トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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6章

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 一洋は定時に迎えに来ると言っていた。それまでにジェイムズ来襲の余波の後始末をし、対策を講じなければならない。逃げた黒木にも連絡を取って、色々と言い含めることがある。今日の続きの――仕事の確認もしたい。
 吸い尽くされたと思っていたが、まだ底力という名の気力は残っていたらしい。椅子の上で背筋を伸ばし、志貴は『スペイン語』と向き合う顔になる。テオバルドはここへ遊びに来ているわけではない。桐機関のリーダーとして、報告を上げに来ているのだ。

「――いつもの顔にも戻ったな。綺麗で冷たくて、つい触れたくなるほど可愛いのに、つよい。……あいつが、そうさせるのか」
「衛藤中佐は、幼馴染である前に同胞だ。同じ使命を分かち合う人だ」

 だからこそ、同胞として頼りになる存在になりたい。そして『先生とこの志貴ちゃん』――庇護の対象ではなく、一人前の外交官として務めを果たしていると認めてほしい。
 そうあるために奮い立つ力を与えてくれる、それが一洋という存在だ。

「俺もあんたの同胞だということを忘れるな。たっぷりの絶望にほんの少しの希望を垂らしてごった煮にした、この世界という名の、魔女の釜に生きる同胞を」

 そして目の前の男は、コスモポリタンの同胞だった。
 ともに生まれた土地を愛しながら、片や戦いの末に望んでいなかった新しい国の姿に絶望し、片や勝てる見込みのない戦いに突き進む国の有り様に望みを失いつつある同胞――。愛国者を名乗るには愚直なまでに純粋すぎて、どこにも属さない世界の漂泊者コスモポリタンと自称することしかできない。

 すでに国に唾棄して恥じることのないテオバルドは、先導者だった。志貴の手首にその手綱を巻き付け、時に目を背けたくなるような世界を、光の当たらない場所からともに眺めようと唆す、駄犬を装った誘惑者だった。
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