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6章
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――俺は有言実行の男だぞ。
離した唇をこれ見よがしに舐めながら、ニヤリと獰猛に男は笑った。駄犬に良識を期待してはいけないと身を以て悟り、以降「テオ」と呼ぶようになった志貴が、うっかり「テオバルド」と呼び掛けた時も、その弁明を聞くことはなかった。
ただし、駄犬には駄犬の流義があるらしく、それ以外で色事を仕掛けてくることも、強引に接触してくることもない。「有言実行の男」というのは事実で、その点では無闇に身構える必要はなく、不思議な緊張を孕みながらも二ヵ月が過ぎている。
だからといって完全に警戒を解いたわけではない、と志貴は男を軽く睨んでやる。まるで気にせず色気の混じった目配せを送ってくるテオバルドに、何を察したのか、衛藤がからかう口調で忠告する。
「セニョール・アルヴァ、志貴の誇りを傷つけないように気を付けたまえ」
「アルヴァでいい。俺もあんたを衛藤と呼んでも?」
「構わないよ」
初対面からくだけた態度でありながら、ファーストネームを許さないテオバルドを、志貴は不審に思った。仕事相手となる梶と志貴に、最初から「テオバルド」でいいと朗らかに告げた、大らかで気さくな男のはずなのだが。
「俺ごときが、志貴の誇りを傷つけられるはずがない。さっきの金髪の男前や、あんたみたいな奴の方が、よっぽど傷つけてるんじゃないか」
「……どういう意味かな」
「志貴はあんた相手に、愚痴ったり拗ねたりするか?」
いつも志貴が、テオバルドに愚痴を言ったり拗ねたりしているようにも聞こえる言い方だ。そんなことはしていない、と訂正したかったが、壮絶な艶をたたえた流し目を送られ、喉元まで出掛かった文句が詰まる。これが脅しだと察したからだ。
二人の間にあったことを黙っていてほしいなら何も言うな、とテオバルドは暗に圧力を掛けている。
「そうやって志貴に触れるのも、幼馴染としてなら、やめてやることだ。志貴のためにも、――あんたのためにも」
「……なるほど、志貴に護身用にいくつか技を教えたのは、役に立っているようだ。――君も、許されたいのだな」
許されたいということは、今は許されていないということか。――しかし、何を。
目的語の不明な一洋の言葉に戸惑う志貴とは反対に、テオバルドはほのめかすものを理解したらしい。眦が吊り上がり、ぎりっと音がしそうに口元が引き締まる。初めて見る剣呑な顔付きに目を瞠る志貴を、男が放つ殺気から守るように、一洋の腕に力が込もる。
「見間違いでなければ、今し方君も、志貴に触れようとしていたようだが。それに、何か勘違いしているようだ。志貴が私に甘えるのではない、私が志貴に甘えているんだ」
「衛藤中佐ともあろう方が、ご冗談が過ぎます。中佐が私に甘えるなど、これまでなかったでしょう」
「気がついていないなら、俺は甘え上手ということだな」
離した唇をこれ見よがしに舐めながら、ニヤリと獰猛に男は笑った。駄犬に良識を期待してはいけないと身を以て悟り、以降「テオ」と呼ぶようになった志貴が、うっかり「テオバルド」と呼び掛けた時も、その弁明を聞くことはなかった。
ただし、駄犬には駄犬の流義があるらしく、それ以外で色事を仕掛けてくることも、強引に接触してくることもない。「有言実行の男」というのは事実で、その点では無闇に身構える必要はなく、不思議な緊張を孕みながらも二ヵ月が過ぎている。
だからといって完全に警戒を解いたわけではない、と志貴は男を軽く睨んでやる。まるで気にせず色気の混じった目配せを送ってくるテオバルドに、何を察したのか、衛藤がからかう口調で忠告する。
「セニョール・アルヴァ、志貴の誇りを傷つけないように気を付けたまえ」
「アルヴァでいい。俺もあんたを衛藤と呼んでも?」
「構わないよ」
初対面からくだけた態度でありながら、ファーストネームを許さないテオバルドを、志貴は不審に思った。仕事相手となる梶と志貴に、最初から「テオバルド」でいいと朗らかに告げた、大らかで気さくな男のはずなのだが。
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「……どういう意味かな」
「志貴はあんた相手に、愚痴ったり拗ねたりするか?」
いつも志貴が、テオバルドに愚痴を言ったり拗ねたりしているようにも聞こえる言い方だ。そんなことはしていない、と訂正したかったが、壮絶な艶をたたえた流し目を送られ、喉元まで出掛かった文句が詰まる。これが脅しだと察したからだ。
二人の間にあったことを黙っていてほしいなら何も言うな、とテオバルドは暗に圧力を掛けている。
「そうやって志貴に触れるのも、幼馴染としてなら、やめてやることだ。志貴のためにも、――あんたのためにも」
「……なるほど、志貴に護身用にいくつか技を教えたのは、役に立っているようだ。――君も、許されたいのだな」
許されたいということは、今は許されていないということか。――しかし、何を。
目的語の不明な一洋の言葉に戸惑う志貴とは反対に、テオバルドはほのめかすものを理解したらしい。眦が吊り上がり、ぎりっと音がしそうに口元が引き締まる。初めて見る剣呑な顔付きに目を瞠る志貴を、男が放つ殺気から守るように、一洋の腕に力が込もる。
「見間違いでなければ、今し方君も、志貴に触れようとしていたようだが。それに、何か勘違いしているようだ。志貴が私に甘えるのではない、私が志貴に甘えているんだ」
「衛藤中佐ともあろう方が、ご冗談が過ぎます。中佐が私に甘えるなど、これまでなかったでしょう」
「気がついていないなら、俺は甘え上手ということだな」
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