界において、それは何よりの痛手となる。その一点の瑕疵により、生前の彼女は主任神官にも副主任にもなれず、一神官止まりで生を終えた。
昇天後は金剛神の神使に振り分けられていたミスティーナ。ウォーロックが彼女と交流を持つ機会は、今まではほとんどなかった。むろん、共有領域ですれ違ったり、遠目に見かけたことはあった。だが、ウォーロックも高位神に仕えており、地神に属する金剛神とは系統が違う神であったことから、彼女と関わるタイミングがなかったのだ。
しかし、副大精霊になり全使役を広く統括する立場となったことで、ミスティーナとも時折話すようになった。彼女と言葉をかわし、その人となりを知っていくにつれ、ウォーロックは恋に落ちた。
清廉な魂を持つミスティーナを自分の妻にしたい。彼女は霊威が弱いから、ウォーロックには相応しくないとゴネる者もいるかもしれないが、自分が彼女を守ろうと思った。
だが、告白のタイミングを計っていた時、思いもよらぬ報が舞い込んだ。主神たる金剛神が、ミスティーナをいたく気に入っているというのだ。彼女が付けている装飾品が見事だと目に留めたのがきっかけだという。
ミスティーナは玉石やチェーンを使ったアクセサリーの作製を得手としており、身に帯びていたのも自作の品だった。それを聞いた金剛神は、彼女に幾度か小物類を作らせて献上させ、その出来栄えに満足していた。
そしてついに、自らの神威で作り出したダイヤモンドを渡し、これを使って素晴らしい宝飾品を作るよう命じたという。弟の水晶神に贈りたいから、と。満足のいく品を捧げた暁には、ミスティーナにこの上ない褒賞を与えるとも言ったそうだ。
言うまでもなく名誉極まりない大役だ。相当の信頼と評価をしている使役にしか、このような命令は出さない。しかも、この上ない褒賞とまで強調している。使役にとって至上の褒美は、神に見出されて正式な神格を賜ることだ。つまり、主神の希望に沿う品を捧げられれば、ミスティーナは神格を賜る可能性があった。
(彼女が金剛神様に目をかけられたことは青天の霹靂だった。いくら恋した女性とはいえ、この私を差し置いて神に選ばれるなど許せるはずがない)
ああ良かったおめでとうと、最初は確かにその感情が湧き上がったはずなのに。気付けばそれは消え、焦燥と嫉妬が心を支配していた。出すぎた真似をする彼女には、仕置きをしなくてはならないと。
(私は自身の神威を用いて大型の鳥を操り、ミスティーナの目の前で金剛神様のダイヤモンドを盗ませた)
主神から大任を仰せつかったミスティーナは、神苑に佇む樹をモチーフにしたブローチを作り、中心にダイヤモンドをあしらった。仕上げの段階で、実際の樹と比較して最終調整をしようと、厳重に保管していたダイヤモンド付きのブローチを持って神苑に向かった。
神使としての仕事が本格始動する刻限の前、まだ天界が明るくなり始めた頃のことだったため、神苑に他の使役はいなかった。それを遠視で観察していたウォーロックは、空を飛んでいた霊鳥を操作し、ミスティーナの手からブローチを取り上げさせた。
(私はミスティーナの心の深層も操った。神からのご用命の品を、結界も張らず無用心に持ち出し、早朝から単独でフラフラ行動する。本来の彼女ならまずやらない浅慮だ。それらをあえて行うよう、彼女の心の無意識の部分をこっそりと誘導した)
そんな酷いことをするなと、心の奥で理性と良心が叫んだ。だが、魂が発したその悲鳴は、ウォーロックの中からあっさりと幻のように消えてしまった。
一方のミスティーナは、普段通りの自分でいたつもりだったはずだ。自身では認識できない精神の奥に干渉され、密かに行動を仕組まれている。そのような事実が分かるはずもない。
(あの時は見ものだった。普段は取り澄ました顔を崩さない彼女が、ブローチをくわえた鳥を必死の形相で追うのだからな)
ズキンと罪悪感が胸を刺し、鳥を止めようと思いかけたが、その思考は瞬く間に消え、無かったことになってしまった。
ウォーロックは鳥を池の上に飛ばし、ブローチを落とさせた。その上で、鳥とミスティーナの中から自身の力の痕跡を抹消した。
(池にブローチを落としてやれば、彼女は水中に飛び込み、衣も髪も泥まみれになって必死になって探していた。霊威も併用して探査していたが、私の力で阻害してやったから、中々見付けられなかったようだ)
【補足】
ミスティーナは第4章19話で名前だけ出ています。その時フレイムが大精霊をチラ見していたのは、ミスティーナが彼の妻だったからです。ちなみに大精霊とシルファールも第4章で少しだけ出ています。
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