トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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6章

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 翌週開かれた、慰労会も兼ねた内輪の昼食会は、呼ばれてもいないのに現れた追加の参加者が三名もいて、若干の混乱を来した。
 志貴のスペイン語の教師ということになっているテオバルドはまだしも、志貴の護衛を自称し澄まし顔で現れた一洋には呆れたが、日本公使館と何ら関係ないどころかむしろ敵対関係にある、イギリス大使館参事官の肩書きで堂々と乗り込んできたジェイムズに至っては、どうして通してしまったのかと守衛を問い詰めたい思いだった。

「前回同様、礼儀正しく規則に従って名乗ったら入れてくれたぞ。――これ以上の身分証明を要求し、この私を妨げるなら、今ここでスペイン外務省とうちの大使に電話してもらっても構わない。ただし問題なかった時の責任は厳に問わせてもらうし、ここの一等書記官の顔に泥を塗ることになる、とも言ったが」

 ドイツ製のクマのぬいぐるみを小脇に抱えての登場に、またしても大切な何かを吸い尽くされ卒倒しそうになりながらも、志貴は懸命に踏みとどまる。彼がこの国に赴任している間、こうして会うたびに気絶しかけるわけにはいかない。
 冷然と日本公使館一等書記官の顔を保ち、「そういうのを恫喝と言うんですよ」と非難したが、英語を理解できないかのように綺麗に無視された。案内してもいないのに、どんどん奥の広間へと進む異星人の背中を追うのが精一杯だ。

「ちょっと、ジェイムズ……じゃない、ジェイムズ卿!」

 敵国の公使館にもかかわらず、あっという間に広間の雰囲気と参加者たちに馴染んでしまったジェイムズは、相変わらずというしかなかった。彼はどんな場所でも、王のように悪童のように振る舞うのだ。
 あらゆる不当な差別感情を持たず上下の隔たりもない、天衣無縫な異国の紳士に、最初は臆していた現地人館員の家族もすっかり打ち解けている。それはジェイムズの持つ稀有な美質であり、好ましいところでもあるのだが、問題は梶だった。梶もジェイムズも、公の立場を越えて互いを気に入りそうだと、嫌な予感がしていたのだ。
 予感は的中し、冒頭五分で意気投合した二人は、案の定、その共通項である志貴を肴に大盛り上がりだ。それに気づいた一洋がにこやかに加わり、さらには興味深そうにテオバルドまでもが混ざって、彼らの陣取るソファの一角は、志貴の過去を共有し合う発表会のような有り様となっている。

(日本でも実現しなかったのに、どうしてスペインでこんなことに……)

 過保護の三大勢力の揃い踏みに、志貴に言い寄るラテン男まで加わって、駐スペイン日本公使館の広間に、歪んだ魔の異空間が成立している。その奇縁の餌食になりながらも、志貴は自らの務めを果たすことに集中した。
 もてなす側に徹し、立食式の会場を隅々まで回ってすべての参加者に声を掛け、館員には一年の労をねぎらい、その家族にはいつも支えてくれる感謝を述べる。小さな子供にも目を合わせ、「いい子だね、よく来てくれたね」と微笑む。無邪気な子供たちとの交流で無垢な英を思い出し、邪気に溢れた異空間を意識から締め出していたのだ。
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