穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

文字の大きさ
17 / 131
2年2学期

17話:他校交流会、秋の始まりと最悪な出会い②

しおりを挟む
「さっきの会場もすごかったけどこれは流石に凄すぎない……?」

 ルナソールの文化祭の目玉、学園演劇の会場は大講堂だった。
 講堂というより、コンサートホールと言った方がしっくりくるそこは、広大な面積に高級感のある座席が所狭しと並んでいるにも関わらず、そのほとんどが満席だった。俺とルカはなんとか端っこの席に滑り込んで劇の幕があがるのを待つ。

 とにかく凄いとだけ聞いたから今年の演目は知らないけれど、この観客の多さからきっと面白いのは間違いない。これが学校行事の一環だって事を忘れそうになりながら舞台を眺めていると会場全体を包み込むファンファーレが流れ込んでくる。荘厳な音楽に包まれて舞台装置の馬車が走り出し物語の幕が上がった。音響魔法のレベルも高く、まるですぐ近くで馬車が走っているかの様な臨場感が気分を高揚させる。

 読み上げられたタイトルは外国語で、なんていう意味なのかわからなかったけれど冒頭から引き込まれる演出の連続でそんな事はすぐ気にならなくなった。

 もし俺に外国語の教養があればその時に分かったのかもしれない。――物語の中盤に明かされる、暴君として君臨していた男の正体が邪竜だって事を。

 ◇

 舞台上の勇者が邪竜討伐を口にした瞬間、まずいと思った俺は横のルカの顔を仰ぎ見る。

「……あれ?」

 いつもなら邪竜という言葉が出るだけで魔力圧が抑えられなくなるルカが大人しく舞台を眺めている。俺はルカに何か声をかけようとも思ったけれど、観劇の邪魔になると悪いし、結局何も言わずに舞台に視線を戻した。演劇はとてもよく作り込まれていて、ルカのことは気になりつつも、気が付けば内容に没頭し、そして涙していた。
 討伐対象の暴君である邪竜が彼を鎮める聖なる乙女と出会い、恋をして素晴らしい聖竜として王国を繁栄に導くクライマックスは、それまでの邪竜の苦悩や苦しみが報われた完璧なハッピーエンドだった。

 舞台の幕が降りた後も俺を含めた多くの観客が席を立たず拍手を続けていた事がこの劇の素晴らしさを物語っている。
 俺はこの感動を語り合いたくて隣のルカに

「すごくいい話だったね……俺感動して泣いちゃった」

と話しかけたんだけど

「…………聖女じゃない、あれは……」

何が気に入らなかったのかルカは眉間に皺を寄せ小さな声で何かを呟いていて、それには答えてくれなかった。
 ハッピーエンドではあったけど、やっぱり邪竜討伐の話が出てきたから嫌だったのかも。悪いことしちゃったかな?そう思った俺はルカの機嫌を回復させる為、ベンチを探した。ルカに席を取っておいてもらって俺が買い出しに行けばその間に少しは落ち着くかなって思ったから。俺はルカにそれを一言伝えた後、1人出店に足を向けた。

 ◇

「1番甘いやつください!」

 俺が並んだ出店はドリンク系の中でも1番列が長いところだった。こんなに並んでるなら美味しいはず。ルカは甘いものが好きだしきっとこれで少しは元気になってくれるよね。
 そう思って2人分のドリンクを持って足早に歩いてると後ろから声をかけられる。

「ねえ君、すごく可愛いね、ちょっと俺と話さない?」

 声だけでわかる軽い気配に俺はため息をつく。
 去年の他校交流でも少し経験があったけどまさかこんな格式の高い学園でもナンパされるとは思っていなかった。
 愛想よくあしらう気にもなれずそのまま無視して進もうとしたら音もなく進路を塞がれる。

「無視されると傷ついちゃうなぁ……ね、少しだけいいでしょ?絶対後悔させないから」

 目の前に立っていたのは真紅の瞳をした細身の銀髪の男だった。てっきり見学に来た外部生だと思ってたけど、ルナソールの純白の制服を身につけている。

 (この学校にもこんな奴いるんだ……)

 今までのいい思い出に泥を塗られた気分だった。顔だけは綺麗だけど、声の通りヘラヘラした雰囲気と飄々として掴みどころのないこの男の態度に触発されて俺は、普段なら言わない様な言葉をつい口にする。

「放っておいて……あんたの言葉空っぽで気持ち悪い」 

 俺の声が届くと同時に男の真紅の瞳が月のように弧を描く。その表情に笑ってはいるけど内心何を考えてるかわからない不気味さを感じて俺は一歩後ずさる。

「そんな事言われたのはじめてだよ……君って可愛いだけじゃなくてすごく面白いね!ますますお話ししたくなってきた」

 かなり辛辣な言葉を吐いたつもりなのに、相手は怯むどころか余計に俺に絡んでくる。

「俺はあんたと話したいことなんてない」

 返事をした事が間違いだったかもと後悔しても遅かった。気づけば俺は完全に退路を塞がれ人通りのない小道に足を踏み入れていた。

「でも君、さっきの舞台は気に入ったんじゃない?」

 俺のポケットに入っていたパンフレットを男の細長い指が示す。

「確かに凄かったけど……それがあんたに関係あるの?」

 無視しようって思っていたのに、俺は感動に水をさされたような気持ちになってまた返事を返してしまう。

「あれの監督、俺なんだよね」
「え」

 予期せぬ最悪の告白に、思わず声が溢れた。

「今の顔すごく可愛い!ねぇ俺と話す気になった?」
「み……見え見えの嘘までついてプライドないの?」

 ニコニコと話し続ける目の前の軽薄な男と感動の舞台を結びつけたくなくて俺は彼が嘘をついているって線で行くことにした。

「嘘じゃないよ。信じて?ほらこれ」

 そうして目の前の男が差し出してきた学生証の名前とパンフレットの監督の名前は……スペルも完全に一致していた。
――ジン-アステル

「え……嘘……本当に……?」

 今まで見たどんな物語よりも感情表現が繊細で美しくて、感動したあの舞台を作ったのが目の前の最低なナンパ野郎だとは信じたくなくて、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
 その間にもジンは俺に話しかけ続け、舞台の話や演出について説明をする。
 俺はというと、体はどこも拘束されていなくて自由に立ち去れたはずなのに、ジンの少し甘さを含んだ軽い声が紡ぐ話を無視できなくて、気がついたら会話を続けてしまっていた。

 そしてこの短時間でわかってしまう。ジンは本当にあの作品の監督だと。

「泣き顔も可愛かったけど、笑った顔も見てみたいな?あと、そろそろ名前教えて?ね?」
「泣き顔……?あんたいつから俺のこと……」

 ジンから告げられた言葉に俺は違和感を覚える。今日俺が泣いたのは舞台を見た時だけだ。会場を後にした時にはすでに泣き止んでいたし、今は目の腫れも引いている。

「可愛い子って目立つからさ……俺、君を見かけてからずっと話しかけたいなって思ってたんだよね」
「……っ」

 するりと、ジンの長い指が俺の首筋を撫でる。
 触られた感触以上に、得体の知れないゾワゾワした感覚が走って体が小さく震えた。

「それに、君の場合顔もだけど……」

 いつのまにか近づいていたジンの相貌が俺の瞳と重なる。その、心の奥まで見透かされそうな深い赤色から目が離せない。

「楽しそうにしてるのに、ずっと寂しそうなのが気になったんだよね」
「……な」


 ジンの言葉に心臓を握られたような感覚が走り、俺は息を呑んだ。



 ……ずっと前から一つだけ、俺が意識的に思わないようにしていた感情があった。それは――

「さみ……しい?」
「うん、そう。……君は楽しそうに笑う時にも、いつも必ず寂しさを感じてるんじゃない?」

 そんなことない、と即座に否定するべきなのに俺は何も言えなかった。

 図星だったから。
 どうして初対面のはずの目の前の男が、俺がずっと隠してたこれを知っているのかはわからない。だけど俺は心の1番弱いところを丸裸にされたみたいでうまく取り繕うことすらできなかった。

 別に身内がいないとか、ルカみたいに人から疎外されていたわけじゃない。だけど、俺はずっと……夢魔であるせいで、自分自身ですら本当の俺がわからなくて、本当の自分を誰にも見てもらえないんじゃないかっていう恐怖を抱えていた。世間からの偏見に加えて、人の好意を操れる能力のある種族。勝手なイメージで見られる恐怖と、人から向けられる感情を信じていいのかわからない不安。

 誰にも言ったことがないし、言っても仕方ないこととして隠していた。もし両親に話したらきっと悲しませてしまうし、クロードに言っても気を遣わせるだけだ。何よりこんな事を思うのは一緒にいてくれる人に失礼だから。

 ……だけど、本当はいつもどこか孤独を感じていた。日々の生活が楽しくないわけじゃない。人といて楽しいとか、嬉しいとか感じるのも本当。だけど、ふとした瞬間に相手から本当の自分として受け入れられてるのかどうか考えてしまうのも本当だった。俺が俺である限り、付き纏い続ける、一生誰にも言わず隠し通すつもりだったこの感情。

「その寂しさ、埋めてあげようか?」

 孤独を撫でるような甘く優しい声でジンが囁く。初対面の、こんな得体の知れない相手なのに、思わず全てを委ねて頷きたくなるのは、隠していた心の奥底を覗き込まれたから?固まったままの俺の唇にジンがゆっくりと近づいてくる。俺は逃げ出すこともできず、震えながら静かに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。 ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。 最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。 乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。 見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。 **** 三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。 ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...