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第2章
茶器の価値と溺愛
しおりを挟む「第三王女殿下、ミリアリア公爵夫人、来席いただいたことまことに光栄です」
「ええ、お招きいただきありがとう」
豊かな金色と青い瞳が太陽の光を受けて輝いている。
森をイメージしたお茶会であることはあらかじめ伝えてあったから、今日の第三王女マリーナ・ミラバス殿下は上品なブラウンのドレスだ。
白い小さな花が散らされてとても可愛らしい。
「素敵なお茶会ね」
「ありがとうございます」
「今、自然を取り入れたお茶会を開くのが流行り始めているの。さすがね」
「……はいっ!」
一方、ミリアリア公爵夫人は赤みのある茶色の髪と緑色の瞳で本当に森の中の妖精のようだ。
白いドレスにあえて綿レースを使い、可愛らしく爽やかな印象だ。
流行の最先端、今回のテーマの発案者をチラリとうかがい見る。
彼女はすでに輪の中心にいる。
(ランディス子爵令嬢はそこまで計算していたのね……色合いを合わせるだけでなく流行も取り入れる。とても勉強になったわ)
そこかしこに飾られた花には、グリーンが多めに使われている。
焼きたてのお菓子とすがすがしい新緑の香りが漂う……香りまで完璧だ。
「ランディス子爵令嬢!」
第三王女殿下がランディス子爵令嬢を呼んだ。こちらを振り返り、周囲の令嬢たちに文官風の立礼をすると、ランディス子爵令嬢がこちらへと歩んでくる。
「久しいですね。全開のお茶会以来だわ」
「このたびは、ベルアメール伯爵夫人のご好意により参加させていただきました」
「このお茶会、あなたも協力したそうね」
「……成り行きで、いいえベルアメール伯爵夫人にはいつもよくしていただいてますので」
ランディス子爵令嬢が金色の目を三日月に細めた。
よくもらっているのは私のほうで、しかも強引にお願いしたのだ。最初のほうに本音が出ていたことには気がつかなかったことにしよう。
この国の女性たちの中で高位に位置する二人と、女性初めての文官。
彼女たちに囲まれるのは平凡な私。
(いいえっ、アシェル様のためにも頑張るの!!)
三人のサポートのおかげもあり、お茶会は、和やかな雰囲気で進行していった。
けれど、お茶会の主催者としてお茶を注ぐにしてもあまりの緊張で手が震えてしまう。
「あら、シャムザールの茶器はとても人気があるけれど、ここまで素晴らしい物は滅多にてに入らないわ」
「……ええ、夫が紅茶の交易に関する条約を新たに結んだときに、友好の証としてシャムザールの王族から譲り受けた物ですわ」
「まあ……通りで」
そう、私が今手にしている茶器は、先日アシェル様が条約が無事締結された記念にとシャムザールの王族から賜り、持ち帰ってきた物だ。
(東の国シャムザールの紅茶が飲めるのは、アシェル様の功績が大きいとは聞いたけれど……)
先日、宝物庫にしまわれる前に執事長のセバスチャンからその価値を聞いて目が飛び出そうになったのは記憶に新しい。
淡いグリーンの茶器は、国宝に指定されても良いほどの価値があるそうだ。
(なぜこれほどまでの価値がある物を気軽に!?)
だから私の手が震えてしまっているのは、慣れないお茶会の主催者としての緊張だけではないのだ。
そのとき、震える私の手に大きな手が重ねられた。
「ここからは私が代わりましょう」
「アシェル様!!」
お仕事中の笑顔は大人びていてとても素敵だ。屋敷では私に甘くて時々子どもっぽい素顔を見せる人と同一人物とはとても思えない。
「まあ、ベルアメール伯爵。仕事が忙しかったのではなくて?」
「はは、殿下をおもてなしする以上に大切なことなどありましょうか」
「ふふっ、妻にもそれくらい大人の態度を見せれば惚れ直してもらえるものを」
「……妻に、惚れ直される」
たぶん今、アシェル様は素の表情になっているのではなかろうか。
そんなことを思っているうちに、アシェル様はお茶を注ぎ終えた。
私の横に立ったアシェル様は、すでにお仕事中の大人びた笑みを浮かべていた。
しかし、会場中の視線がなま温かく私たち二人に向けられていることには、もちろん私でも気がつくのだった。
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