英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら

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再会と家族の物語 3

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「先生、ありがとうございました……」
「珍しいモノを見せてもらって感謝する。だが……邪竜が与えた傷は深く、高い魔力を持つ英雄であっても視力は戻るまい」
「……このことは」
「騒ぎに巻き込まれるのはごめんだ。それに英雄に睨まれるのも」
「ありがとうございます」

 医者の名は、リーベルン先生という。
 紺色の髪と銀色の瞳を持つ彼は、王都で名を馳せた医者だったという。
 しかし、王都での人付き合いに嫌気がさして、雪深いこの地に来たらしい。

「……彼の子だったか」
「ええ」
「君の叔父上はまだ帰らないのか」
「――自由な人ですから」

 私がこの地に来たのは、叔父を頼ってのことだ。
 魔石を扱う商人である彼は、自らの能力で金を稼ぐことを至上と考えている。
 まさに商人。貴族らしからぬ人だ。
 一族では変わり者扱いされていた叔父は、しかし魔力がないという理由で私のことを蔑んだりしなかった。

 カナン様は帰ってきたら私を妻にすると言ってくれたが、最期のわがままだとも口にした。

 彼が戦場に旅立ち頼るものがなかった私だが、カナン様の子を授かったことを家族に告げなかった。
 伝えたところで、魔力が高い証拠でもある紫の瞳を持って生まれたシェリアは私から奪われ、大金と引き換えに魔塔に預けられてしまったことだろう。
 かつてのカナン様がそうであったように……。

 それに、カナン様に求婚し、もし邪竜を倒したら結婚すると言い続けている第五王女殿下が黙っているはずもない。娘ともども命を狙われる可能性がある。

 ――だが、子どもができるとは夢にも思わなかった。

 一般的には、魔力の差がありすぎると、子どもができにくいと言われている。
 もちろん、魔力が全くない人間と、魔力が強く全属性を持つ人間は歴史上でも数が少なく、二人が結ばれたときに子どもができるか否かの資料は残されていない。
 だが結論として、私とカナン様はたった一夜の契りでシェリアという娘を授かった。

 邪竜との戦い。人は勝てないだろうと誰もが思ったが……王国最高の力を持つカナン様が戦線に加わってからは、状況は好転した。
 それでも、邪竜を倒すまでに多くの人命が失われ、四年もの月日を必要としたのだが……。

「目の傷はこれで隠すといい」
「ありがとうございます」

 リーベルン先生は、私に黒い眼帯を渡した。
 カナン様が失ったものは大きい。
 魔力の大半は目に宿る。魔力が高い者の特徴でもある紫色の瞳を失った彼の魔力は、半減したことだろう。

 ――それでも、彼が未だ全属性を扱える王国最強の魔術師であることは疑いようもない。

「……ふう」

 想像もしなかった出来事が立て続けに起きて、少し疲れてしまったようだ。
 けれど、魔石を鑑定して納品する期限が迫っている。
 夕方には納品する必要があるが、もう昼過ぎだ。カナン様とシェリアが並んで眠っているのを確認し、私は作業部屋へと向かった。

 * * *

 私には魔力がないが、魔石を鑑定する能力は高い。
 魔石を覗き込む。
 先ほどシェリアの魔力を吸い込んで光り輝いていた魔石は、今は光を失っている。

 実は魔石の良し悪しの判別には、魔力が必要ない。
 必要なのは、宝石としての価値の判断に近い鑑定能力だ。

「……ひび割れてしまっているわ」

 純度が低い低品質の魔石は、シェリアの魔力に耐えきれなかったようだ。
 不純物が含まれているあたりでひび割れてしまっている。
 私は低品質の魔石を弾いて、隣の魔石を手にした。

「まあ……すごいわね」

 珍しいことに二つの属性を持つ魔石だった。
 青と緑色のグラデーション……水と風の属性を持っている。
 複数の属性を持つ人が珍しいのと同じくらい、複数属性を持つ魔石も珍しい。
 それでも、二つくらいまでは時々見かけるが、三つ以上……ましてや全属性ともなれば宝物扱いされるレベルだ。

「――なんとか間に合ったわね」

 すべての魔石の鑑定を終える。
 今回は高品質の魔石が多かったようだ。

 そのとき、来客を告げるベルが鳴った。
 おそらく魔石を受け取りに来たのだろう。
 間に合って何よりだ。私は魔石を皮袋に詰めて、玄関へと向かう。
 だが、そこにいたのは予想とは違う人物だった。

「ノーランドさん。どうして……」
「父さんが腰を痛めてね。代わりに僕が受け取りに来たんだ」
「そうでしたか……」
 
 私はジリジリと後ろに下がった。
 ノーランドさんは、魔石問屋の一人息子だ。
 皮袋を持った手が掴まれる。ゾッと背筋が粟だった。

「それで、考えてくれた?」
「結婚の申込みでしたら、お断りしたはずです。私には家族もおりますし……」
「母と子だけで生きていくのは大変だろう? 娘を連れてきてもいいと言っている」
「……」

 ノーランドさんは私に懸想して、断っているにもかかわらずしつこく求婚してくる。
 特に、叔父が不在のときには、家にまで上がり込もうとすることがあった。

「魔石はお渡ししました。今日はお引き取りください」
「いや……今日は絶対に色良い返事をもらう」

 壁に押し付けられる。
 押し除けようとしたが、力が強く身動きが取れない。

「君の叔父がいないうちに」
「……っ、カナン様」

 思わずカナン様の名を呼んでしまった。
 今まで、決して口にしないと決めていたのに。

「……俺の妻に手荒な真似をするのはやめてもらおうか」

 低い怒気を含んだ声が響き渡る。
 顔に真新しい傷を持つカナン様の姿か、それともありありと浮かんだ敵意に驚いたのか、ノーランドさんが私から離れた。

「――誰だ貴様」
「カナン・オルト。名前くらい知っているだろう」
「こんな場所に、英雄がいるはずが」
「いるさ。俺は彼女の夫になる予定? で、多分……可愛い娘? の父親? ……なのだから」

 口にしながらも、カナン様の言葉は疑問でいっぱいという雰囲気だった。
 だが、その雰囲気もすぐに猛々しい魔力に塗り替えられる。

 カナン様が杖を手に小さな魔法陣を描き出した。
 そこから雷が現れてノーランドさんの体にぶつかった。
 相当痛そうだったし、普通は魔法をこんなに簡単に使うことはできない。

 ノーランドさんは、青ざめながら逃げ出して行った。

「はあ……君はいつもこんな目に遭っていたのか?」

 先ほどまでは平静を装っていたようだが、彼の息は荒く弾んでいた。
 カナン様は本来であれば、もっと眠っていてもおかしくないはずだ。死にかけていたのだから……。
 しかも、こんな状態で魔法を使うなんて。

「どうして無茶したのですか!」
「大丈夫だ……それよりも、君の話が聞きたい」
「……ええ」
「それとも、これは死に際の夢? かな? どう見ても俺にそっくりな魔力に、見た目は君そっくりの可愛い子ども? 夢か……? 夢に決まってるな……」

 彼は邪竜すら相手にできる王国最強の魔術師であり、国王にすら膝をつかなくて良いとお許しを得ている。
 どんな女性にも靡かず、王女の求婚すら断ったという……部下思いではあるらしいが、その指導は苛烈で恐れられているらしいとも……。

 だが、私の前の彼は、どちらかというと可愛いし、自信がない。
 ――相変わらずだな……と思っていると、強く抱きしめられていた。
 懐かしさに胸が締め付けられる。私も彼のことを抱きしめ返していた。

「あ~! お父さまとお母さまが仲良し! ずるい!」

 シェリアも目を覚ましてきたようだ。
 彼女の言葉に、私たちは慌てて互いに距離をとるのだった。
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