204 / 237
17章
11
しおりを挟む
注がれるのが、ただ体を潤わせるものではなく、堪えても押し殺せない男の情だということを、志貴は理解していた。彼に対する自身の情と信頼を、こうして試されていることも。
その上今は、褒美として求められる立場だ。自ら望み、けしかけた闘牛ごっこの結末に、あやうくてもその口づけを拒むことなどできない。裸足で刃先を渡るような、唇を使った甘美な交情――清々しい春の光の中で、二人は背徳的な陶酔に浸る。
たっぷりと志貴を貪ってから、テオバルドはようやく唇を離した。
「――はしゃいでるな、志貴。喉が乾いてるだろ」
「君だって。こんなこと、外で……。ワインなら自分で飲める」
「外だからいいんだろ、観客がいないのが残念だ。あんたは俺の飼い主だと、太陽の下で見せつけてやれるのに」
不埒な言葉に、急に羞恥が込み上げた。
マドリードから遠く離れ、日常を忘れ――寂れた修道院の近く、静謐な林の中で、欲にまみれた行為に耽っているのだ。童心に帰ったのも束の間、二人きりだという開放感に流されて、飼い犬が望むままその手綱を緩めている。
(――遠足というより、逢瀬じゃないか)
厚い胸板を押し遣ろうとするのを阻むように、背に回された腕に力が込もる。困惑して顔を上げると、すかさず唇が重なった。
「……ゃ……んぅ……」
今更ながら、場違いな行為を咎めようと口を離すが、すぐに追い縋られて再び唇を奪われる。
宥めるように舌先で唇をくすぐられ、その感覚にぞわりと背筋が毛羽立つ。耐えかねて薄く開いた隙間に、悠々と厚く長い舌を捩じり込まれてしまえば、志貴にはもうなす術がない。
テオバルドの舌使いは、いつも自信に満ちて狡猾だ。志貴の心情を慮りながら、時に優しく寄り添うように、時に荒々しく奪うように、自分の縄張りを完全に支配する。――彼の闘牛の技のように。
今テオバルドは、飼い犬ではなく、支配者の顔をしていた。久しぶりの演技が、闘牛士の血を昂らせたのかもしれない。
志貴の迷いを情欲で塗り潰すように、胸に縋る腕から力が抜けるまで、テオバルドが口内を奔放に蹂躙する。
捕らえた獲物が従順になったのを確かめるように、男の膝が志貴の脚に割り込んだ。口づけで抵抗を封じながら、下肢を擦り合わせ、じわじわと熱を高めていく。
ムレタの幻ではない。もどかしいが、あからさまな愛撫だ。官能で追い詰めようとする意図が、見え隠れしている。
しかし、革袋を投げ捨て全身でがっちりと逃げ場を塞いでくる相手に――何より、熱烈に求められる悦びに、志貴は抗うことができない。
誰にも見られる心配のない場所で、自身の浅ましさと、求めてくる男の欲望に身を浸す。罪悪感より開放感が勝る行為に、いつしか志貴も、夢中になって応えていた。男の好みに躾けられた通り、男の望むいやらしさで、唇を舐め、舌を絡め、唾液を求め合う。
太腿で執拗に揉まれて、欲望も芯を持ち始める。取り返しがつかなくなる一線は、すぐそこまで来ている。
その上今は、褒美として求められる立場だ。自ら望み、けしかけた闘牛ごっこの結末に、あやうくてもその口づけを拒むことなどできない。裸足で刃先を渡るような、唇を使った甘美な交情――清々しい春の光の中で、二人は背徳的な陶酔に浸る。
たっぷりと志貴を貪ってから、テオバルドはようやく唇を離した。
「――はしゃいでるな、志貴。喉が乾いてるだろ」
「君だって。こんなこと、外で……。ワインなら自分で飲める」
「外だからいいんだろ、観客がいないのが残念だ。あんたは俺の飼い主だと、太陽の下で見せつけてやれるのに」
不埒な言葉に、急に羞恥が込み上げた。
マドリードから遠く離れ、日常を忘れ――寂れた修道院の近く、静謐な林の中で、欲にまみれた行為に耽っているのだ。童心に帰ったのも束の間、二人きりだという開放感に流されて、飼い犬が望むままその手綱を緩めている。
(――遠足というより、逢瀬じゃないか)
厚い胸板を押し遣ろうとするのを阻むように、背に回された腕に力が込もる。困惑して顔を上げると、すかさず唇が重なった。
「……ゃ……んぅ……」
今更ながら、場違いな行為を咎めようと口を離すが、すぐに追い縋られて再び唇を奪われる。
宥めるように舌先で唇をくすぐられ、その感覚にぞわりと背筋が毛羽立つ。耐えかねて薄く開いた隙間に、悠々と厚く長い舌を捩じり込まれてしまえば、志貴にはもうなす術がない。
テオバルドの舌使いは、いつも自信に満ちて狡猾だ。志貴の心情を慮りながら、時に優しく寄り添うように、時に荒々しく奪うように、自分の縄張りを完全に支配する。――彼の闘牛の技のように。
今テオバルドは、飼い犬ではなく、支配者の顔をしていた。久しぶりの演技が、闘牛士の血を昂らせたのかもしれない。
志貴の迷いを情欲で塗り潰すように、胸に縋る腕から力が抜けるまで、テオバルドが口内を奔放に蹂躙する。
捕らえた獲物が従順になったのを確かめるように、男の膝が志貴の脚に割り込んだ。口づけで抵抗を封じながら、下肢を擦り合わせ、じわじわと熱を高めていく。
ムレタの幻ではない。もどかしいが、あからさまな愛撫だ。官能で追い詰めようとする意図が、見え隠れしている。
しかし、革袋を投げ捨て全身でがっちりと逃げ場を塞いでくる相手に――何より、熱烈に求められる悦びに、志貴は抗うことができない。
誰にも見られる心配のない場所で、自身の浅ましさと、求めてくる男の欲望に身を浸す。罪悪感より開放感が勝る行為に、いつしか志貴も、夢中になって応えていた。男の好みに躾けられた通り、男の望むいやらしさで、唇を舐め、舌を絡め、唾液を求め合う。
太腿で執拗に揉まれて、欲望も芯を持ち始める。取り返しがつかなくなる一線は、すぐそこまで来ている。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる