トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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11章

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 志貴を啼かせ精を搾った後、同じベッドで共に眠る一洋の寝息は穏やかだ。悪化する情勢下で、深い眠りがどれほど貴重なものか、志貴はよく知っている。そのための『薬』、そのための身代わりだ。だからこそ、もっと有効に身代わりを使えばいいのにと思うのだ。

 はしたない体に潜む欲を暴かれ、何度も果てて気を失うように眠りに落ちる。その醜態を受け入れ蔑むことなく、体温を分け合いながらともに眠ってくれる相手がいることは、欲望からだけではなく、志貴を解放してくれる。
 なすすべもなく追い詰められ男の手技に喘いでいる間、志貴は快楽しか感じ取れなくなる。ひととき、胸を塞ぐ母国の状況を頭の中から追い払い、空っぽの状態になれるのだ。
 この隔絶された任地にいる間は、敵国の情報だけではなく、客観的視点による母国の状況も把握できてしまう。そして否応なく、日々焦燥と無力さを噛み締めなければならない。その膝が砕けそうになる重荷を、一洋にも降ろしてほしいと思う。志貴を――君子の身代わりを相手に、仮初めの快楽と安らぎを得ることで。
 しかし一洋が望む二人の関係に、それは含まれない。彼にとって、志貴はあくまで庇護すべき年下の幼馴染――身代わりにはしても、求める相手ではないからだ。

 そうして自らの性欲には蓋をし、志貴だけに『薬』を注ぎ解放しようとする一洋は、情と欲に明確な線引きのできる大人なのかもしれない。
 ただ、高潔に思われる幼馴染の中に、あの春の日、唇を離した後に「ごめん」と呟いた純心な少年はもういない。母の身代わりにされていることに志貴が気づいていると知らないまま、その痴態を眺め愉悦に浸る――性愛の手管に長けた大人の男が、よく知る幼馴染とともに彼の中に同居している。
 月曜日の朝、目覚めると、慈愛に満ちた幼馴染の顔で志貴を見つめているのは、誠実で残酷な見知らぬ男だった。

 一羽の鳥影が、黒い礫のように鋭く視界を横切り、志貴は目線をわずかに空へ向けた。
 指定席となっているこのベンチからは、バチカンのサン・ピエトロ広場を彷彿とさせる荘厳な半円の列柱コロネードを従えた、アルフォンソ十二世の記念碑モニュメントが目の前に見える。列柱越しの大池の水面は、吹き渡る風にさざめき、陽光の反射が白く乱舞する。のどかな昼下がりの光景だった。
 その健全で正常な空間が、不似合いな者にとっては、こうして厄介なものになる。以前と同じ幼馴染でありながら、決定的に変わってしまった一洋との関係を、文字通り白日の下に晒されるような錯覚を抱くからだ。

 誰にも言えない、別の人間への劣情と浅ましい肉体の欲の交換は、互いに利己的すぎて、ひやりとした痛みを生む。その意味では、志貴を誰かの身代わりにして劣情や恋情を向けるわけではないテオバルドとの関係は、純粋で健全だと言えるはずだが、彼もまた友人という存在からは逸脱している。――飼い犬とその主人という、勝手に押し付けられた関係以前に。
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