夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第1章

兄の訪問

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(こんなに出掛けるのが遅くなってしまっては、アシェル様が帰るのはきっと真夜中……もしかしたら帰って来れないかもしれないわね)

 庭の薔薇を摘んで棘を取り花瓶に生けながら考える。

(アシェル様がお好きだと言っていたから、毎朝新しい薔薇を飾っているけれど、これも無意味かしら)

 今日の薔薇は赤からピンクに色を変えるグラデーションだ。
 思えば、結婚してすぐに迎えた17歳の誕生日に薔薇の花束を贈ってもらったのが始まりだった。

 男性から花をもらう経験が初めてだった私は、大層浮かれたものだ。

(あら、でもこんなにたくさんの薔薇が咲き乱れているのに楽しむ人がいないのはもったいないわね……)

 薔薇が咲き乱れる庭でお茶会を開こうかと思い立ち、早速部屋に戻る。ベルを鳴らすと、セバスチャンが現れた。

「セバスチャン」
「はい、奥様」

 執事長であるセバスチャンのいつもながら完璧な佇まいに密かに感心しながらニッコリ微笑む。

「お茶会を開こうと思うの。アシェル様のお仕事に差し障りなく、末永く仲良くできそうなご夫人はいらっしゃるかしら?」

 アシェル様のお仕事に関連していないなら、もし離婚ということになっても仲良くできるかもしれない。

「そうですね……リーティア・ミリアリア公爵夫人はいかがでしょうか」
「ミリアリア公爵夫人……。王弟殿下のご夫人じゃないの。そこまでアシェル様は派閥への影響が強いの?」

 まさか、王弟殿下であるミリアリア公爵のご夫人の名が上がるとは思わず動揺してしまう。
 
「アシェル様の奥方であるフィリア様と近づきたい貴族家は星の数ほど。アシェル様の仕事に差し障りないとなるとあとは……第三王女殿下でしょうか?」
「公爵夫人や王女殿下をお呼びするなら、準備に時間をかけないとね」

 アシェル様は、伯爵なのだからセバスチャンからは同じ伯爵家、又は子爵家のご夫人を勧められると思っていた。

(……お茶会の準備は進めるにしても)

 今まで、お茶会のお誘いは山ほどあったけれど、厳選されたものしか私の手元には届かなかった。

「……これからは、私宛に届いた招待状には全て目を通すわ。忙しいでしょうけど、いろいろ教えてもらえるかしら?」
「もちろんです。しかし、奥様は本来であればまだ学園に通っておられるお年です。慌てる必要はございません」
「ありがとう」

 両親を早くに亡くしてから、兄たちは私に対してとても過保護になってしまった。
 辺境伯領は王都から遠く、領地を離れて王立学園に通うことは許されなかった。
 そうこうしているうちに、隣国の王子殿下の花嫁候補の打診がかかり、それはもう忙しくなってしまったのだ。

(王都に来たとき、お兄様たちがつけてくれていた教師たちが一流揃いだったことを知って驚いたわ)

 領地にいたときに比べて、穏やかな1年を過ごしてしまった。このお屋敷は本当に居心地が良い。

「おや、来客でしょうか。騒がしいですね」
「引き留めて悪かったわ。どうぞ仕事に戻って」
「はい、それではいつでもお呼びください」

 セバスチャンが慌ただしく去って行く。
 こんなに騒がしい音がするなんて、いったい誰が来たのだろう。

(先触れもなく……まさか)

 そのとき、少々荒々しく扉が叩かれた。
 
「どうぞ」

 声をかけると、勢い良くドアが開いた。
 歩み寄ると、そこに立っていたのは見上げるほど高い背と屈強な体、輝かんばかりの金色の髪を持つ美丈夫だった。

 私とお揃いの空色の瞳が見下ろしてくる。

「久しぶりだな、フィリア!」
「カインお兄様、先触れもなくどうなさったのです」
「それは……」

 現れたのは、辺境伯家当主であり、国境を守る辺境伯騎士団騎士団長でもあるカイン・フォルス……つまり私の上の兄だった。

 
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