2 / 13
再会と家族の物語 2
しおりを挟む手と手が繋がれる。強く引き寄せれば、鏡面には一際大きく波紋が広がった。
「――フィアーナ」
カナン様が私の名を呼んだ。
「ああ、死に際の夢に君が現れるなんて――邪竜を倒した褒美かな」
それだけ言って、ヘラりと笑うとカナン様が倒れ込んでくる。それと同時に鏡と魔法陣は消えてしまう。
「……っ、カナン様!」
その体は、見た目よりも軽かった。
四年にも及んだ邪竜との戦いがどれほど過酷だったか、それだけでわかろうというものだった。
「なんとかベッドに運ばないと……」
白銀の精霊マリルが、心配げにカナン様に擦り寄った。先ほどよりもその姿は薄くなり、向こう側が透けている。おそらく、カナン様を連れ戻すためにほとんど力を使い果たしてしまったのだろう。
見た目より軽い気がすると言っても、それほど力持ちではない私が運ぶにはカナン様は重すぎる。
それでも必死になって運ぼうとしていると、シェリアがちょこちょこと歩んできて指先を天井に向けた。
カナン様の手にしていた杖から、赤に青、黄色に緑、四色の光が現れてシェリアの指先に集まっていく。
「みんな、シェリーに力を貸してくれるの?」
「シェリア?」
描かれたのは、先ほどより小さいけれど、やはり少しの歪みもない魔法陣だった。
「お願いっ、お父さまをベッドに運んで!」
シェリアの髪の毛が、床から吹き上がった風になびいた。
眩い光が部屋を包み込む。途端に、カナン様の体が風船のように軽くなった。
――いったい、どういう状況なのか。
しかし、私にできることといえば、カナン様をすぐにベッドまで運ぶ……それくらいのことであろう。
シェリアがフラフラとあとからついてくる。
カナン様をベッドに寝かせると、シェリアも床に倒れ込んだ。
「シェリア!」
「ケーキ……もう……食べられない……スヤア……」
シェリアは倒れ込んだが、口元は緩んでいる。
魔力を使いすぎて、寝ているだけのようだ。ホッとしながら、ひとまずカナン様の横に寝かせる。
寝室には寝具が一組しかない。シェリアと私はいつも一緒に寝ているのだ。
「カナン様……」
右目の上に、深く大きな傷がある。この様子では、失明は免れないかもしれない。
止血が必要な傷がないかと服を脱がせてみるが、目立って大きな傷はほかにない。
塞がりかけた傷は多くあるが――彼の体を赤く染める血のほとんどは、おそらく邪竜のものであろう。
もちろん、すぐに医者を呼んでこなければいけないだろうが……それよりも今すぐに処置しなければならないのは違うことのように思えた。
「――魔力が空になっている?」
魔術師の多くは、魔力を使い強大な魔法を行使できる代わりに、生命維持に無意識に魔力を使っているという。
魔力が空になると身動きが取れなくなり、眠ってしまう……完全に空になれば命を失ってしまうのだ。
「魔力を補わなければ、命に関わるかも」
魔法陣を展開する直前、シェリアはこのままではカナン様が死んでしまうと言っていた。
もちろん目の傷はひどいが、多分放っておいた場合の直接の死因は魔力欠乏によるものだろう。
「……あっ……もしかしたら」
私は作業部屋に戻り、先ほどシェリアの周りで光っていた魔石を持って寝室に戻った。
先ほど光っていたのだ。魔石はシェリアの魔力を吸い込んでいることだろう。
――多分、父娘であるカナン様とシェリアの魔力は親和性が高いはず。
魔石をカナン様の上に散らばすと、虹のような光が室内を照らした。
その光は、カナン様に吸い込まれていく。
苦しげだった彼の呼吸が穏やかになっていった……。
「魔力については、これでなんとかなるはず」
次は医者を呼んでこなければなるまい。
変わり者ではあるが、村には腕の良い医者がいる。
私は医者を呼ぶため、部屋を飛び出すのだった。
248
あなたにおすすめの小説
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
幼馴染同士が両想いらしいので応援することにしたのに、なぜか彼の様子がおかしい
今川幸乃
恋愛
カーラ、ブライアン、キャシーの三人は皆中堅貴族の生まれで、年も近い幼馴染同士。
しかしある時カーラはたまたま、ブライアンがキャシーに告白し、二人が結ばれるのを見てしまった(と勘違いした)。
そのためカーラは自分は一歩引いて二人の仲を応援しようと決意する。
が、せっかくカーラが応援しているのになぜかブライアンの様子がおかしくて……
※短め、軽め
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる