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第8章
34.ある精霊兄弟
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◆◆◆
(アイツはいつでも私の先を行っていた)
ウォーロックとアルシオは兄弟だ。天樹から滴った一粒の雫が大地に落ち、二つに弾けた際、双方の飛沫が精霊化して生まれた。そういった場合、その精霊は兄弟姉妹となる。肉体的な血縁関係があるわけではないため、姿形は似ていないが、人間で言えば双子のようなものだ。
共に強力な霊威を持ち、生まれついての上級精霊として誕生した二体は、対照的な性格をしていた。物腰柔らかで朗らかなウォーロックと、触れれば切れそうな冷たさを帯びるアルシオ。
だが、ウォーロックは常にアルシオの後塵を拝していた。霊威の強さと使役としての実務能力が、どうしても兄に及ばないのだ。
ウォーロックも強大な力を持っており、仕事もそれなりにはできたつもりだが、兄は弟をさらに凌駕していた。神が気まぐれに授けたとしか思えぬ天与の才。かといって頭でっかちなわけでもなく、臨機応変さや柔軟性も兼ね備え、戦闘などの荒事に関しても使役の中では敵無しだった。
その差は、天高くそそり立つ壁となって幾度も立ちはだかった。
(同じ大樹の同じ雫から、同じタイミングで生まれたのに。どうして差が付いたんだ)
普段は話しやすいウォーロックと親しくしている精霊たちも、有事が起こった際はアルシオに頼る。途中まではウォーロックに意見を求めても、最後に寄る辺にするのはアルシオの方だ。兄の方が霊威も判断力も高いから。
(兄は誰からも好かれる性格をしているわけではない。一体でいることが多く、敵もたくさんいた。だが、天性の有能さがその身を守った)
厳格で公明正大な兄は、諂上欺下を地で行くがごとき先代の大精霊イーネストとは、大層折り合いが悪かった。自分たちが誕生した時は既にその地位に就いていた先代は、アルシオを排除したかっただろう。だが、兄はその抜きん出た霊威の強さと実務能力の高さにより、使役には興味を示さないはずの神々からも注目されていた。ゆえに先代は、兄に手を出すことができなかった。
(兄は私から全てを奪っていった。地位も名声も、初恋までも)
ウォーロックが欲しかったものを何でも持っていった兄。先代が神逐されたことにより、新たな大精霊を決める際、真っ先に名が浮上したのは自分たち兄弟だった。他にも候補はいたが、本命は自分たちのどちらかだった。
大精霊の地位への就任は、使役たちの最終目標に届き得る数少ない方法の一つだ。使役の頂点という大役を誠実に務めていれば、それを認められて正式な神格を授かることがあるからだ。完全な神性を賜って正規の神になることを、神成という。
もちろん、ほとんどのケースではそのような奇跡は起こらず、大精霊は一定期間を就任すると後進に地位を譲る。だがその場合であっても、降格や更迭ではなく、大役を完遂した上での次代継承なので、箔付けの神格を剥奪されることはない。地位を退いた後も、広義での同胞として神々から目をかけられる。中には、退任後しばらくしてから完全な神格を追贈された者もいる。
つまり、大精霊に就任し、務めを最後まで全うしさえすれば、永劫に希望が残り続ける。ウォーロックはその地位が欲しかった。
(新たな大精霊を選定する際、私に矢が立つ望みも残っていたのに)
霊威第一主義の世界にも関わらず、大精霊は互選や推薦で選ばれる。候補者の霊威の強さもむろん重視されるが、それだけが絶対の要素ではないのだ。
何故なら、大精霊は神格を賜り神威を得るからだ。神威を有してしまえば、霊威の強さは関係なくなる。最弱の霊威しか持たない使役とて、神に見初められて神格を賜れば神威を手に入れ、元々の霊威の弱さなど帳消しにできる。それと同じだ。
ゆえに大精霊は、個々の力だけでなく、配下を従わせる統率力や判断力、性格や周囲との関係性、あるいは派閥争いや交渉、駆け引きに策謀など他の要素も含有した上で決められる。
しかし結局、新たな大精霊に選ばれたのはアルシオだった。最大の決め手は神々からの覚えがウォーロックより高かったこと。今回に関しては、先代が神々の怒りを買い、強制廃任で降格されたため、次こそは間違いのない者を選ばねばならなかった。そこで、候補者の中で最も神々からの評価が高いアルシオに決まった。
(私も兄の補佐をして欲しいと言われ、副大精霊になり神格を得たが……神々の目は兄の方に向いていた)
日々の務めでも、儀式や祭祀でも、大精霊の方が神々と多く接する。使役の頂かつ代表として、神使が動く部分の中心を担い、最も良い場面や役割を持っていく。それにより、ますます目をかけられる。
対する副大精霊というのは、あくまで補佐でしかない。四大高位神のいずれかの専属神使として、主神の目に留まりやすい環境にいるわけでもない。いつからか、とても損な役回りだと感じるようになっていった。……以前は、嬉しい頑張ろうと純粋に思っていたはずなのに。
(それでも、使役全体で見れば一握りもいない神格持ちの使役になれたことは、最大級の幸運だった。なのに……)
これで神々の身内となり、正式な神へ上げていただける道が繋がる。大精霊ほどではないが、他の神格持ちの使役にも神成の前例はあるのだ。ウォーロックはアルシオには及ばずとも全霊で務めをこなしていた。しかし、兄はさらに弟の大事なものを奪っていった。初恋だ。
(アイツはいつでも私の先を行っていた)
ウォーロックとアルシオは兄弟だ。天樹から滴った一粒の雫が大地に落ち、二つに弾けた際、双方の飛沫が精霊化して生まれた。そういった場合、その精霊は兄弟姉妹となる。肉体的な血縁関係があるわけではないため、姿形は似ていないが、人間で言えば双子のようなものだ。
共に強力な霊威を持ち、生まれついての上級精霊として誕生した二体は、対照的な性格をしていた。物腰柔らかで朗らかなウォーロックと、触れれば切れそうな冷たさを帯びるアルシオ。
だが、ウォーロックは常にアルシオの後塵を拝していた。霊威の強さと使役としての実務能力が、どうしても兄に及ばないのだ。
ウォーロックも強大な力を持っており、仕事もそれなりにはできたつもりだが、兄は弟をさらに凌駕していた。神が気まぐれに授けたとしか思えぬ天与の才。かといって頭でっかちなわけでもなく、臨機応変さや柔軟性も兼ね備え、戦闘などの荒事に関しても使役の中では敵無しだった。
その差は、天高くそそり立つ壁となって幾度も立ちはだかった。
(同じ大樹の同じ雫から、同じタイミングで生まれたのに。どうして差が付いたんだ)
普段は話しやすいウォーロックと親しくしている精霊たちも、有事が起こった際はアルシオに頼る。途中まではウォーロックに意見を求めても、最後に寄る辺にするのはアルシオの方だ。兄の方が霊威も判断力も高いから。
(兄は誰からも好かれる性格をしているわけではない。一体でいることが多く、敵もたくさんいた。だが、天性の有能さがその身を守った)
厳格で公明正大な兄は、諂上欺下を地で行くがごとき先代の大精霊イーネストとは、大層折り合いが悪かった。自分たちが誕生した時は既にその地位に就いていた先代は、アルシオを排除したかっただろう。だが、兄はその抜きん出た霊威の強さと実務能力の高さにより、使役には興味を示さないはずの神々からも注目されていた。ゆえに先代は、兄に手を出すことができなかった。
(兄は私から全てを奪っていった。地位も名声も、初恋までも)
ウォーロックが欲しかったものを何でも持っていった兄。先代が神逐されたことにより、新たな大精霊を決める際、真っ先に名が浮上したのは自分たち兄弟だった。他にも候補はいたが、本命は自分たちのどちらかだった。
大精霊の地位への就任は、使役たちの最終目標に届き得る数少ない方法の一つだ。使役の頂点という大役を誠実に務めていれば、それを認められて正式な神格を授かることがあるからだ。完全な神性を賜って正規の神になることを、神成という。
もちろん、ほとんどのケースではそのような奇跡は起こらず、大精霊は一定期間を就任すると後進に地位を譲る。だがその場合であっても、降格や更迭ではなく、大役を完遂した上での次代継承なので、箔付けの神格を剥奪されることはない。地位を退いた後も、広義での同胞として神々から目をかけられる。中には、退任後しばらくしてから完全な神格を追贈された者もいる。
つまり、大精霊に就任し、務めを最後まで全うしさえすれば、永劫に希望が残り続ける。ウォーロックはその地位が欲しかった。
(新たな大精霊を選定する際、私に矢が立つ望みも残っていたのに)
霊威第一主義の世界にも関わらず、大精霊は互選や推薦で選ばれる。候補者の霊威の強さもむろん重視されるが、それだけが絶対の要素ではないのだ。
何故なら、大精霊は神格を賜り神威を得るからだ。神威を有してしまえば、霊威の強さは関係なくなる。最弱の霊威しか持たない使役とて、神に見初められて神格を賜れば神威を手に入れ、元々の霊威の弱さなど帳消しにできる。それと同じだ。
ゆえに大精霊は、個々の力だけでなく、配下を従わせる統率力や判断力、性格や周囲との関係性、あるいは派閥争いや交渉、駆け引きに策謀など他の要素も含有した上で決められる。
しかし結局、新たな大精霊に選ばれたのはアルシオだった。最大の決め手は神々からの覚えがウォーロックより高かったこと。今回に関しては、先代が神々の怒りを買い、強制廃任で降格されたため、次こそは間違いのない者を選ばねばならなかった。そこで、候補者の中で最も神々からの評価が高いアルシオに決まった。
(私も兄の補佐をして欲しいと言われ、副大精霊になり神格を得たが……神々の目は兄の方に向いていた)
日々の務めでも、儀式や祭祀でも、大精霊の方が神々と多く接する。使役の頂かつ代表として、神使が動く部分の中心を担い、最も良い場面や役割を持っていく。それにより、ますます目をかけられる。
対する副大精霊というのは、あくまで補佐でしかない。四大高位神のいずれかの専属神使として、主神の目に留まりやすい環境にいるわけでもない。いつからか、とても損な役回りだと感じるようになっていった。……以前は、嬉しい頑張ろうと純粋に思っていたはずなのに。
(それでも、使役全体で見れば一握りもいない神格持ちの使役になれたことは、最大級の幸運だった。なのに……)
これで神々の身内となり、正式な神へ上げていただける道が繋がる。大精霊ほどではないが、他の神格持ちの使役にも神成の前例はあるのだ。ウォーロックはアルシオには及ばずとも全霊で務めをこなしていた。しかし、兄はさらに弟の大事なものを奪っていった。初恋だ。
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