とっていただく責任などありません

まめきち

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リュートのお願い

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騎士団を退職してからちょうど1週間。そこへ、リュートが突然やって来た。  

リュートはいつもとは違い、どこか落ち着かない様子で口を開いた。

「王宮の舞踏会でさ、エスコート予定だった子が怪我で来れなくなったんだ。ヘイゼル、代わりに一緒に行ってくれないか?」

リュートにはこれまで軽い頼み事をされたことはあったけど、今回はさすがに度肝を抜かれた。

「は!? 舞踏会に私が!?」  

思わず声を上げて彼の言葉を繰り返す。  

「そう、頼むよ! お前しかいないんだ!」  

いつも自信たっぷりのリュートが、珍しく目を泳がせ、必死に私の肩を掴む。その手には、ほのかな震えさえ感じられた。  

リュート、よっぽど追い詰められているんだな…。

「侯爵家の次男なんだから、舞踏会くらい慣れてるでしょ? 1人で行っちゃえば?」  

「慣れてるわけないだろ。
次男だから家は継がないし、子爵の爵位だって騎士団で命懸けで稼いだものだ。
それなのに、毎回あの女豹みたいな貴族の娘たちに追い回されて…!」

リュートが顔をしかめながら言う。

「舞踏会の女たち、まるで女豹みたいに群がってきて、怖いんだよ!」  

私は思わず、リュートを追いかける貴族令嬢たちの姿を想像してしまった。

「待って、ダンスなんて踊ったことないよ! 作法だって全然だし、そもそも私、貴族でもなんでもないし!」

「大丈夫だって! 1ヶ月あれば、専門の講師でダンスも作法も叩き込む。
貴族ばっかりじゃなく、商家の金持ちも来る舞踏会だから、問題ないよ!」  

リュートはそう言って、なぜか自信満々に胸を叩いた。  

「でも知らない女が急にリュートの横に立ってたら、両親驚くんじゃない?」

「それも問題ない。うち、男兄弟しかいないから、両親はずっと女の子を欲しがってたんだ。お前を着飾って舞踏会に連れてったら、絶対大喜びするよ!」  

いや、私が全然大丈夫じゃない。 
だが目の前の切羽詰まったリュートを見ていると力になりたかった。

リュートはいつも私のピンチを助けてくれた。騎士団に勤めてた際はどれだけ彼に救われたか。  

目の前の彼は、いつもの自信満々なリュートじゃなく、まるで追い詰められた少年のようだ。  
…ダメだ、放っておけない。   

「分かった。リュートには世話になってるし、協力するよ。でも、途中で無理だと思ったらやめるからね。」  

「ありがとう、ヘイゼル!」  

リュートの顔がパッと明るくなり、まるで子供のようにはしゃぐ。
次の瞬間、ガバッと抱き寄せられて、私は思わず「うわっ!」と声を上げてしまった。  

「ちょ、離せって! 熱いんだから!」  

私は慌てて彼を押し返すけど、リュートはニヤッと笑って腕を緩めない。  
でも、心のどこかで、いつもの調子を取り戻した彼に、ホッとしている自分がいた。



舞踏会のパートナーを引き受けた翌日、
さっそくリュートの両親と顔合わせすることになった。

「逃げられないようにね!」

とリュートにニヤニヤされ、半ば強引に侯爵家の屋敷へ連れて行かれた。  

リュートの両親は拍子抜けするほどおおらかで、「リュートの友達なら家族よ!」
と母が豪快に笑い、父が穏やかに頷いてくれた。

この人たち、ほんとリュートそっくりだな。 

それから1ヶ月、侯爵家の広大な屋敷の、
きらびやかなシャンデリアの下で、ダンスの練習やマナーの特訓がみっちり詰め込まれた。

ダンスは、最初は足を踏みそうで冷や汗ものだったけど、体の動かし方を覚えると驚くほどスムーズに。
それに、リュートも騎士団の仕事の合間をぬって、私の練習に付き合ってくれた。

音楽に合わせてステップを踏むたび、なんだか心が軽くなるのを感じた。

これ、思ったより楽しいかも。  

マナーも、父が一代限りの男爵だったおかげで基礎があったから、なんとかついていけた。  

でも、一番大変だったのはドレス選びだ。
舞踏会まで新しく仕立てる時間はないから、
既製品をアレンジすることに。

そして今日はドレスの試着日

ふわふわのレースやキラキラのビーズが眩しいドレスを次々着せられ、私はもうフラフラだ。

リュートの母、メリダ夫人は私を着飾るのに夢中だ。

「これ、絶対似合うわよ!」

と目を輝かせ、まるで自分の娘を飾るように次々ドレスを持ってくる。

ドレス試着で6着目に突入した頃、
私はもうヘトヘトだった。 

メリダ夫人が

「これ、絶対似合うわよ!」

とドレスを差し出すたび、抵抗する気力も消えていく。  

「もう…この辺でいいですよね?」

と弱々しく訴えるけど、母さんの目は獲物を逃がさない女豹の輝きだ。

…やばい、完全に着せ替え人形状態。  

そこへ、タイミング良く?
リュートがひょっこり現れた。  

「へぇ、ヘイゼル、なかなか似合ってるじゃん!」  

ニヤニヤしながらソファに腰掛ける彼。
こいつ、なんでこんな時にのんきに!?  

「リュート! あんたも試着しなさい!舞踏会なんだから、ちゃんと正装選びなさい!」  

メリダ夫人が、まるで戦利品を掲げるように、タキシードを振りかざす。その目は、リュートを逃がす気ゼロだ。  

「うわ、母さん、落ち着いて! 俺、騎士団の急用がさ、ほら!」  

リュートは一瞬でソファから飛び上がり、まるで戦場を駆けるような身のこなしで窓枠に手をかけた。  

「ヘイゼル、舞踏会はお前が輝けばいいから! 俺は…まぁ、応援してるぜ!」  

ウインク一つ残して、リュートは窓からサッと姿を消した。

…早っ!  

「リュート、待ちなさい!」  

メリダ夫人が廊下を追いかける中、私はドレスの裾につまずきながら叫んだ。  

「ちょっと! 私だけ置いてくな、ずるいんだから!」  

でも、リュートが一瞬だけ振り返って
「悪くないな」と呟いた声が、なぜか頭に残ってる。

って、褒めてる場合じゃないって!  

結局、メリダ夫人の「次はこれ!」攻撃は止まらず、ドレス試着は9着目でやっと決着。

メリダ夫人が「これよ!」と差し出したのは、深いサファイアブルーのマーメイドドレス。

シルクの生地が私の長身をすらりと伸ばし、ウエストからヒップのラインをなぞって、裾がふわっとフレアに広がる。

胸元にはサファイヤのネックレスが光って
…めっちゃ体のライン出るんだけど!?  


「ヘイゼルちゃん、このドレスなら舞踏会で視線独り占めよ!」

とメリダ夫人が目を輝かせる。

私は「目立たなくていいですって!」と叫ぶけど、裾を踏みそうでそれどころじゃない。  

追い打ちをかけるように、メリダ夫人が
「髪も変えなきゃ!」と虹色の染料瓶を取り出した。

「このドレスには金髪が完璧!」  


 「金髪!? 無理、無理!」

と抵抗するけど、メイドさんに髪を染められ、鏡にはキラキラした金髪の私が。

「…誰!? これが私??」  

そこには小さいころ、密かに憧れた、絵本のお姫様みたいな自分がいた。

ヘイゼルが鏡に映る自分に見とれている後ろでは

「素材が良いから、つい張り切ってしまったわ」

とメリダ夫人が満足げに、
それでいて優雅に笑っていた。
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