穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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2年2学期

18話:他校交流会、秋の始まりと最悪な出会い③

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「フレン!!」
「え……?」

 突然体が宙に浮かんだと思ったら、見慣れた白黒前髪が目に入り、俺はルカにお姫様抱っこの姿勢で抱えられていた。

「ルカ……?」
「……フレン、帰ってこないから……」

 その一言で俺はルカを待たせて買い出しに出掛けていたことを思い出した。せっかく買ったドリンクはすっかりぬるくなっている。

「ごめんルカ……心配かけたよね」

 ルカを励ますために出かけたのにこれじゃ本末転倒だ。

「フレンって言うんだ……響きが可愛くて君にピッタリ」
「……誰?」

 場違いな笑顔でそう言うジンに、容赦なく魔力圧をかけるルカ。

「俺はジン、学園演劇の監督兼、魔術発表会演出アドバイザー……そして、フレンの恋人候補」
「は?」
「……っ!?」

 ジンが何を言ってるのか全くわからない。あまりの荒唐無稽な発言に俺を抱えてるルカの体も強張っている。
 いや、違うこれはもしかして怒ってる……?制服から覗くルカの腕には血管が浮いていてかなりの力がこもっているのがわかる。

「うーん……今日はここまでかな?またね、フレン。今度はもっとゆっくり話したいな」

 数メートルは先にいたはずのジンが、一瞬で顔が触れ合う距離に来て俺に耳打ちする。そして青筋を立てたルカがその鼻っ面に攻撃を放つ寸前、彼は影のように消え、その場には俺とルカだけが残された。

 あまりに突然の出来事に未だ現実感がないけど、俺はこの不愉快な記憶を早めに忘れたくて、まだ俺を抱きしめて離さないルカに

「ドリンクぬるくなっちゃったし買い直してくる!ごめんね……そろそろ下ろしてくれる?」

とお詫びの言葉を伝えつつ、気持ちを切り替えようと思ったんだけど

「…………」

ルカは完全に無言のまま俺の事を降ろしてくれなかった。

「ルカ?」

 俺が聞こえなかったのかな?と再度口を開きかけた時

「……今日はもう……フレンと離れたくない」

とルカが腕に力を込めて一言呟く。結構1人にさせてしまった上、演劇の内容のこともあったし、今日はルカのメンタルも不安定なのかも。

 ルカは俺より上背がある上、身体能力の高い竜族だ。彼に離す意思がない以上非力な俺が自力で姫抱きから抜け出すのは難しいし、結局俺が根負けしてこの格好のままぬるくなったドリンクを飲むことにした。

「……さっきの……あれ」

 近くにあったベンチに腰掛けながら、俺を抱えたルカが口を開く。俺的には正直蒸し返されたくはないんだけど、ルカから俺が話すまで納得しないといった視線を感じて端的に説明する。

「よくあるナンパ。夏星祭の時もあったじゃん?俺が可愛いのは事実だけど、しつこい人も多くて困るんだよね……」

 俺はジンと話してた内容には触れず、よくある事として話を流す。ルカは納得したのかしてないのかはよくわからなかったけど、それ以上は聞かれなかったのでそこでこの話題は終わった。この気まずさを誤魔化すために俺はドリンクに口をつけたけど、ぬるくてドロリとした甘さが妙に舌に残って、却って気持ちが落ち着かない。

「疲れちゃったし、そろそろ帰ろ?」

 姫抱きのまま見学を続けるのは流石に恥ずかしいし、レポートに書けるくらいの見学は終わっていたので俺はルカに帰宅を促す。

「……うん」

 ルカも異論はないようで、そのまま俺達はルナソールを後にする事にした。

 ……今更なんだけど、俺この格好のまま学園まで帰るの?それはちょっと恥ずかしいかも。

 ◇

 その日の夜、俺は1人でいる気になれなくて寮の談話室で他校交流会のレポートを書いていた。

「ルナソールはどうだった?」

 振り向くとお盆を持ったクロードが立っていて、そのまま温かいお茶の入ったカップが目の前の机に置かれる。

「んー……なんというか、色々すごかった、かな」

 いいことも悪いことも含めて、色々。

「俺も気になってはいたんだが、コースでの推奨が違う学校だったからな」

 クロードもレポート用紙を広げる。そこには剣術で有名な学園の名前が書いてあった。

「クロードのところはどうだった?剣聖には会えた?」

 剣聖は国で一番の騎士に与えられる称号だ。クロードの見学した学園にはたまに臨時講師として顔を出してるという話は有名だった。

「ああ、一度手合わせしてもらった……と言っても、凌ぐので精一杯だったけどな」
「えっ凄い……断られるって有名なのに」

 剣聖ともなると手合わせしたい人なんてそれこそ星の数ほどいる。でも今代の剣聖はあまり人付き合いが好きじゃないらしくってほとんど断ってるというのは戦闘職志望じゃない俺でも知ってる話だった。

「一度カリキュラムで挨拶した事があったから、向こうから声をかけてくれたんだ」

 それって尚更凄くない?と俺は思ったんだけどクロードは特にそれをひけらかすこともなく続ける

「とても勉強になったよ、行ってよかった。ところで……」

 群青色の瞳が俺の事をまっすぐ見つめる。

 (あ、これは……)

「フレン、ルナソールで何かあったのか?」

 人生の殆どを一緒に過ごしてきたクロードには隠し事ができない。はぐらかしたつもりだったけどこれ以上の誤魔化しはできないと思った俺はできるだけ簡潔にことのあらましを話した。

「……てことで、学園演劇は凄くよかったんだけど……ルカにとってはよくない題材だったかもって後悔と、その監督が最悪のナンパ野郎で気持ち悪かったって感じ」

 ジンとの会話の内容とかはぼかしたけど大体正直に白状する。モヤモヤしてたけど、口に出すと意外と小さいことのような気がして少し楽になった。

「やっぱり今年も一緒に行ったほうが良かったか……」

 俺の話を受けて、クロードが眉根を寄せて呟く。確かに去年はクロードと一緒にいたおかげで今回ほどタチの悪いナンパはされなかった。

「ううん!クロードが行きたいところ行けて俺は良かったと思う!俺のはまあ不幸な事故ってだけだし」

 だけど、俺は俺が楽に見学できるよりクロードがやりたいことができたって報告の方が嬉しい。だって親友ってそういうものでしょ?

 クロードはまだ少し何か言いたげだったけど、俺の持っていたパンフレットを見て、演劇の話に触れてくれる。俺は監督の件は置いておいて素晴らしい出来だったそれの感想を思いっきり聞いてもらい、少しすっきりした気持ちでレポートを完成させて部屋に帰ることができた。

 凄く疲れたこともあったけど、課題も終わったし結果的には秋の初めにふさわしい1日だったと思う。
 来たる来月の文化祭に想いを馳せて俺はベッドで静かに目を閉じた。

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