203 / 237
17章
10
しおりを挟む
パセと呼ばれる一連の動きは、確かに戦いなどではなく、舞踏、もしくは抱擁に近い。多彩と優雅さを備えたムレタの円舞は芸術的ですらあり、見る者の目を奪うが、一方で官能的でもある。
熱狂的なファンには、闘牛士と牡牛の交歓に性愛的要素を見出す者もいる。テオバルドの闘牛の技は、特にそれに値するものだ。
連続するパセの、人間と牡牛の近接する関係、往復運動のリズム、ムレタの襞に牛を誘う仕草は、生と死の合体という官能的なイメージを否応なく想起させる。裸の愛人を抱いてベッドにいる男が、手探りの長い愛撫で女の体に思うままの姿勢を取らせるように、牡牛を自由に操り、その動きと心を支配するかのようだ。
それでいて華麗で、勇壮で、美しい。
腕を震わせてムレタに細波を起こすのも、突進する牛を不動のまま上半身を反らせるだけで紙一重に交わすのも、常に体に芯が通り、優美で何一つ崩れるものはない。テオバルドは、正統、均整、秩序の中に、芸術的な情動を溶かし込んでいる。
(これが、花形と呼ばれた闘牛士の技――)
繰り返されるパセの果てに、真実の瞬間が訪れる。
指が濡れるまで深く剣を突き刺すのが望ましいとされる、一種の挿入ともいえる最期の突きは、闘牛士の絶頂。
それを表現するために、テオバルドは二本目の枝を――剣を拾ったのだ。男根を突き立てられ果てるのは志貴なのだと、淫靡な暗喩をほのめかすために。
男の荒い息は、激しい性交の終わりそのものだ。
引きずられるように、ぞくりと志貴の肌が泡立った。ただ見ていただけなのに、ムレタに――男に愛撫されたかのような錯覚に陥る。
絶命した牡牛から剣を引き抜いたテオバルドが、それを縦に捧げ持ち、志貴への献呈を表す。
軽く息を切らせながら艶っぽい目線を送られて、志貴はようやく我に帰り、遅ればせながら手を拍った。
「君は、――綺麗だな。現役の頃に会いたかったよ、闘牛士と観客として」
身震いするほど官能的だ、とは言えなかった。
素直な感想を隠した、それでも最大級の賛辞に、まんざらでもなさそうに元花形闘牛士が口の端を上げる。
地面に置いていたリュックサックからワインの革袋を取り出し、栓を開けながら、テオバルドは志貴の顔を覗き込んだ。
「褒美はもらえないのか?」
「何が欲しいんだ」
「仕留めた牛の耳二枚に尻尾も」
この場で仕留められたのは、見えない牡牛――つまり志貴だ。不遜な言い草だが、最高の褒章に値する演技ではあった。
片手で腰を抱かれ、何も言わずに目を閉じれば、濡れた唇が降りてくる。
「ん、ん……」
舌が唇を割り、ぬるいワインが流し込まれた。
口移しに飲み物を与えられることにも、志貴はすっかり慣らされていた。スパイと外交官という立場で、何かを盛られる危険性を否定できない行為だ。それでも黙って受け入れる志貴に、テオバルドは狂おしく舌を絡める。
熱狂的なファンには、闘牛士と牡牛の交歓に性愛的要素を見出す者もいる。テオバルドの闘牛の技は、特にそれに値するものだ。
連続するパセの、人間と牡牛の近接する関係、往復運動のリズム、ムレタの襞に牛を誘う仕草は、生と死の合体という官能的なイメージを否応なく想起させる。裸の愛人を抱いてベッドにいる男が、手探りの長い愛撫で女の体に思うままの姿勢を取らせるように、牡牛を自由に操り、その動きと心を支配するかのようだ。
それでいて華麗で、勇壮で、美しい。
腕を震わせてムレタに細波を起こすのも、突進する牛を不動のまま上半身を反らせるだけで紙一重に交わすのも、常に体に芯が通り、優美で何一つ崩れるものはない。テオバルドは、正統、均整、秩序の中に、芸術的な情動を溶かし込んでいる。
(これが、花形と呼ばれた闘牛士の技――)
繰り返されるパセの果てに、真実の瞬間が訪れる。
指が濡れるまで深く剣を突き刺すのが望ましいとされる、一種の挿入ともいえる最期の突きは、闘牛士の絶頂。
それを表現するために、テオバルドは二本目の枝を――剣を拾ったのだ。男根を突き立てられ果てるのは志貴なのだと、淫靡な暗喩をほのめかすために。
男の荒い息は、激しい性交の終わりそのものだ。
引きずられるように、ぞくりと志貴の肌が泡立った。ただ見ていただけなのに、ムレタに――男に愛撫されたかのような錯覚に陥る。
絶命した牡牛から剣を引き抜いたテオバルドが、それを縦に捧げ持ち、志貴への献呈を表す。
軽く息を切らせながら艶っぽい目線を送られて、志貴はようやく我に帰り、遅ればせながら手を拍った。
「君は、――綺麗だな。現役の頃に会いたかったよ、闘牛士と観客として」
身震いするほど官能的だ、とは言えなかった。
素直な感想を隠した、それでも最大級の賛辞に、まんざらでもなさそうに元花形闘牛士が口の端を上げる。
地面に置いていたリュックサックからワインの革袋を取り出し、栓を開けながら、テオバルドは志貴の顔を覗き込んだ。
「褒美はもらえないのか?」
「何が欲しいんだ」
「仕留めた牛の耳二枚に尻尾も」
この場で仕留められたのは、見えない牡牛――つまり志貴だ。不遜な言い草だが、最高の褒章に値する演技ではあった。
片手で腰を抱かれ、何も言わずに目を閉じれば、濡れた唇が降りてくる。
「ん、ん……」
舌が唇を割り、ぬるいワインが流し込まれた。
口移しに飲み物を与えられることにも、志貴はすっかり慣らされていた。スパイと外交官という立場で、何かを盛られる危険性を否定できない行為だ。それでも黙って受け入れる志貴に、テオバルドは狂おしく舌を絡める。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる