視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
296 / 450
待ち合わせ

役割分担

しおりを挟む
 意外すぎる提案に、九条さんと伊藤さんと顔を見合わせた。ずっと私たちの仕事に半信半疑だった信也が、本当に信じるようになったのは有難いことだ。

 それに彼の言うことは一理ある。実際ここに住んでいるという証明はないよりあったほうがいい。私は頷いた。

「伊藤さん、いいかもしれません。信也は元々、人と距離を縮めるのが上手いタイプですよ」

 職場でもみんなの中心的存在だった彼は、リーダーシップも取れるし人懐っこい。伊藤さんほどのレベルではないが、私よりもずっと適任だと思えた。

 伊藤さんは少し考えた後、わかった、と返事をした。

「じゃあ原さんにもお願いします! とりあえず一旦、学校の教頭先生にもう一回会いに行って連絡先を入手するところからだけどいいですか?」

「付き合います」

「じゃ、僕と原さんはそっち係ってことで!」

 二人はバタバタと支度を整え始める。残る三人はそれを眺めながら、もう一つの問題にぶつかっていた。

 聡美が言う。

「で……子供の方は?」

 それだ。そっちの方が困るんだ。頭を抱えずにはいられない。

 まこと……じゃなかった、飛鳥ちゃんがこの世に留まっている理由は恐らく『恐怖』だ。母親との約束を破ったらまた暴力を振るわれるかもしれない、という恐怖が彼女を縛っている。無論、本物の母親なんかに会わせるわけにはいかない。もしかして、自分が死んだことにすら気づいていないのかも。

 その恐怖を取り払ってあげなければ、きっと眠ることはできない。

 私は九条さんを見上げた。

「九条さんが教えてあげるぐらいしか、できることはないんじゃないですか。もうあなたは死んでるから、親に虐められることもないし、眠っていいんだよって」

 彼はゆっくり眉を顰める。

「やはりそうなりますね。会話は可能なようですし、もう一度話してみるぐらいしか思いつきません。が……」

「が?」

「虐待を受けていた子供の心とは、想像以上に脆く深刻です。子にとって親は絶対的な存在ですし、第三者が何を言っても囚われた心は、そう簡単に解放できるものではないと思うんです」

 それはその通りだ、と思う。

 心に受けた傷は計り知れない。あんな暴力を受けて恐怖に飼われてしまったあの子を、説得なんてできるんだろうか。どうにかして、もう怖いものはないんだと教えてあげたいんだけれど……。

 九条さんは困ったように息を吐く。

「残念ながら私は伊藤さんのように子供に好かれるタイプでもありませんし」

「で、でも少し前の人形のときとか! 子供相手だったけどちゃんと聞いてくれてましたよ!」

「あの子は元々この世に未練などなかったようですからね。今回とはまるで違います」

 ううん、以前は後ずさりされたこともあったもんなあ……九条さん能面だから怖いんだよきっと。無駄に顔綺麗だから人形みたいだし。

 ちらりと聡美を見ると、どこか察したような顔で九条さんをみていた。顔には書いてある。『あーこれはね、子供には懐かれないタイプだね、わかる』。

 私たちはそれからもずっと考え込んだが、他にいい案が見つかるわけもなく、やっぱり九条さんの説得にかかっているという不安な結論しか出なかった。






 

 翌日の夕方。

 私と九条さん、そして聡美はどう飛鳥ちゃんに話しかけようか考え、実行してみようと階段を行ったり来たりしたが、飛鳥ちゃんに会うことはなかった。もしかして伊藤さんが近くにいないとダメなんだろうか。

 階段周辺をうろうろしすぎて今度こそ通報されるかもしれない、という恐怖心と戦いながら三人で動くも、悲しい気だけを感じ姿は見えない。これはやはり伊藤さんの存在が必要かもしれないと結論づけた。

 そして仕方なく信也の部屋で待機していた。何を話すこともなく、みんなでポッキーを齧ったりしていただけだ。 

 そして日が赤くなってきた頃、驚くことに、伊藤さんと信也がある人を部屋に連れてきた。

 もちろん、本物のまことちゃんだった。


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。