トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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17章

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 注がれるのが、ただ体を潤わせるものではなく、堪えても押し殺せない男の情だということを、志貴は理解していた。彼に対する自身の情と信頼を、こうして試されていることも。
 その上今は、褒美として求められる立場だ。自ら望み、けしかけた闘牛ごっこの結末に、あやうくてもその口づけを拒むことなどできない。裸足で刃先を渡るような、唇を使った甘美な交情――清々しい春の光の中で、二人は背徳的な陶酔に浸る。
 たっぷりと志貴を貪ってから、テオバルドはようやく唇を離した。

「――はしゃいでるな、志貴。喉が乾いてるだろ」
「君だって。こんなこと、外で……。ワインなら自分で飲める」
「外だからいいんだろ、観客がいないのが残念だ。あんたは俺の飼い主だと、太陽の下で見せつけてやれるのに」

 不埒な言葉に、急に羞恥が込み上げた。
 マドリードから遠く離れ、日常を忘れ――寂れた修道院の近く、静謐な林の中で、欲にまみれた行為に耽っているのだ。童心に帰ったのも束の間、二人きりだという開放感に流されて、飼い犬が望むままその手綱を緩めている。

(――遠足というより、逢瀬じゃないか)

 厚い胸板を押し遣ろうとするのを阻むように、背に回された腕に力が込もる。困惑して顔を上げると、すかさず唇が重なった。

「……ゃ……んぅ……」

 今更ながら、場違いな行為を咎めようと口を離すが、すぐに追い縋られて再び唇を奪われる。
 宥めるように舌先で唇をくすぐられ、その感覚にぞわりと背筋が毛羽立つ。耐えかねて薄く開いた隙間に、悠々と厚く長い舌を捩じり込まれてしまえば、志貴にはもうなす術がない。

 テオバルドの舌使いは、いつも自信に満ちて狡猾だ。志貴の心情を慮りながら、時に優しく寄り添うように、時に荒々しく奪うように、自分の縄張りを完全に支配する。――彼の闘牛の技トレオのように。
 今テオバルドは、飼い犬ではなく、支配者の顔をしていた。久しぶりの演技が、闘牛士の血を昂らせたのかもしれない。
 志貴の迷いを情欲で塗り潰すように、胸に縋る腕から力が抜けるまで、テオバルドが口内を奔放に蹂躙する。
 捕らえた獲物が従順になったのを確かめるように、男の膝が志貴の脚に割り込んだ。口づけで抵抗を封じながら、下肢を擦り合わせ、じわじわと熱を高めていく。
 ムレタの幻ではない。もどかしいが、あからさまな愛撫だ。官能で追い詰めようとする意図が、見え隠れしている。
 しかし、革袋を投げ捨て全身でがっちりと逃げ場を塞いでくる相手に――何より、熱烈に求められる悦びに、志貴は抗うことができない。

 誰にも見られる心配のない場所で、自身の浅ましさと、求めてくる男の欲望に身を浸す。罪悪感より開放感が勝る行為に、いつしか志貴も、夢中になって応えていた。男の好みに躾けられた通り、男の望むいやらしさで、唇を舐め、舌を絡め、唾液を求め合う。
 太腿で執拗に揉まれて、欲望も芯を持ち始める。取り返しがつかなくなる一線は、すぐそこまで来ている。
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