英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら

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英雄魔術師様とのシークレットベビー

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 ――ときは三年前に遡る。

 出産は家で行われた。
 医者のリーベルン先生をはじめ、村の女性たちが総出で助けてくれた。
 そのおかげもあって初産であったが、私は無事に出産することができた。

「……可愛い。でも」
「おめでとう」

 叔父様が感極まったとでもいうように、目頭にハンカチを当てている。
 生まれた子どもは、あの夜にカナン様と夢を語り合った通り、シェリアと名付けた。

 淡い茶色の髪は私に似ている。
 黒髪はとても目立つからその点については安心だ。
 問題は、カナン様と同じ紫色の瞳だろう。

「大丈夫だ。この場所には、魔力が高い者が多い。紫こそ珍しいが、緋色の瞳を持つ者もいる。それに俺の瞳は金色だから、姪である君の娘が紫色の瞳を持つことだってありえるだろう」
「ええ……」
「それより今は、新しい命の誕生を祝おうじゃないか」
「……っ、その通りですね!」

 叔父様は、私とお揃いの淡い茶色の髪をしている。
 叔父様は魔力が高く、瞳は金色だ。
 確かに叔父様の言う通り……瞳の色が紫色で魔力が高いことが周囲にわかってしまうとしても、今この瞬間私にできることはシェリアが無事に産まれたことを喜ぶことだろう。

「――カナン様」

 彼との一夜は、お互い慣れていないもので、うまくいったとは言い難いが……。
 目の前で火がついたように泣いている赤ちゃんは、彼にもよく似ている。

『もう、君に会えないかもしれない』

 最期のわがままだと、私に縋るようだった彼は、もう戻ってこないかもしれない。

 戻ってきたとすれば、邪竜を倒した救国の英雄になっている。
 王族と結婚し、たった一夜情を交わした相手など忘れてしまうかもしれない。
 どちらにしても、この小さい命を守るのは私の役目なのだ。

「私が守るから」

 あの日、私は決意した。
 シェリアのことは、平凡であっても幸せな子どもとして過ごさせると。
 しかし……乳児のうちから彼女はすでに魔術の天才としての片鱗を見せ始めた。

 * * *

「よしよし……って、地震!?」
「ふえぇぇぇん」

 夜泣き……どの子も泣くのである。知識としてはわかっていた。

「え……でも、待って、長すぎるわね」
「ふえぇ……」

 しかし、彼女が泣き止むと同時に、揺れはすっかり収まった。
 そのときは、偶然かな……? と思ったのだが……。
 次の夜も、その次の夜も同じことが起こった。

「この子が揺らしてる?」

 魔力がこもった彼女の泣き声は、家中の家具を毎晩グラグラ地震が起きたごとく揺らした。
 しかもその揺れは、日を追うごとに強くなっていった。
 これについては、揺れを抑えるために金具で家具を固定したことでなんとか解決し、さらに一月ほど過ぎたところで、パタリと揺れなくなった。

 魔力は器である身体の成長とともに大きくなっていく。
 大抵の場合、大きな魔力が発現するのは七歳くらい。
 しかし、成長とともにシェリアの魔力はどんどん強くなっていった。

 * * *

 どうしても最後まで聞かせてほしいと言って譲らなかったカナン様が、ため息をついた。

「なんだそれは……」
「大袈裟に聞こえるかもしれませんが」
「違う。俺が赤子の時に起きた出来事そのままだ」

 カナン様は、そう言って項垂れた。

「君との間に子どもができたらいいと思っていたが……願いが叶うとは思ってもみなくて……話しておくべきだった。いらぬ苦労をかけてしまった」
「いいえ、あんなに幸せな日々を送ったのは初めてのことでした」
「申し訳ないと同時に羨ましい……」

 彼の右目は黒い眼帯で覆われている。
 もしかすると、彼のことを恐れる人は、以前より増えるかもしれない。

 私は彼の手にそっと自分の手を重ねた。

「――これからは、一緒にいてくださいますか?」
「君がいいと言ってくれるなら」
「ふふ、もちろんです」

 私たちの手の上に紅葉のような小さな手が重なった。

「シェリ~の か ぞ く !!」

 明るい声に、カナン様が口元を緩めた。

「君のことは、俺が守るよ」
「そうなの……? でも、お目目痛いでしょう? 痛いの痛いの飛んでいけ!」
「はは、ありがとう。シェリア」

 先ほどからずっと、シェリアの頭には白銀の精霊マリルがいる。

「マリルもお父さまを守りたいって!」

 カナン様が残された目を見開いた。

「……光の精霊の名前?」
「……カナン様」
「邪竜のせいで光の精霊が力を失っていたからといって、名前は俺でも……」
「そ~なの?」
「……ああ。このことは、誰か知っているのか?」
「――いいえ。それに全属性あることが先ほどはっきりして……」
「そうか……」

 カナン様はため息を堪えたように見えた。
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