297 / 450
待ち合わせ
到着
しおりを挟む
いやもう成人している人にちゃん呼びはおかしい、真琴さんだ。不安げにやってきたその女性は、ボブの髪型をして色の白い可愛らしい人だった。真琴さんの隣には同じくらいの年と思われる男性がいた。伊藤さんが私たちにこっそり、『真琴さんの旦那さんです』と説明してくれる。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。